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条件


 かつてその国は『ギギルス国』を名乗り、交易の町として栄えていた。だけど30年ほど前に、ギギルスの王様がある女性と結婚した事をキッカケに、全てが変わってしまう。

 王様と結婚した王妃様は、神の崇拝者だったのだ。アスラと呼ばれる神に異常なまでに陶酔していて、その情熱はやがて王様に影響を及ぼし、国民にまで影響した。


 やがて、国の中心はアスラ信徒と呼ばれる人が大半を占めるようになり、そうなると国の名前をアスラ神仰国に変えるなどやりたい放題。更には、神の意思だといって周辺の小さな国に攻め入るようになる。攻め入った国を征服すると、その国の国民には徹底的にアスラ神への崇拝を強制し、飲み込み、逆らう者は殺し、大きくなっていった。

 信徒の中には、強大な力を持っている者がいる。彼らには誰も逆らえない。逆らえば圧倒的な力を行使して殺される。強大な力は周囲の者から逆らう気力を奪い取り、アスラ神の意思に従うだけの集団が出来上がった。


 そしてついには、このデサリット王国にまで手が伸びて来たと言う訳だ。


「オレが子供の頃は、こんなんじゃなかった!全部、王妃様がやってきて変わってしまったんだ!何が、神だ……!神の名のもとに、アスラは征服した国の人々に酷い事をしてきた!人間のやる事じゃない!悪魔のやる事だ!あんな事をやってきた国が、図々しく援軍なんて頼む資格なんてありはしないんだよ!」


 そう語ってくれたのは、使者のおじさんだ。カトレアが詳しく話をするように指示すると、そう語った。

 だいぶ柔らかくまとめてあるけど、彼は神に対して相当な不満をもっているらしい。かなりの悪口で神を罵っていたから。その悪口の意味だけ分かるリーリアちゃんが、嬉しそうにニヤニヤとしていたよ。


「資格がないと言うのなら、では何故援軍を欲するのですか?」

「……オレが援軍の要請に失敗すると、オレは殺される。神の意思に逆らった愚か者になるんだと。神の思い通りにいかないだけで、だ」

「では逃げればよいではないですか。貴方はこの国に赴いただけで、殺される可能性もあったのですよ」

「家族が人質に取られている。オレが逃げたら生きるよりも苦しい目に合わせてから殺すと……そう脅され、使者として送り出された……」


 使者のおじさんは、頭を抱える。こんな訳の分からない仕事を任された上で、失敗したら殺される……なんていう理不尽なのだろうか。


「……なるほど。貴方の言う事が真実であるのなら、貴方には同情の余地がありますね。父上」

「うむ……」


 このおじさんが、何故こんな無茶なお願いをしにのこのことやってきたのか、その理由は分かった。本当に、同情するよ。そして同時にあの赤い集団が、やっぱりイカれた集団だと言う事がよく分かった。


「しかしながら、この国には援軍を送る余裕などありません。先の戦争の事もあり、誰もアスラを助けようなどとは思いません。ですが貴方が望むのなら、この国に残る事を許可いたします。その場合、ご家族を見捨てる事にはなるでしょうけど、仕方がありません」

「……すまないが、家族は見捨てられない。殺されるだけかもしれないが、オレは国に戻る。だが、申し出には感謝する」


 使者のおじさんは、もう怯えてはいない。力なく、全てを諦めたかのように、覚悟を決めて立ち上がった。

 そしてふらふらと歩き出し、この場を立ち去ろうとする。


「お待ちください」

「……?」


 カトレアに呼び止められ、使者のおじさんが再びカトレアの方を向く。そしてカトレアが、私の方を見て来た。

 促されるように、私は柱から出て姿を現わす。そして使者のおじさんが驚いた表情を見せた。

 一見普通の少女。だけど後ろには触手が生えているからね。突然の化け物の登場である。


「ま、魔物……!こ、こいつが……オレ達の軍を蹴散らしたと言う化け物かっ……!」

「化け物だのと呼ばないでください。彼女は、アリス様。とても美しく、この国の守護者たる存在……」

「あ、アリス……様?」

「デサリットとしては何もできませんが、アリス様は今のお話、どうお思いですか?」

「……私も、このおじさんと同じで神様と言う存在があまり好きじゃない」


 それは、ここがアリスエデンの神殺しの世界だからだ。ゲームの中の敵だった神を、好きになれる訳がない。

 その上使者のおじさんの国は、神によって操られてこの国へと攻め込んで来た可能性がある。ゲームの中でも神に操られた人々が戦争して、殺し合っていた。本来は殺し合わないような人たちでも、神に命令されるとそんな事までしてしまう。それと同じ事態が起きているのだ。

 神様サイコーなんていう連中がどうなろうと知った事ではない。放っておいても魔族の軍勢とやらによって滅ぼしてもらえそうだし、私の知った事ではないよ。いやでも攻められたとして、皆殺しになるという訳ではないか。それにこのおじさんのように、まともな人間も混じっているはず。

 でも神様関連の人って、おいしいんだよなぁ。味的にじゃなくて、経験値的にね。どうやらこの世界では、レベルを上げるには人を食べるか、神様関連の人を食べるのが一番効率がいいっぽいんだよね。もっともっと強くなるためには、機会があれば積極的にその辺を食べていく必要がある。

 この世界には、私ではまだまだ敵わないような強敵がいるしね。この地域で無双できても上には上がいて、そんな強敵と会敵した時に今のままの強さでは心もとない。


「では今のお話をきいてどう思いますか?」

「うーん……んー……」

「……」


 私は悩んだ。呻って悩む私を、周囲の人たちは黙って見守る。


「……分かった。貴方の国を守る手伝いを、してあげてもいい」

「なっ!?ほ、本当か!?」

「正気か、アリス!?アスラの手助けをするなど、どうかしているぞ!」

「父上はお静かに。アリス様にはアリス様のすべき事があるのです。その決断を、私達はただ黙って聞くだけです」

「う……」


 カトレアに釘をさされると、王様はおとなしく黙った。王様の言いたい事は分かる。でも私にはレベル上げが必要なのだ。そのための条件を提示しようとしているので、最後まで黙っていてもらいたい。


「条件が、ある」

「あ、ああ、何でも言ってくれ!数万の大群をたった一人で退けたという貴女の力が借りれるなら、オレの国は何でも受け入れるはずだ!」

「貴方の国の人々を、無条件に、自由に、何人でも食べさせてもらう」

「は……は?」

「……」

「ふふっ」


 私の条件を聞き、王様がこわばった表情を浮かべた。使者のおじさんは呆然とし、カトレアは面白い事を聞いたかのように笑う。リーリアちゃんは理解も出来ない会話を聞くのに飽きたのか、隅っこで素振りをしている。


「た、食べるとは、つまり殺すと言う事か……?アリス、様が満足いくまで、何人も……」

「そう。平民も貴族も関係ない。助ける代わりに、私は貴方の国の住人を満足いくまで食べ続ける。この条件を呑むなら、援軍として駆けつけよう。そうすれば貴方は殺されず、家族も国に殺されない。ただ、私は貴方の家族の命を保証できないけど。食べるかどうかは貴方の家族をこの目で見てから決めるから。でも食べるのにたぶん苦しみはしないと思う。ほんの一瞬で済ませるから」


 私が示したその条件は、残酷だ。私の力を借りれば、一時は助かるけど家族の命までは保証されていない。もしこの人の家族が神によって操られているのなら、私は容赦なく食べるだろう。

 私は、この人の国から神に操られている人を排除する。そしてついでにレベル上げをする。そのための条件だ。


 条件を聞き、使者のおじさんの額から汗が流れ落ちた。そして再び、最初にここを訪れた時のように震えだす。私が提示した条件は、この人にとってそれほど恐ろしい物なのだ。

 まぁ普通は怖いよね。助ける代わりに、国民を差し出せと言っているんだから。しかも食べると宣言している。怖すぎ。フェイメラちゃんとアルメラちゃんには聞かせられないよ。


「せ、せめて……オレの家族の命を保証してくれれば……」

「ダメ」


 キッパリと断ると、使者のおじさんが頭を掻きむしって悩む姿を見せた。彼は自分の判断次第で、家族を死なせてしまうかもしれない。

 ま、それは運しだい。彼の家族が神の支配下にあるかどうかだ。


「……わ、分かった。アリス様の力を、ど、どうか……貸して欲しい」

「それは、私の条件を呑むと言う事でいい?」

「……ああ」


 使者のおじさんは、項垂れながら小さく答えた。これで契約成立だ。


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