更なるピンチ
忍び寄るその気配に気づき、私は恐る恐る振り返る。すると、暗闇の向こうから私の方へと近づいて来る赤い光がいくつもあった。
カエルを食べる前から持っていたスキル──暗闇耐性のおかげで、暗闇の中でも私には周囲の状況が分かる。この力は暗闇の中でも周囲に何があるのかを把握できる能力で、大雑把ではあるんだけどこちらに向かってくる物の形もなんとなく分かる。
こちらに向かってくる物の正体は、蜘蛛だ。私が知っている蜘蛛よりも遥かに大きい蜘蛛が数十……いや、百匹くらいかな。たくさんいて、群れをなしている。
蜘蛛達のステータス画面を開こうとすると、思った通りに開く事が出来た。この力は、アナライズによる物らしい。
スキル『アナライズ』
対象となる者の種族や名前とレベル、状態。残りHPとMP量と、習得しているスキルを見る事が出来る。
名前:── 種族:ガオウジッター
Lv :131 状態:普通
HP:5834 MP:4338
名前は全員なし。種族はガオウジッターというようで、全員レベルは同じくらい。
レベルに関してはよく分かんないんだけど、これくらいが普通なの?カエルはもっと高かったけど、あの偉そうなおじさんに瞬殺されてたよね。
ま、何にしてもレベル1の私にとって、とんでもない強敵のおでましだ。一匹ですら絶望的なレベル差だというのに、それが何匹もいる。シャーシャー言いながら私に向かってくると言う事は、私を食べる気満々という事でよろしいのでしょうか。
気づけばカエルの骨の上に立つ私の周囲は、蜘蛛の群れに囲まれている。どこにも逃げ場はなく、囲まれていなくとも身体を上手く動かす事もできない私に逃げる術はない。
「……」
終わった。骨に上ってくる蜘蛛が、私を威嚇しながら口の牙をパクパクと開閉させている。
やる気満々すぎて、私ドン引き。
ドン引きな私に向かい、一匹の蜘蛛がお尻から糸を飛ばして来て、糸が私に絡みついた。元々上手く動けなかったのが、更に動けなくなってしまう。でもナマコに糸が絡んだところで、絡む前とあまり状況は変わらなかった。それでもそれが合図になったかのように、蜘蛛達が私に飛び掛かって群がって来た。動けなくなった餌を逃すつもりは、彼らにない。私は蜘蛛達の鋭利な牙により、切り裂かれてしまうのだった。
さすがにあの偉そうなおじさんに踏みつけられた時のように、抵抗して生きようと言う気力もおきない。私が置かれている状況は、それくらいに絶望的だ。
──私は死ぬ。
思えば、もっとちゃんと生きればよかった。
ところで、ちゃんと生きるってどんなだろう。まぁまぁの学校にいって、まぁまぁの会社に就職して働き、いい人と巡り会って結婚する?私にはちょっと考えられないかな。私は自由に生きたい。学校のルールに縛られたくない。社会のルールに従いたくない。番と結ばれる事によって自由を侵害されたくもない。
そんなレールに従って生きるくらいなら、ナマコになって蜘蛛に食い殺される方が良いかもしれない。じゃあ、文句はないか。良い人生だったと、腹をくくって死のう。
「……」
でも、いつまでたっても私に死は訪れなかった。
「ギギッ!?」
蜘蛛達が何やら驚いている。どうやら蜘蛛の牙が、私の身体を破る事が出来ないようだ。2匹で私の頭と尻尾をひっぱりあっても、胴体に食らいついても、地面に落としても私の身体に傷はつかない。くすぐったいだけ。
これはもしかしたら、カエルから手に入れたスキルのおかげかもしれない。
スキル『物理攻撃耐性』
物理的な攻撃に対して耐性を得る。
どうやらまだ諦めるのははやすぎたみたい。
蜘蛛の牙が私の身体を打ち破れないのなら、私が死ぬ事はない。むしろ、逆に食ってやる。
私は新たに私に食らいつこうとしていた蜘蛛に、逆に食らいついてやった。
「ギイイィ!?」
突然のナマコの反撃に、蜘蛛が甲高い声をあげて驚く。私が食らいついたのは、蜘蛛の顎の下だ。足をジタバタとさせて私を振り落とそうとしてくるけど、私はしっかりと食らいついて離れない。
体に蜘蛛の糸を巻き付けたナマコの反撃の始まりである。
「フシュー……!」
調子にのる私に向かい、私が食いついている蜘蛛が霧を放った。何の霧だろう。
と考えていると、突然視界がぐにゃりと歪んだ。身体に力が入らなくなり、意識が身体から遠ざかる。
コレは……毒だ。霧を吸い込んだ事により、身体に毒がまわるのを感じる。
自分のステータスを見ると、状態が毒になっている。元が極端に低いHPも減り始めた。このままではすぐにHPが0になって死んでしまう。
でも、どうして?私、状態異常耐性をもってるよね?……もしかして、レベルが低いせいだろうか。この蜘蛛の毒が、耐性レベル1で耐えられる力を上回っている事が考えられる。でも物理攻撃耐性はレベル1なのに、レベル131の蜘蛛の攻撃を耐えてるよね。基準が分かんないよ。
ピンチから大丈夫かと思いきや一転して再びピンチが訪れ、死神が近づいて来る。
でも私は負けない。毒に冒される身体にむちうって、食いついた蜘蛛を咀嚼して食べてやる。
不味い。でもそんな事は言っていられない。
身体が痛く、だるくて苦しくなってくる。それでも蜘蛛の皮膚を突き破り、中に頭を突っ込んで更に奥に進んでやる。
でもね、限界が訪れた。自分のHPが2になった所で、意識が突然遠のいて動きが止まる。今度こそ、おしまいだ。
でも最期に、意地の一口を見舞ってやった。
するとそこで突き破った個所から液体が溢れ出し、私の口の中へと入り込んで来た。
おえぇぇ……。
これまた不味い物が口の中に入り込んできて、それを飲んでしまった。
……あれ?途端に身体から痛みとだるさと苦しさが消え去り、スッキリとした。
見ると、状態異常耐性がレベル2に上がっている。何がおこったのかよくわからないけど、私復活。復活した私は更に蜘蛛を内側から食べ進み、身体の中身のほとんどを失った蜘蛛は、やがて息絶えて死んでしまった。
レベル131の相手を倒した事により、私のレベルは一気に40にまで上昇。同時に自分のステータス一覧に習得魔法一覧という物が出て来て、どうやら私は魔法とかいうロマン溢れる物を覚える事が出来たらしい。
『──』習得魔法一覧
・フィオガ
・ラグラス
・シャモール
・テラ
・グロム
・ネロ
・ガオウサム
レベル1からレベル40まで一気に上がっただけあり、たくさんの魔法を覚える事が出来た。
そしてそれらの魔法の名前に、私は見覚えがある事に気が付いた。ガオウサムっていうのは知らないけど、他の魔法はゲーム『アリスエデンの神殺し』に出て来る魔法の名前で間違いない。
もしかして私、アリスエデンの神殺しの世界にいるの?