壊滅
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おじさんについていくと、浮浪者が地面の上で寝ていて、異臭のたちこめるスラム街に案内された。大通りの人の賑わいは、ここでは一切感じられない。感じる雰囲気は、血の臭いと絶望。この町にもこんな場所があるんだね。まぁどこにでもあるか。
スラム街をしばらく進んで行くと、とある建物が見える位置でおじさんが止まる。表向きは普通の何の変哲もない建物で、でもスラム街にある建物にしてはいやにキレイで、派手な看板も飾られていてはなびやかだ。
なんていうか……見た目はキャバクラみたい。ドレス姿の女性の姿も見えるからね。そして同時にこう思った。全然隠すつもりないじゃん。スラム街でコレは目立ちすぎだよ。明らかに普通じゃない。
逆に言うと、隠れる必要がないのかもしれない。隠れずとも誰も手を出してこないのが分かっているから、こんな事が出来るのだ。
「あ、あそこがバレルカミシュのアジトだ」
そんな建物を指さして、おじさんがそう言った。
「嘘じゃない?」
「嘘じゃない!オレ達はあそこで、攫ったり罠に嵌めて手に入れた女どもを奴隷として売りさばいてる!地下には組織の幹部達が寝泊まりしていて、今は組織の主要メンバーがいるはずだ!目につく女どもは商品で、客の相手をさせたりしてるんだ!本当だって!」
「……嘘だったら、私は貴方を殺しに行く。私は鼻がいいから、逃げようとしても無駄だから。そう覚えていて。それじゃあ、行って」
「……」
おじさんに脅しをかけると、おじさんはトボトボと歩いて暗闇に消えて行った。
その姿はまるで、会社をクビになったサラリーマンのよう。
後に彼は、この町の名物になる『触手焼き』なる屋台を出して有名人になるんだけど、それは別のお話。
「いくら喧嘩を売られたからって、普通わざわざ組織まで潰す?」
「潰す。もう夜だし、さっさと潰して終わらせる。リーリアはここで待ってて」
「はいはい、気を付けてね」
私が怪我をするなんて思ってもいないくせに、そんな事を言ってくる。
で、私はリーリアちゃんをその場に置いて建物の方へとやってきた。
「あ?なんだテメェ」
フードを被ったか弱い女の子が近づいて来た事により、組織の男達が反応して話しかけて来た。私はそんな男達に向かって魔法のフィールンを放って糸でぐるぐる巻きにし、芋虫状態にしてあげた。
物理的な攻撃はしていない。下手に手を出したらこの人たちが死んじゃうからね。さすがに殺しはマズイでしょ?だから糸でぐるぐる巻き作戦という訳。
「きゃああぁぁ!」
でも敵対心を持っていなそうな女の子は放置していたので、彼女達が叫ぶことによって騒ぎになってしまった。
建物の中から異変を察知した男達がゾロゾロと出て来る。でものこのこと出て来た男達はこれまた一瞬にして糸でぐるぐる巻きになって地面に倒れてしまう。
女の子たちは……まぁ放置でいいか。襲ってくるって言う訳ではないし、それに首輪なんかつけてまるでペットのようで、おじさん曰く奴隷と言われていただけあってその境遇には同情の余地がある。
で、建物の中に入るとまだまだたくさんの男達がいた。
建物の中はやはり豪華で、高価そうな赤い絨毯が敷き詰められていてとても派手だ。お客さんをもてなすための高そうなソファも目に付く。あと、お酒もいっぱい飾られているね。
ここがスラム街とは、とてもじゃないけど思えない。
「武器を持て!使える奴隷も連れて来い!」
建物の中の男達は大慌てで武器を手にし、私を出迎えた。
でも私に対してそんな貧相な武器はあまりにも無力で、四方八方に糸を飛ばすと彼らは私に斬りかかる前に戦闘不能になってしまうのでした。
客間を制圧した私は続いて奥の通路に入って行く。そこでも何人か襲撃してきたけど、全員糸でぐるぐる巻きにしておいた。
途中の部屋にも人の気配があるけど、襲って来ないので見逃してあげよう。
そうして進んで行ったんだけど、壁にぶち当たってしまった。おかしいな。まだまだ人の気配がたくさんあるのに壁なんて。
うん。どう考えても隠し通路があるね。感覚強化で風の流れが分かる私は、行き止まりになっている場所の通路横の壁に手を当てると壁が動き出し、回転扉のようにクルっと回って奥へと続く道が現れた。
開くと同時に、中から男が襲い掛かって来たけど彼に対しては思わず手が出てしまった。ただこの細い腕で払いのけただけだけど、色々な物が砕ける音がしてもしかしたら致命傷になってしまったかもしれない。でもまぁ、仕方ない。正当防衛だし。
転がる男を踏みつぶしつつ、開いた扉の中へ入って行くとそこには地下へと続く通路があった。暗いけど、私には関係ない。もと暗い洞窟出身ですから。ドヤッ。
階段を下り終わると、そこにはたくさんの牢獄があった。部屋をおおいつくす程の牢獄が左右ところ狭しに並べられていて、ちょっと臭い。食べ物的な意味じゃなくて、下水やらなにやらが混じったような生活の臭いだ。
「そこまでだ!そこで止まれ!」
「……」
地下室には、昼間私がぶつかってしまって因縁をつけて来た大きな男がいた。
その背後には様々な武器を手にした、ボロ切れを身に着けている男女がいる。人間が主だけど、人間ではない種族もいるね。ケモミミが頭についてるのは獣人族で、角が生えているのは鬼人族か。彼らは首輪をつけ、その目には生気が感じられない。
「バカな奴だ。この町最大勢力のバレルカミシュに喧嘩を売るなんて、本当にバカだよ!オレ達は国の連中すら手を出せない程の戦力を備えてるんだぜ!?この奴隷たちはその戦力の一部だ!奴隷の意味は分かるよな?この組織を守るためならこいつらは死んでも戦うんだよ!首輪で契約が成立したバカで忠実な奴隷どもだ!」
その首輪は呪われたアイテムで、神の紋章と似たような効果があるって言う事か。ゲームの中にはなかったな。首輪を嵌められたらなんでも言う事を聞いちゃうとか、嫌だね。
そこで私は、触手を解放した。ドレスの中から姿を現わした幾本もの触手が、奴隷たちに襲い掛かる。
「なっ──」
私の触手を彼らが認識した時には、もう全てが終わっていた。
まず彼らは私の触手に驚いている。唖然とし、でも私の正体を察してこう呟いた。
「滅殺の悪魔……!」
うん。冷静に聞くと、やっぱりその二つ名は恥ずかしい。まさに中二病って感じだし。
「っ!や、やれ、奴隷ども!相手がなんだろうと関係ねぇ!てめぇらの中には魔物狩りが本業の奴もいるからなぁ!覚悟しやがれ!」
「……」
「おい、聞いてるのか!?さっさとやれ!」
命令を聞いて動き出さない奴隷たちに、男がイライラして怒りだし、他の人たちとは一線を画して大きな体躯の鬼人族の男性に蹴りをいれた。でもその男性が振り返ると男を睨みつけ、彼に対して殺気が放たれる事になる。
「な、何だ?何でオレを睨む……てめぇら折檻されてぇのか!?早くあの魔物を──」
また怒鳴ろうとして、彼は気づいた。奴隷の皆の首から、首輪が消えている事に。さっき触手を解放した時に、全員の首輪を食べて解放してあげたのだ。
男の全身から、汗が噴き出す。一瞬にして汗だくとなった彼は、逃げようにも自分の奴隷に囲まれていて逃げ場がない。そして彼に待つのは、奴隷たちによる集団リンチであった。よほど彼らに酷い扱いをして来たのだろう。そのしっぺ返しが今ここでやってきた。
いくら叫んでも、泣いても喚いても誰も彼を助けにはやって来ない。彼は全身ボロボロになり、やがてHPがゼロとなり、死んだ。
「貴女は……ま、魔物のようですが、私達を救ってくださったのですか……?」
「商人たちが噂してたけど、この町を魔物が救ったって。貴女がそうなんですよね?」
「どうやって私達の首輪を外したんですか?アレは魔法の力が籠められていてとても頑丈で、しかも無理に外そうとすれば装着者の首が飛んでしまうようにできているのに……」
男が死んだ後で、奴隷たちから口々に質問が飛んでくる。皆私が救ってあげた事を理解していて、化け物の私に敵対心を抱く者はいない。
ある意味でこの人たちは、闇世界で過ごして来た人たちだ。その分肝が据わっているのだろう。触手な私に臆せず話しかけて来るのはお姫様以外で初めてで、逆にこちらが委縮してしまう。
とその時だった。上の方が騒がしくなり、多くの足音が聞こえて来た。
「おとなしくしろ、バレルカミシュ!ここは我々が包囲したぞ!」
そして勢いよく地下室へとなだれ込んで来た、お城の兵士達。彼らは私の姿を見て一瞬怖がり、でも安心したように息を吐いた。
でも武器を持つ奴隷たちを見て警戒をする。
「彼らは大丈夫。もう奴隷じゃないから。保護してあげて」
しかし私がそう言うと奴隷たちは武器を捨て、首輪もついていない彼らに警戒をする理由がなくなった。
「あ、アリス様。単身でバレルカミシュを制圧するとは凄いとは思いますが、帰りが遅い上にスラム街に向かったという情報が入り、心配しました」
「……リーリアは?」
「外にいます」
「なら、疲れたからリーリアと帰る」
私はそう言い残し、その場を後にした。
こうして、バレルカミシュは私によって壊滅させられたのであった。キッカケは、私に絡んで因縁をつけた事。そして壊滅させられた原因は、滅殺の悪魔という二つ名をつけられてリーリアちゃんにダサいと言われた事。よくよく考えればこの二つ名は別に彼らがつけた訳ではなく、ただのとばっちりだ。でも悪い事をしていたのは確かだし、後悔はない。
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