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幕間──お姫様


 次はお姫様の話をしようと思う。

 お姫様の名前は、カトレア。美しく、とても美味しそうで、頭の良いお姫様。レベルは低いけど私にはないスキルを持ち、私がアナライズでステータスを覗こうとするとその特殊なスキルで勘づかれてしまう。

 彼女はなんていうか、私が頭の中で描いていたお姫様とはだいぶイメージが違くて、キレイなんだけどちょっと怖い。それに戦争の作戦指揮までこなしていて、戦争で死んでしまった人を仕方ないで済まして真顔でいられるような、そんなお姫様だ。

 彼女によって、私の中のお姫様像は壊される事となる。


「バレルカミシュの件、本当にありがとうございました。この国を外敵からお守りしていただくだけではなく、内の問題まで解決してくださるなんて私感激ですわ」


 リーリアちゃんと町へと出かけ、なんかよく知らない内に大きな組織を潰した事がある。そこでは違法に奴隷にされた人を売り飛ばしたりしていて、その戦力の大きさから国としても下手に手を出す事ができなかったのだと言う。

 で、潰したら後日お姫様に呼び出され、凄く褒められた。

 場所は客間のような部屋で、柔らかなソファに対面して座り込んでの会談だ。傍には他に、数名の礼服姿の兵士が立っている。


「ついては祝賀会を開きたく──」

「そういうのは、いい。そんな事をする労力があるなら、奴隷にされていた人たちの今後の生活をなんとかしてあげて」

「ああ、なんて慈悲深いのでしょうか!勿論解放された者達の生活は私が保証し、新たな生活を提供するのでご安心ください!それよりも、やはりアリス様にはご褒美を差し上げなければ私の気が収まりません!何か望みがあるのなら私に遠慮なく言ってください!」


 興奮気味なお姫様が身を乗り出し、私の眼前へと自らの顔を近づけて来る。間には机があるんだけど、その上に片膝を乗せてはしたない格好だ。


「ひ、姫様。さすがにはしたなく……」


 ロングスカートから無理矢理足を出して膝をついているので、後ろから見るとかなり際どい格好だったと思う。傍で私とお姫様の会話を聞いていた兵士が、さすがにマズイと思って止めに入ってくれた。


「そうですね。アリス様になんてはしたない所を……」


 ソファに戻ると、僅かに顔を赤くしながら乱れたスカートを正し、恥ずかしそうにするお姫様。その姿は恋する人に恥ずかしい所を目撃された、うら若き少女のよう。

 でも彼女と対談しているのは触手の化け物だ。こんなのに恋する人は普通いない。普通は。


「アリス様がお望みでしたら、私の身体を差し上げてもよろしいのですよ……?」


 身をよじりながら、恥ずかし気にそんな事を言ってくるお姫様。上目遣いで、まるで男をベッドに誘導するかのごとくの仕草にドキッとさせられた。


「いらない」

「……残念です」


 お姫様は本当に残念そうに、肩を落とす。

 この人、本気で言っているのだろうか。こんな触手の化け物をベッドに誘うとか、どうかしていると思う。というか私女だよ。

 私だって、実はむさ苦しい男よりは女の子の方が好きだ。昔から、男のいやらしい視線が嫌いだったんだよね。かと言って女の子の嫉妬の眼差しとかが好きな訳ではない。どっちの視線が楽で、どっちが付き合いやすいかと言えば女の子だっただけである。そして女の子は可愛くて男よりは救いがあって、それで女の子の方が好きになっていったのだ。

 元々ただでさえそんなだったのに、この世界に来てからは女の子の良い匂いがよく嗅げるし、見た目も美味しそうで私の好みに存分に影響を及ぼしている。食欲と性欲がごちゃ混ぜになっている感じだけど、私の女の子に対しての感情はそんな感じ。だから安易に誘惑してこないでほしい。食べたくなっちゃうから。


「──……どうしてもお礼がしたいというなら、相談がある」

「なんなりと申してください!」


 お姫様が、先程と同じようにまた身を乗り出して来た。

 この人、学ばないな。この格好では後ろからスカートの中身が見えてしまいそうなので、私は彼女を触手で抱き上げると自分の隣に座らせてあげた。

 すると、私に肩を寄せて甘えるようにくっついてくる。


「私が捕まえた、組織の人間。彼らはどうなるの?」

「バレルカミシュの者達ですか?彼らは誘拐は勿論、薬物売買や違法な商売をこの町でして来ました。挙句には殺人にまで手を染めた者も多く、大半は裁判の後に絞首刑となるでしょう」


 それは願ってもない。その言葉を聞いた私は、お姫様の耳元に口を近づけて手で覆い、彼女にしか聞こえないような小声で言葉を出す。


「どうせ死ぬなら、私が食べて殺したい」

「……」


 私の言葉を聞き、突然お姫様が私から離れた。そして俯き、胸の前で手を組んでプルプルと震えているように見える。

 これは、うっかりやってしまった。てっきりお姫様ならこれくらいで怖がったりはしないと思ってお願いしたんだけど、その前提が間違っていた。さすがに人を食べたいとお願いされたら、普通は怖いよね。


「──なんって最高なんでしょう!」


 しかし次の瞬間にお姫様は勢いよく私に飛びついてきて、興奮して息を荒げた発情顔で私の視界を埋め尽くして来た。更には首に手を回して逃げられないようにされてしまう。


「そのお願い、勿論聞き入れますわ。ですが私にアリス様のお食事姿を見せてください。それが条件です」


 てっきり怖がってしまったのかと思ったら、そんな事はなかった。彼女は私が人間を食べたいと訴えた事に対し、興奮してしまったのだ。どうしようもない変態である。


 まぁお姫様と接してムラムラして、人間が食べたくなった私もどうしようもない変態だ。お互い様なのかもしれない。


 約束は、その日のうちに叶えられる事となった。

 お城の地下の、牢獄。そこに私が捕まえた人間たちが収容されている。お姫様の命令により、見張りの兵は排除された。

 薄暗く、異様な雰囲気の牢獄。無骨な石の壁と床。排泄物の臭いが充満し、ここが酷い環境だと物語る。


「おーい、看守!水がねぇぞ、水持って来い!」

「ついでに薬もなぁ!」

「ははは!そりゃいい!」


 奥の方の、人の気配がたくさんある方からふざけた声が聞こえて来た。こんな環境には場違いすぎるお姫様の案内で声のした方へとやってくると、鉄格子に詰め込められた男達がそこにはいた。


「あ?なんだ?看守にしては、いやに美人さんが来たじゃねぇか」

「バカ、ちげぇよ。コイツ、お姫様だ」

「マジかよすげぇ美人じゃねぇか!へへ、オレとやりにきたのか、嬢ちゃん!?」


 そりゃあ、こんな美人さんがやってきたら男達のテンションはあがるだろう。でも彼らは鉄格子の中で、必死に手を伸ばしてもお姫様には届かない。

 鉄格子がなかったとしても、届きはしないだろう。彼らとお姫様とでは住む世界が違すぎる。そして彼らには力もない。


「彼らが、バレルカミシュの者です。隣の牢にもいますので、どうぞご自由にしてください」

「……」

「は、はぁ!?お前は……!」


 お姫様に促されて暗がりから前に出ると、ランタンの光に照らされて私の姿が彼らの前に露になった。

 私の姿を見て、男達が凍り付く。凍り付いた男達に構わず、お姫様が牢屋の鍵を解いてその扉を開け放った。でも中の男達は誰も逃げ出そうとはしない。ただただ、牢屋に入って来る私を見守るだけ。


「お──」


 牢屋の中に降り立った私は、何かを喋ろうとした男に触手を伸ばしてその首を食べた。直後に他の触手たちも襲い掛かり、その男は跡形もなくなくなってしまう。


「う、うああああぁぁぁ!」


 すると、男達は狭い牢屋の中でパニックである。他の者を盾にして壁に向かって走り、壁を叩いて助けを求める男達。出入口には私が立っているので、誰も私には近づいてこない。

 そこから繰り広げられたのは、ただの一方的な食事だ。誰も私に攻撃しようとはしない。逃げようとするだけなので、背中からかぶりついて一人一人味わいながら食べさせてもらう。味わったつもりだけど、ものの5分で牢屋の男はいなくなってしまった。

 さて。この牢屋の食事が終わると、隣の牢屋へとやってくる。彼らは隣で何がおこったかは見えていなかったはず。でも隣から聞こえて来た叫び声や助けを求める声で、皆が青ざめていた。そこへ私が姿を現わした事で全てを察したようだ。それだけで叫んで命乞いを始めた。でも容赦しない。私は無慈悲に、全てを食べきった。


「ありがとう、お姫様。満足」

「……カトレアです。私の事は、カトレアとお呼びくださいアリス様」


 傍で私の食事シーンを見守っていたお姫様の顔は、紅潮していた。彼女は明らかに興奮している。私の食事シーンを見て、だ。

 そしてまるで愛の告白をするかのように、私の手を取って自分をカトレアと呼ぶようにと求めて来る。

 私が言うのもなんだけど、この人ヤバイわ。でもその潤んだ瞳と赤みをおびた頬は、本当に可愛くてズルイと思う。食べたくなってしまい、触手を伸ばす。


「──いいですよ、私も食べて。そして私はアリス様の血となり肉となり、共に生きていくのです」


 私の劣情を察したのか、お姫様がそう言ってくる。その目はなんていうか、怖かった。目の奥に闇を感じると言うか、とにかく怖い。そして台詞もあって、一瞬にして食欲が吹き飛んでしまった。


「……終わったし、帰って寝る。上に戻ろう、カトレア」

「はいっ!アリス様!」


 来た道を戻ろうと歩き出すと、カトレアが私の腕に抱き着いて来た。そして腕を組んだ状態で進んで行く。

 この牢獄には、他の犯罪者も収容されている。彼らから見れば、牢獄で腕を組んで歩く私達は異様にしか見えないだろう。視線が痛い。

 でも気にしないようにして私達はその場を後にした。


 カトレアはこの件以降、更に積極的に私に迫るようになった。普段の距離が、ナチュラルに近い。でもそれは今は語らずにおこう。


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