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幕間──メイドさん


 ここでネルルちゃんの話をしよう。

 このお城で私が過ごす間の、私専属のメイドであるネルルちゃん。メイドにしてはまだ若く、技術的に足りない所もあり、ミスをすると私に食べないでと全力で謝って来るネルルちゃん。

 何故彼女が私の専属メイドに選ばれたかというと、誰もやりたがらなかったからである。彼女はメイドの中では下っ端で、上からの命令に応えるしかない立場。その押し付け合いを、私は聞いてしまったんだよね。スキルを使って遠くからね。

 なんていうか、若くて可愛いネルルちゃんを周りは妬んでいるのかもしれない。彼女は女の子からもてず、男の子からもてるタイプっぽいからね。それで本人が無意識のうちに嫌われてしまっているのだ。

 ちなみに私は女だけど、好きだよああいう女の子。守ってあげたくなっちゃう。あと、美味しそう。


 そんな彼女とは、お世話をしてもらううちにけっこう打ち解けて来たと思う。毎日喋って身の回りのお世話をしてもらってるからね。仲良くなるのは必然と言えるだろう。

 一番大きかったのはあの事件かな。あの事件がキッカケで仲良くなれたと思う。事件の名前は、私の専属メイド変更事件である。


「おはようございます、アリス様」

「……」


 朝起きると、いつもはネルルちゃんが来るはずなのに違うメイドさんが来た。

 私は知らない人が来たことに慌て、でも冷静にいつものフードを被って頭を隠す。


「……ネルルは?」

「ネルルは別の仕事場に異動となりました。アリス様に対するご奉仕の際、ミスが多々あったと聞いておりまして、恐らくそれが原因でメイド長が……。ですがこれからは私が全力でご奉仕させていただきますので、ご安心ください」


 この時私は、ネルルちゃんに嫌われてしまったのかと思った。私ってほら、化け物だから。ネルルちゃんはいつも怯えて私に接していたし、仕方なく私のお世話をしてくれていただけ。それが嫌になって、ついに私の下を去ってしまった。


 朝からテンション下がるわぁ。


 別に、人に嫌われるのはなれている。今も、昔もね。でも私の下を去った人は、皆予兆があった。私の陰口を囁き、私に対する敵対心があったのだ。

 でもネルルちゃんにはそれがなかった。怖がってはいたけど、突然私の下を去るような感じではなかったと思う。思いたい。


「アリス様。どうかなさいましたか?とりあえず、お洋服を用意いたしました。お着替えを──」

「少し、黙って」

「ひっ。し、失礼いたしました!」


 私は感覚強化やら聴覚強化を使い、ネルルちゃんの位置を探る。そこへメイドさんがごちゃごちゃと話しかけて来たものだから、若干イライラして答えてしまった。

 言いつけ通り黙った……というより固まって静かになったので、集中してネルルちゃんを探す事が出来る。

 そしてネルルちゃんに関する声を見つけ、更に耳をすましてその会話を聞く事にした。


『……──ネルルで試して安全みたいだし、これからは交代で面倒を見ていきましょう』

『しかし魔物にご奉仕なんて、気持ちが悪いですね』

『本当にそう。でも通常の倍の給料が貰えるんですもの。相手は思ったより間抜けみたいだし、それで倍のお金が入るなら問題ないわ。ついでにこれまでも私達で回してあの魔物のお世話をしていた事にして、給料を分け合いましょう。ね、ネルル』

『……はい』

『ちなみにあんたはこれから、掃除係だから。城中を掃除するだけの係よ。二度とメイドとして誰かに奉仕なんかさせない。あの魔物の世話をするだけで給料が倍になる事を黙ってたんだから、当然よね』

『そ、それは……メイド長が私を指名したので、知っているのかと……!』

『口答えするんじゃない!』


 そこで水の音が聞こえた。そして別のメイドさんの笑い声も聞こえる。

 私はいてもたってもいられなくなった。そして部屋を飛び出して、この会話の聞こえてくる方へ向かって走り出す。


 別に私は、誰かが虐められていようとなんとも思わない。自分がそういう立場にいたからというのもあるけど、虐め自体はどこの世界にもあると思うし、私はその存在を受け入れている。

 だから虐め自体の問題は、ネルルちゃんが自分でどうにかするべきだ。自分でというのは、自分だけの力でという意味ではない。助けを求めるべき人がいるならその人に助けを求め、行動をおこすべきという意味である。


 現状私は彼女に助けを求められていない。そういう立場にはないし、それほど親しい仲でもないからね。

 でも私は行動をおこさずにはいられない。その原因はメイドさんの先ほどの会話にある。


『ネルルで試して安全みたいだし、これからは交代で面倒を見ていきましょう』


 これからは、交代で私の面倒を見る……だとさ。

 冗談じゃないよ。ようやくネルルちゃんの奉仕に慣れてきた所で、別の人に。それになれたらまた別の人になっちゃうって事でしょ。本当に冗談じゃない。考えるだけで胃がキリキリする。このお城に滞在していたくなくなってしまう。


 だから私はネルルのもとへ向かったのだ。彼女に引き続き、私の奉仕を担当してもらうためにね。


 それでまぁ、現場に駆け付けるとネルルちゃんがメイド長に水をぶっかけられていて、私が怒ったフリでネルルちゃんを一緒にいたメイドさん達から庇うと凄く怯えられた。私は怒っていた訳ではない。引き続きネルルちゃんに私を担当してもらいたくて、そのお願いをしに駆け付けただけだ。

 それなのに本気の命乞いをされて、ちょっと引いたね。


「……これからも、ネルルには私のメイドになってもらう。他はいらない。でももし私のメイドを傷つけようとしたら、食べる。それと、私は耳がとてもいい。だから、口には気を付けた方がいい」

「わ、分かりました……で、ですからお許しを……!」


 自分たちの会話が私の耳に届いていた事をさとり、メイドさん達はその場に土下座をした。


 こうして私はネルルちゃんを取り戻したのだ。メイドさんが代わる事もない。ネルルちゃんだけが、私のメイドさん。

 へへ。私だけのメイドさんか。いいね。


「あ、ありがとうございました、アリス様。わ、私、これからもアリス様のお世話を全力でさせていただきますっ」


 部屋にネルルちゃんを連れ帰り、まだそこにいた代わりのメイドさんを追い出すと、ネルルちゃんがお礼の言葉を述べてくれた。

 私はただ、自分のためにやった事である。お礼を言われる筋合なんてない。でもネルルちゃんが泣いていたので、とりあえず頭を撫でて慰めてあげる。


「失礼しました。髪を整えて、お着替えをしないといけませんね!」

「まずは、ネルルから。濡れたままだと風邪をひく」

「私は大丈夫です」

「ダメ」

「は……はい。すみません、着替えたらすぐに戻ります」


 この出来事をキッカケとし、ネルルちゃんは私と気軽に接してくれるようになった。

 今では笑顔を見せてくれるようになり、ミスをして命乞いをされる事もない。私としてもその方がありがたい。可愛いメイドさんが、笑顔で私に奉仕してくれるその姿は、とても美味しそうで食欲をそそられるから。


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