火と水とおまけで氷
受け止めたのはいいけれど、彼の力と私の力が強すぎて、大きな衝撃が地面に伝わった。私が立っている地面はヒビ割れ、クァルダウラの足元も大きく抉れている。もう、地面が滅茶苦茶だよ。ただの一撃が私に注がれ、私がその一撃を受け止めただけでこの有様だ。
更には斧の炎が周囲に散り、辺り一面が炎の海と化す。相変わらずクァルダウラ自身も燃えていて、その炎の熱気も周囲に飛び散っている。
気温が一気にあがったよ。真夏ですか。
「ぬぅ、あぁぁぁぁぁぁ!」
咆哮をあげながら、クァルダウラが一旦私から斧を引いた。そして大きく振りかぶると、再び私に向かって斧を振り下ろしてくる。
何度やろうと同じ事。受け止めようと思えば受け止められるけど、律義に受け止めてあげる必要はない。
私はフィールンでクァルダウラの側方に手から糸を伸ばすと、自身の身体を引っ張ってそちらに退避。斧は地面とぶつかる事となる。
その衝撃で、大地が割れた。私という緩衝材をなくした地面は大爆発。その衝撃で地震がおこった。
更に同時に炎が巻き上がり、周辺に炎が降り注ぐ。私と彼の決闘場は、大地が燃えて炎が降り注ぐ地獄と化した。
さて。斧を振り下ろしたクァルダウラの側面がガラ空きだ。隙があるのならとりあえず攻撃しなければいけない。
私はクァルダウラの鎧に手を当てると、魔法を発動させた。
「──ラグラス」
私の手から伝染するかのように、クァルダウラの鎧が凍りつき始めた。氷は留まる事をしらずにどんどん広がっていき、彼の身体を氷漬けにしようとする。
「ぬあぁぁぁぁぁ!」
しかしクァルダウラが地面にめりこんだ斧を持ち上げると、側面にいる私に向かって振りぬいて来た。上からではなく、横から来たその斧を手で受け止めてみる。
すると、身体が浮かんだ。まるでゴルフのボールように、いとも簡単に私の身体は吹き飛ばされてしまったのだ。いくらこの攻撃を受け止める力があっても、身体の軽さは変えられない。上からの攻撃なら地面に踏ん張ればどうとでもなるけど、横からの攻撃では踏ん張れないので飛んでしまった。
「──ジアスブロート!」
クァルダウラが、空の旅を楽しむ私に向かって魔法を放つ。斧で地面を打ち付けると、何かが地面の中を移動して私の進行方向に移動し、地面を突き破って私に向かって襲い掛かって来た。
それは、火の竜だった。突如として現れたその竜は、真っすぐに私に向かって飛んできて私を飲み込もうとしてくる。竜が現れただけで、周囲の温度がまた上昇。そんなのに飲み込まれたら、普通なら真っ黒こげになっちゃうんじゃないかな。
真っ黒こげは嫌なので、フィールンで地面に向かって糸を伸ばす。そして身体を引っ張って迫り来る竜を回避した。でも私が着地しようとした地面に、更に別の火の竜が地面を突き破って出現。別の場所からも、もう一体の火の竜が出現した。
「……」
合計で3体の火の竜が私に襲い掛かろうとしている。でも私が飲み込まれる事はなくて、逆に火の竜が私の触手によって飲み込まれ、消滅。
私は何事もなかったかのように地面に着地し、クァルダウラへ身体を向けた。
「……オレの奥義を、触手で飲み込んだだと?アレは鋼鉄をも飲み込み溶かす、灼熱の炎だぞ。それを飲み込み、貴様は平然としていられるのか」
「味はあまりない。強いて言うなら、焦げた味。美味しくない」
「味の感想など聞いておらんわっ!しかしアリスよ!貴様やはり、面白い!是非とも我が配下としたい!」
「……遠慮しておく。次は、こちらの番。ラグネルフ」
私はクァルダウラに向かって手を構えると、そこに青色の紋章が出現。紋章から先端がとがった氷の塊が出現すると、クァルダウラに向かって一直線に飛び出した。
でもその氷の塊はあっけなくクァルダウラの斧によって粉砕される事になる。しかしその氷の塊は触れたらいけない物だった。クァルダウラの斧が、氷の塊と触れた所から凍り始める。その侵食はどんどん進んで行き、クァルダウラの手にまで達した。
先ほど私が触れた場所の鎧も、未だ凍ったままだ。このままでは彼はどんどん氷っていき、氷の彫刻と化してしまうだろう。
「炎に対し、熱で溶ける氷の魔法を主として戦うとは良い度胸だ」
余裕をかますクァルダウラだけど、再び放った氷の塊に対しては魔法で炎の壁を作り出し、氷の塊を弾いて……いや、触れた瞬間溶けて消滅させ、触らないでやり過ごした。
「ぬおおおおおお!」
そして自らが作り出した炎の壁を通り抜け、こちらに向かって走り出す。
炎の壁の中を通り抜けた事で全身の鎧にも炎がやどり、突進の迫力を増している。
でも、大丈夫。まだ余裕がある。レベル差のおかげか、それとももっているスキルの差か……私の方が優位に戦えていると思う。
彼も言っていたけど、本来火に対して氷は強くない。完全なる上下の関係に位置する属性の魔法がそれなりに効いているからね。そこにレベル差以上の、彼と私の実力差を感じる。
さて。氷の魔法の経験値も少し稼げた事だし、戦いを長引かせるつもりもない。終わらせよう。
「──ネロエグザム」
私の頭上に紋章が出現すると、そこから水が出現した。水は竜の形をとっていて、先ほどのクァルダウラの火の竜と似たような魔法だ。
そして水の竜がまっすぐにクァルダウラに向かって飛んでいき、彼に襲い掛かる。
「……死んでも恨むなよ、アリス!」
迫り来る水の竜に対し、クァルダウラは突進しながら斧を高く振り上げた。すると、周囲の大地を燃やしていた全ての炎が斧へと集中。周囲の温度が異様にあがっていき、大地から煙が立ち込め始める。それと同時に、彼を凍らせていた全ての氷が溶けてなくなってしまった。
「レンジアデーモン!」
クァルダウラが斧を振り下ろすと、真正面へのみ集中された炎がこちらへ向かってきて、水の竜と衝突する。衝突の瞬間、水が周囲に飛び散った。だけどその水はあまりの気温の上昇に耐え切れず、一瞬にして蒸発。更に、竜自体も湯気をあげはじめて沸騰し始めている。これじゃあもう、お湯の竜だね。美味しいカップラーメンができそう。
て、ふざけた事を考えている場合じゃない。彼が放った炎は地面を燃やしながらえぐり、真っすぐな道を作り出している。その道の先にいるのは私で、水の竜がなくなったら私に直撃してしまう。
まぁまた食べちゃえばいいだけなんだけど。でもここまでの差を感じておいて競り負けるのはちょっと情けないので、水の竜に頑張ってもらいたい所。なので力をこめてみた。
「ぬぅ!?」
すると、水の竜が力を取り戻してクァルダウラの炎を押し始める。
そうなると、後はもう一瞬だった。水の竜がクァルダウラの炎を飲み込むと、炎は鎮火。そしてその勢いのままクァルダウラへと向かって行き、彼を飲み込んで吹き飛ばした。
勢いのある水は凶器となる。水の竜はクァルダウラの鎧にヒビをいれ、彼自身の身体にも大きなダメージを与える事に成功。役目を終えて消え去った。
「がはっ、はぁ、はぁ!」
それでもクァルダウラが倒れる事はなかった。全身を水で濡らし、HPを大きく減らしながらもその目には闘気が宿り続けている。
「まだ、やる?」
「っ……!」
私は彼の背後に回り込んでいた。突然の背後からの声に、クァルダウラは驚いて振り返り私を見て来る。
そしてニヤリと笑い、斧の先端を地面に刺して立たせ、自らは地面に腰をついてあぐらをかいて座り込んだ。
「全く歯がたたん!オレの完敗だっ!」
清々しい敗北宣言。彼は素直に負けを認め、闘志を喪失。闘志がなくなれば可愛いもので、先ほどまでの怖さがなくなってただの大きな人と成り下がってしまう。
こうして、クァルダウラとの戦いは終了した。火と水のぶつかりあいは、ちょっと面白かった。あとオマケで氷もね。土属性の魔法以外あまり使って来なかったので、新鮮だったよ。
それにしても、もしここでクァルダウラを食べたりしたらどうなるんだろう。相当な手練れだったし、レベルにどう影響するのかちょっと気になる。デーモンマスターのスキルも手に入ったりするのかな。たぶん手に入らないけど、食べて色々と確かめてみたい。
でも食べない。私が勝って、町は解放される。今はそれでいい。