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軍団長


 歩き出したけど、そんな私に牛の魔族──ウーゴが再び突進して攻撃を仕掛けようとした。

 その突進を、間に入ったリーリアちゃんが刀で角を受け止めて彼を足止めしてくれた。

 ウーゴは刀で弾かれ、また後方へと引き下がる事になる。今度は転ばなかったけど、新たな敵を前にして更に鼻息を荒くする。


「ピポプ。コレも魔物か?」

「リンク族と呼ばれる種族だ。人間とは仲が悪いはずのこの女も、我々を邪魔しようというのか」

「あんた、当然のように魔族語も喋れるのね。私には何喋ってるか分かんなけど、こいつら私がやっちゃってもいい?これくらいなら勝てる気がするし」


 彼らが喋っているのは魔族語なので、当然リーリアちゃんは理解する事が出来ない。やっぱ言葉が通じないと色々と大変だよね。スキルで習得しといてよかったよ。


「……任せた。私はあっちの人と、話してくる」

「了解。念のため確認しておくけど、殺したら?」

「ダメ。でも、出来るだけ。無理そうなら殺してもいい。何かあったら私の名前を呼んで。ウルスもここで待機して」


 私は2人をこの場に残し、こちらに向かい来る馬に向かって駆けだした。

 あの程度の相手なら、リーリアちゃんならきっと大丈夫のはず。先の戦争での兄弟との対決がチラつくけど、今のリーリアちゃんはあの時より更に成長している。だから信じる事にした。

 そして私は私ですべきことをしなければいけない。あの飛んできた斧の威力は、牛の魔族の突進よりも強力だった。この斧を放って来た人は、少なくとも牛の魔族よりも強い。だから私が行かなければいけない。


 少しだけリーリアちゃんから離れたところで、やってきた馬と対峙する事になった。その馬は馬と言うにはあまりに大きく、ただの馬ではない事がすぐに分かったよ。普通の馬よりも筋肉質で、剥き出しにした歯はギザギザに尖っており、私を威嚇してくる。

 めっちゃ怖い。何この生き物。


「──魔物、貴様この地に何の用だ」


 でもね、もっと怖いのがその怖い馬に乗っているんだわ。

 馬も中々に巨大なんだけど、馬にまたがっている人も巨体だ。身長はゆうに3メートルくらいあるんじゃないかな。黒い鎧で身を包み込んでいて、それだけで中々の迫力がある。

 でも顔はもっと迫力があって、直角なんじゃないかってくらい角度のついた眉毛と、眉間のシワ。瞳は赤く輝いており、その目に映した者をもれなく威嚇する。馬と同じように剥き出しにした歯はギザギザで、噛まれたらとても痛そう。顔には赤いラインが入っているんだけど、傷や刺青という訳ではないね。白髪の髪の間から出た2本の角は真っすぐ上に向かって生えており、ただでさえ大きな身長を水増ししている。


 名前:クァルダウラ 種族:デーモン族

Lv :1677  状態:普通

 HP:44229  MP:7010


 『クァルダウラ』習得スキル一覧

 ・火炎従属

 ・デーモンマスターLv3

 ・怪力Lv4

 ・言語理解:魔族語


 スキルはあまり多くないけど、デーモンマスターに色々と詰まっている。全ての属性への耐性は勿論、弱体系にも耐性を持つとある。その上で筋力関連が大幅に上昇するんだと。

 ただでさえ大きな身体で力がありそうなのに、デーモンマスターと怪力のスキルによって更に筋肉ムキムキって事だ。

 火炎従属は、炎を操る事が出来る力らしい。彼に対して炎属性の攻撃は無駄となる。もし炎で攻撃しても、彼に操られて終わり。てな感じになりそう。

 幸いにも、私よりレベルは低い。それでもそのレベルは、異様ともいえる強さだ。洞窟の外で、神様関連の人以外の最高レベルを更新したよ。やったね。


「……あの町の包囲を、といてほしい」

「その前に……そうは見えんが、念のために確認しておく。貴様、神の使者か?」

「違う」


 私は即答した。


「ならば何故邪魔をする。邪魔をする理由を言ってみろ」

「あの町を、魔族の手から守る約束をしたから」

「約束を守るため、か……。それは感心だが、あまりにも無謀だぞ魔物。我ら魔族の軍勢は、その数五万。主要な幹部も同伴している。貴様に勝ち目はない」

「そうでもない」


 彼と私のレベル差は、およそ400。そこそこあるので、彼がこの軍団の中で一番強い存在というなら、負ける気がしない。

 その余裕を見せるかのように、私は触手で抱えていた斧を彼に投げて返した。その巨大な斧を、彼が手で受け取ってニヤリと笑う。


「確かに、このオレが投げ放った斧をいとも簡単に受け取った実力者だ。腕に自信があるのだろう。それからあの、魔法の攻撃。本来であればあの魔法を奇襲とし、一気に我らの数を減らす方法もあるのにそうはしなかった。貴様が我らとの衝突を望んでいるのではなく、撤退を望んでいる事が良く分かる行動だ」


 私は神妙に頷いてこたえた。

 まぁ本当はただ、偉そうなおじさんにビビってるだけなんだけどね。それでなるべく殺さず、穏便に解決しようとしている私がここにいる。


「……ふむ。良いだろう。貴様には、武人としての義を感じる」

「包囲をといてくれるの?」

「ああ。しかしタダという訳にはいかん。あの町を包囲する軍団の長である、このオレに勝ってみせろ!勝てば貴様の要求を呑み、包囲を解いてやる!」


 デーモンのおじさんが、そう宣言しながら馬からおりた。それだけで、ズシンと重い音がして地面がへこむ。

 それから私が返した斧を構えてその先っぽを私に向けて来る。

 馬はこれから戦いが始まろうとしているのを察したのか、最後に私を睨みつけると一人で勝手に走り出して去って行ってしまった。


「本当に?嘘ではない?」

「本当だ。嘘はつかん」

「……」


 いや、本当かなぁ。怪しい。怪しすぎる。

 だって、この人に勝てばあの大軍勢を退かしてくれるって言うんだよ。信用できる?


「疑っているのか?このオレを。安心しろ、魔物。このクァルダウラ。魔族の中で約束は守る漢として通っている。貴様との約束も必ず守ろう」


 その、約束を守ると言う保証がないから疑っているんだけども……。

 でもまぁ、信じてあげようじゃない。


「……私が負けたら?」

「そうだな。オレの部下になる、という事でどうだ」

「面白い。それでいい」


 負けるつもりは一切ないけども、敗北時に互いが差し出す物が決まった。

 そしてその条件を聞いて、なんとなくこの人は約束を守ってくれそうな気がした。もっと下衆な事も要求できるのに、そんな面白い事を要求して来るような人だ。きっと約束も守ってくれるはず。


「では名乗るが良い、魔物!我が名はクァルダウラ!魔族軍が第三軍の軍団長を務めし、デーモン族の長である!」


 声がデカすぎて、まるで空気が震えているような迫力がある。ただの自己紹介だけど、相手を威嚇するという意味ではもう戦いが始まっている。


「……アリス」

「うむっ!アリス!存分に戦い、悔いのないようにしよう!では──」

「いつでも、どこからでも」


 私の返答をきき、クァルダウラの足元の地面が大きく抉れた。足に力をいれて踏ん張り、私に向かって一歩踏み出しただけの行動だ。

 その地面に、火がついた。更に、彼の口から火が溢れ出す。同時に、目にも火がついた。そして最後に手にもった斧にも火がついて、その斧を振り上げながら私に向かってくる。


 こわっ。見た目的に、すごい怖い。みんな、覚えておいて。怖いって言うのは、こういう人の事を言うんだよ。例え目の前で物凄い数の人を吹っ飛ばす魔物がいたとしても、見た目が可愛いんだからそんなに怖くない。

 でも目の前の魔族は、何もしなくても見た目だけで凄く怖い。なんかもう、勝てる気がしない。そんな絶望的な怖さ。


 でも私の方がレベル高いんだよね。残念な事にさ。


 だから私に降り注いできたその燃える斧を、私は片手で受け止めると斧がピタリと止まった。


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