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一斉攻撃


 地面から、大きな岩石の手が出現する。その岩石の手は上にいた魔族達を蹴散らし、天に向かって大きく掌を開いた。

 突然の出来事に、魔族達はパニックへと陥る。そこは赤い鎧の兵士たちを蹴散らしたときと同じ反応だ。そして私はその手を、誰もいない所に振り下ろした。大きな地響きが生まれて岩石の手が砕け散り、周囲に抉れた岩や土が降り注ぐことになる。

 更に続いて、3つの岩石の手を作り出す。それらは振り落とさずに待機させた。


「な、なんだこりゃああぁぁぁ!」


 馬車を操るウルスさんが叫んだ。目の前で起きた出来事に、驚いている。


「殺さないの?」

「……魔族の出方を、まずは伺いたい」

「なんか、甘いじゃない。いつもだったら敵と認識した奴には容赦しないのに……でも、そうね。赤い連中みたいに欲にまみれて好き放題やってるって訳でもないみたいだし、あんたの意向に沿ってあげる」


 リーリアちゃんの言う通り、魔族はまだ何もしていない。町を囲むだけで、攻撃も開始していないようだったから。だから殺したりするのには抵抗があった。それで牽制の意味をこめての一撃である。

 魔族は非常に統制のとれた行動を見せる。盾をもった兵士が、盾を持たない者を守りながら大きな手から遠ざかっていき、すぐに手の周りに空白が出来上がった。

 更にはこの魔法の出所を察知した者達が一斉に私が乗っている馬車の方を指さして来て、攻撃を指示している。


「ま、まずいぞ、バレたぁ!」

「……」


 こちらに向かい、一斉に武器を構える魔族達を見てウルスさんがやかましく叫ぶ。

 まぁ気持ちは分かるよ。たくさんの弓やら魔法やらが、今にも飛んできそうだから。守る術を持たない彼にとって、中々に絶望的な状況だと思う。

 そして飛んで来そうだった物が、実際に私達に向かって放たれた。


「おい、おいおいおいおいおい!ヤバいぞおおおおぉぉ!」


 骸骨の兵士が手にした弓矢が──魔法が──こちらに向かって飛んでくる。魔法は火や氷をまとった矢で、通常の矢とは違って軌道を変えながら向かってくる。馬車はそんな物をかわす機動力がないので、これは確実に当たりそう。


「いいから、大丈夫だからこのまま進んで。あと、うるさいから静かに」

「無理だ!死ぬ!死んだ!町に辿り着く前にオレ死んだ!」

「……」


 静かにはならなかったけど、私の言う通りに進んでくれる。向かい来るたくさんの攻撃に向かい、真っすぐに。

 当然、このまま死ぬわけがない。私は4本の触手を伸ばすと、こちらへと向かい来る攻撃を食べた。目にもとまらぬ速さで触手を振り回し、食べて、食べて、攻撃が止んだ。というより、消えた。


「……はっ、はぁ!?矢が、消えた……?」

「言った通り、大丈夫。だからこのまま」

「っ……!何がおこったかよく分かんねぇけど、やっぱりあんた凄いみたいだな!」


 半べそかいてるウルスさんに、褒められた。そして馬車は依然として進み続ける。そんな私達に向かい、第二射が放たれた。でもその攻撃も私の胃の中へとおさまる事になる。

 さすがに二度同じ現象がおきると、向こうにも戸惑いが見え始めた。迫り来る無敵の馬車に向かい、三射目を放っていいものかどうか悩んでいるようだ。中々飛んでこない。


「攻撃が来ない!どうする!?」

「予定通り、このまま──」


 このまま進むように指示しようとした時、私は気配に気が付いた。

 気配のした方向の空を見上げると、こちらに向かって鳥頭の化け物が降り注ごうとしている。

 それだけではない。側方からこちらに向かい、くるくると回りながら斧が飛んできている。とても大きく、かなりの威力がありそうな斧だ。

 オマケに、私達が向かっていた方向から牛頭の大きな身体を持つ魔族が、こちらに向かって猛然と突進を始めているではないか。

 ピンチという程ピンチではないけど、指示を出している暇はない。


「──風刃」


 私はまず、上空からこちらに向かってきている魔物に向かって風の刃を放った。しかし彼はそれに気づき、軌道を修正。それまで馬車へ直撃コースだったのがずれて、私達の傍の地面に勢いよく落下。まるで爆撃でもされたかのように地面が抉れ、土煙がたつ。

 続いてこちらに向かい来る斧に対応する。こちらは簡単だ。くるくると回りながら向かってくる斧へと触手を伸ばし、キャッチしただけ。

 残る牛頭の魔族は、まだ遠い。


「ウルス。止まって」

「っ!?」


 指示を出すと、馬車が止まった。

 それとほぼ同時に、私達の傍でたちこめていた土煙の中から魔族が飛び出して、馬車の前に立った。

 鳥の頭を持ち、身体は人の魔族。身体は細長く腕も異様に細長い。それなのに掌は大きくて、そこには立派な爪がはえている。足は手と比べれば短めだけど、こちらも立派な3つの爪があり、地面を掴み取るようにしてそこに佇んだ。そして威嚇するかのように羽を広げると、周囲に彼の黒い羽根が飛び散る。


「グギャ。魔物が、何の用だ」


 鳥が喋った。そりゃ喋るか。この世界はカエルも喋る世界だし。

 でも甲高い系の男の人の声で、けっこう耳障りな声だな。言語は、魔族語。偉そうなおじさんが喋っていた物と同じだ。魔族だから当然か。


「あの町に、攻撃しないで」

「攻撃を止めに来たのか?魔物が、何故にあの町を庇う。もしや貴様も、神の使者なのか?」

「違う」


 私は反射的に強く否定した。でもこの人、人々が神に操られている事を認識している?


「現在あの町に籠もっている神の使いと、交渉中。だが交渉は上手くいきそうにない。じきに攻撃が始まる。攻撃は誰にも止められない。邪魔をする者は殺す」

「それはこちらの台詞。攻撃を止めなければ、あの岩石の手が貴方たちに降り注ぐことになる。それだけじゃない。大地も割れて、貴方達は死ぬ事になる」

「ぐ、グギャ……。魔物、タダ者じゃない事はオレにも分かる。お前と戦えば大勢が死ぬかもしれない。だがタダで引き下がる訳にはいかない。オレ達にも、達成すべき目的がある」

「目的とは?」

「魔物ふぜいにタダで教える訳がない」

「……」


 教えてくれない事に抗議するかのように少し強めに睨むと、鳥頭の魔物が怯んだ。


「──ブモオオオオオォォォ!」


 そこへ、こちらに猛然と向かってきていた牛頭の魔族がようやくご到着だ。彼はやかましい叫び声と共に、スピードを全くゆるめず突っ込んでくる。

 私は馬車を降りると、怯んだ鳥頭の魔族の横を通り抜けて彼に向かって歩いて行く。その際鳥頭の魔族は何もしてこなかった。横を通り過ぎた時に構えて攻撃するような仕草はみせたけど、攻撃はしてこなかったのだ。野生の勘か何かで、手を出したら自分の命がない事を悟ったのかもしれない。

 牛の魔族が私に向かって頭を見せて、頭から飛び出たその2本の立派な角で突き刺そうと突っ込んでくる。


「……」


 私はゆっくりと牛に向けて手を構えると、そこに彼の角が当たった。そして私はそのまま手で彼の角を掴み取ると、彼の突進がそこで止まった。牛の魔族の足元の地面が、踏ん張って抉れている。でも彼はそこから全く前に進むことができない。

 怪力のスキル、凄いね。それともただ単に、レベル差があるおかげだろうか。分からないけど、牛の魔族の巨体が、こんな小さな少女の身体に受け止められているんだから、客観的に見たらかなり異様な光景だろう。

 やがて突進は諦め、彼が引き下がろうとする。でもそちらへも動けない。私が角を掴んでいるからだ。それでも無理に力を入れて引き下がろうとするので、突然角を離してあげると牛の魔族が後方に飛んで行った。1人で勝手後頭部を地面に打ち付け、転がって行くのはちょっと面白い。

 でもすぐに立ち上がって鼻息荒くして私を睨みつけて来た。


 名前:ピポプ 種族:パクポク族

Lv :390  状態:普通

 HP:3565  MP:2850


 名前:ウーゴ 種族:ミノタウロス族

Lv :441  状態:普通

 HP:8810  MP:1022


 鳥の方が、ピポプ。牛の方が、ウーゴ。

 レベルは、若干高め。神様関連の人以外では、勇者君に次いで高い。中々に強い方なんじゃないだろうか。


「何だ、この魔物は。オレの突進を片腕で止めたぞ」

「グギャ。気を付けろ、ウーゴ。この魔物は相当な手練れだ。下手に手を出せば殺される」

「鳥は、臆病。臆病者は引っ込んでいるがいい。勇敢なミノタウロスがこの魔物を殺す」

「よせ。軍団長がすぐに来る。この魔物は軍団長に任せるのだ」


 軍団長?そうか。触手で掴んだままになっていたけど、この大きな斧はこちらに向かって大きな馬に乗って向かってきている、あの人の物なのか。

 そして彼が軍団長。という事は、一番偉い人って事だよね。撤退するようにお願いするなら、一番偉い人の方がいい。私はそちらへ向かって歩き出した。


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