調子にのった罰
「あっはっはっは!何それ、援軍に行くとか言いつつ国を滅ぼしに行く気満々じゃない!」
後で使者のおじさんとの会話をまとめてリーリアちゃんに教えてあげると、思いきり笑われた。上品に笑ったカトレアよりも酷い反応。でも嫌いじゃない。
「滅ぼさない。食べるのは神に支配されている人だけ」
「でも上の方はたぶん、その神様とやらに支配されてるんでしょ?だったら同じ事よ。そもそも何であんたは、そんなに神とやらを嫌うの?何か事情があるなら話して」
「……神に支配されると言う事は、イカれると言う事。リーリアも、見たはず。神は、この世界の全ての人々にとっての敵。だから倒す」
「ま、確かに、ね……」
神は、敵である。それはアリスエデンの神殺しをゲームとしてプレイしてきた私にとっての、大前提だ。
実際神によって支配下にされた人間は酷い。完全にイカれていたし、この世界がアリスエデンの神殺しで主人公達が神を倒す前の世界になってしまうのは、嫌だ。
だから、そうならないように、アスラ神仰国を潰す。ついでにレベル上げもする。
「という訳で、私はしばらく出掛ける事になる。リーリアはどうする?」
「当然、付いてくに決まってる。あんたに付いて行かないと、私は強くなれない気がするから……だから一緒に行く」
「危険が待っているかもしれない」
「それって、今までと何か違う?」
確かにリーリアちゃんの言う通りだった。
これまでの旅も、先に何が待ち受けているかも分からない。危険な道を歩き、時々命懸けで魔物と戦い、戦場に飛び入り参加した事もあった。
それは強くなるためとはいえ、危険以外の何物でもない。
「……うん。分かった」
リーリアちゃんの言う通りなので、私は納得。また、リーリアちゃんとの危険な旅が始まる。そう考えるとちょっとだけわくわくするね。リーリアちゃんとの旅は楽しいから。
それに、この平和で自堕落な生活も良いけど、やっぱりせっかくの異世界だもの。冒険しなきゃね。
まぁあの洞窟で遭遇した出来事のように、偉そうなおじさんに踏んずけられたり、細切れにされて死にかけたりするのはもう嫌だけど。
「出発はいつ?」
「すぐに出る。使者のおじさんの話によると、かなり切迫しているみたいだから。移動は、馬車で。馬は使者の人が操ってくれるから私達は荷台に乗っているだけでいい」
「そりゃ楽そうでいいわ。これでようやく勉強から解放されるし、言う事なし!私たぶん、勉強向いてないのよね。肩がこって眠くなってやってらんないっていうか……ダルい」
それでも頑張って勉強していたんだから、偉いとは思うよ。でも私が言うのもなんだけど、義務教育レベルくらいの勉強はしておいた方がいいと思う。それ以上は望まないからさ。
「勉強は、また考える。今はとにかく、旅の支度が大事」
「て言っても、食料さえ用意してもらえれば後はどうとでもなるんじゃない?荷物はほとんどアリスが持ってるし」
「……確かに」
という訳で大して準備する事もなく、出かける準備が整った
突然の事で、このお城で知り合った皆が驚く事になる。特にアルメラちゃんが寂しがっていたけど、仕方がない。最後に触手でぐるぐる振り回して遊んであげて、それで充電してもらった。
フェイメラちゃんも、私に対しては思う所があるだろう。それでも丁寧にお礼とお別れの挨拶をしてくれて、私を送り出してくれる。でもリーリアちゃんに対しては抱き着いて別れを惜しんでいたのに、この違いである。
更にリーリアちゃんには、通訳のリシルシアさんがハグして送り出している。
皆、私との扱いの差が酷くない?そりゃ、気軽に抱き着けるような存在じゃないだろうけどさ。私は寂しいよ。
「アリス様!どうか、お気をつけて。そしてなるべく早く帰ってきてくださいね。私、貴女のご無事を祈って毎日お祈りを捧げますので」
「……うん」
お姫様は情熱的に見送りをしてくれるけど、なんか私が求めている物とは違うんだよね。私の我儘だろうか。
まぁそんな感じで私とリーリアちゃんはこの町を後にした。
この町は私に、堕落した生活を思い出させてくれた。でもそんな生活とは別れを告げて、また冒険が始まろうとしている。
この先に待つのは、やはり危険な出来事だろう。そしてよくよく考えると、魔族が攻め込んで来たってヤバイんじゃね。だって洞窟で遭遇した偉そうなおじさん、アレって確か魔族だったよね。つまり、あのおじさんが攻め込んで来た的な……?いやいやいや、ないないない。魔族って言ったって、色々いるだろう。うん、大丈夫。この広い世界でまたあのおじさんと遭遇するとか、そんな偶然あり得ない。
私は馬車に揺られながら段々と遠くなっていく町を眺めつつ、浮かび上がって来た考えを空の彼方へと捨て去るのだった。
目的地の国までは、のんびりペースで一週間。急いで五日。超絶急いで三日程らしい。
私達が乗る馬車には荷物が全くない。全ての荷物は私の亜空間操作の力でしまってあるので、かなりの軽量だ。そのためけっこう早く進めるらしく、使者のおじさんいわく五日程で辿り着けるらしい。
「じゃあアリス様は、ギギルスが変わっちまったのは神に支配されたからって言いたいのか……?」
「そう」
道中私は、自分が知り得る限りの知識を使者のおじさんに教えてあげた。
彼の国を滅茶苦茶にしたのは、たぶん神だ。その片鱗を、私はあの戦場で見た。
そして彼には神に関して、自分の国に何がおこったのかを知る必要がある。彼のように、まともな人もいる国だ。デサリットに攻め込んでいた赤い兵士達を見ても分かる。全員が神の支配者にいる訳ではなく、神様関連の人を排除すれば救う余地はあるはずだ。まぁ予想に反して大半が神様関連の人だったら、全部食べるけど。
「信じられん……と言いたい所だが、確かにその神の印を身体に刻んでいる人間には覚えがある。神に祝福された者にのみ刻まれる特別な紋章らしいが……詳しくは知らない」
「この紋章、貴方の家族には?」
「そうだ……ない!絶対にないはずだ!あ、あんたは、紋章が刻まれている神の使者を食べるつもりなんだろう?だったら、オレの家族は食べずに済む!そうだよな!?」
「そうなる」
私の返答を聞き、使者のおじさんが喜んだ。
その勢いで手綱を勢いよく叩き、馬車のスピードがアップした。
「正直な所、アリス様がオレの国の人間を自由に食べるって聞いた時は、とんでもない化け物だと思った。でも違うんだな。あんたは、神に支配された人間を排除しようとしてくれている。そうすれば、アスラはまた、ギギルスに戻れるんだ!」
使者のおじさんのテンションがあがり、またスピードアップした。このスピードは馬車が揺れすぎてさすがに乗り心地が悪い。
この世界の道は、舗装されていないからね。草が生えておらずただ踏みならされただけの土の道を、サスペンションやらで衝撃を和らげてくれる物がついている訳もない木の箱で進んでいるだけだ。振動が凄い。
「はっはー!いいわね、おっさんもっと飛ばしなさい!」
だと言うのに、リーリアちゃんは喜んでそんな事を要求する。竜語で話すリーリアちゃんの言葉なんて分からないはずなのに、おじさんが呼応して更に鞭を叩いてスピードをあげた。
でも今のおじさんは、謁見の間で見た時のような死んだ目をしていない。その目には希望が宿り、まるで子供のような目で前を向いている。
そういうのはなんか、良いと思った。
でも衝撃が凄いので、とりあえず触手で馬をなだめてスピードダウン。手綱を握るおじさんの頭を叩き、衝撃に我慢できる程度のスピードで進むようにと念を押しておいた。
私に怒られた時の使者のおじさんは、また謁見の間で会った時のような感じになってしまったけど、調子にのった自分が悪い。