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絶望した


 私の亜空間操作のスキルにより中にしまってあった魔物の素材達は、けっこうな大金となった。

 元々私とリーリアちゃんの旅は、リーリアちゃんに1人で村に立ち寄らせて素材をお金に変換し、そのお金で自由な物を買わせると言うスタイルを取って来てはいたけど、今までで一番の大金になったんじゃないかな。まぁリーリアちゃん1人で持てる素材には限度があるし、それとリーリアちゃんが買い物をしてくる前という事でお金が多いと言うのもある。

 それにしたって量が違うので、やっぱり今回手にしたお金は圧倒的に多いだろう。


 そんな大金を手にしたリーリアちゃんは、やはり大はしゃぎで買い物を始める。服は可愛い系からカッコイイ系まで、何着も試着して自慢するように私に見せつけてから、私が褒めると喜んで何着も購入。靴やアクセサリ類まで漁りに漁り、それがまた似合っているんだよ。

 買い物中のリーリアちゃんは、それはそれは可愛い姿を見せてくれる。ころころと変わる表情に、商品を見つめる時の輝くその目。その姿は女の子そのもので、そんな女の子の中でもやっぱりこの子が世界一可愛いんじゃないかなと思う。この国のお姫様よりもね。

 私は親でもなんでもない。むしろ仇だけど、それでも鼻が高いよ。

 ちなみに買い物の際に、私にも色々服を試着するように勧めて来たリーリアちゃんだけど、正体を明かす訳にはいかないという理由でお断りさせてもらった。こればっかりはリーリアちゃんも仕方がないと諦めてくれたよ。だって私の正体がバレたら目立ってパニックとなり、ゆっくり買い物もできなくなっちゃうからね。


 そうしてどれくらいの時間が経ったかな。もうだいぶ日が傾いて来ていて、もうじき夕暮れと言った所か。

 現在私は疲れ果て、噴水を中心とした広場に設置されたイスに、まるで燃え尽きたボクサーのように座っている。

 周囲には無邪気にはしゃぐ子供の姿が見えるんだけど、子供は元気でイイね。


「……疲れた」


 誰にでもなく、そう呟く私。女の子の買い物って、本当に長い。そういえばリーリアちゃんを1人で買い物に派遣した時って、平気で朝から晩まで私の下に帰ってこなかったっけ。

 もしかして、ずっと買い物してたの?凄い。凄すぎるよ、女の子。いや私も女なんだけどね。でも女は女でも、買い物なんてささっと済ませてささっと家に帰りたいタイプの女の子なんですよ。


「あんた、森の中じゃ一日中平気で歩き回れるのに、なんで町で買い物してると半日も持たない訳?」


 とそこへ、飲み物の入った木のコップをそれぞれの手に持ったリーリアちゃんがやって来た。その内の1つを私に差し出してくれるので、それを受け取る。私がグロッキーになっているのを見かねて、広場の屋台で売っている飲み物を買ってきてくれたのだ。

 口を付けると、酸っぱい系の飲み物だった。疲れた体に染み渡るけど、悲しいかなこの身体には全く必要のないエネルギーである。そして美味しくも感じない。でもリーリアちゃんの愛を感じられて美味しい。


 ここで現在の私の食生活について説明しておくと、お城での生活でも用意されるから食べたり飲んだりするけど、食事も必要ないんだよね。なんていうか……人間の食べ物って美味しくない。勿論神様関連の人や、ドブみたいな味の魔物よりは美味しいけどね。でもどんなに不味そうな生物を見ても食欲がわくのに、人間の食べ物には食欲をそそられないんだ。不思議。

 それでも食べるのは、人間だった頃の慣習があるからだと思う。それがなかったら絶対に食べないね。


「……それとこれとは、別。リーリアはいつもこんな感じで買い物をしてたの?」

「まぁそうね。でも一人の時は町中を自由に見て回って、気を遣う必要もないからじっくり選んじゃうからもっと時間かかるかも」


 リーリアちゃんは私の隣に座りつつ、私と同じ飲み物をぐびぐびと飲みながら答える。

 ……今日のペースよりも、じっくりだとさ。はは。恐ろしいわ。

 でも今日のリーリアちゃんのエスコートっぷりは頼もしい限りだ。まるで彼氏のように私を庇ったり、まるで彼女のように買い物に付き合わせる。終始楽しそうだったし、まぁ私も身を削って付いて来てよかったよ。

 それじゃあそろそろお城に帰ろうか。もうじき日も暮れそうだしね。


「さ。休憩が終わったらもう一回りするわよ。まだ寄ってないお店がいっぱいあるからね」

「……」


 この世界に来てから、何度も死の淵に立たされたことがある。それでも立ち上がって立ち向かい、強くなってきた。

 その私がその発言に、絶望した。




 辺りはすっかり暗くなってしまった。休憩の後もリーリアちゃんに振り回されてしまい、私の体力は現在ゼロに近い状況である。


「今日の所は、これくらいにしておこうかしら。やっぱりそれなりに大きな町は違うわね。可愛い服がたくさんあったわ。ていうか全部可愛い!人間のこういう所、ホント凄いと思う!リンク族にはこんな発想なかったもの」

「……」


 大量の買い物を済ませ、買った物は全て私の亜空間操作によって亜空間にしまい込み、手ぶらの彼女はご満悦。私とはまったくの対照的である。

 でも、ようやく満足してくれたみたいで私は安心したよ。もうこれ以上は付き合っていられない。まだあちこち寄るつもりのようなら、強制的に連行してお城に帰る所である。置いて行きはしないよ。帰るのは、2人一緒である。


「こんばんは、お嬢さん達!」


 ようやくお城に帰れるかと思っていた時、私とリーリアちゃんにおじさんが話しかけて来た。

 ニコニコ笑顔の、人のよさそうなおじさんである。ただ、声まで猫なで声でそれは逆に気持ちが悪い。


「……」

「突然話しかけてごめんねー。向こうに、お嬢さん達のような可愛い女の子にピッタリのお店があるんだ。もうじき店じまいしちゃうから、寄るなら急いだほうがいいと思うよ」


 私達にピッタリのお店ってなんだ。胡散臭すぎるよ、おじさん。


「なんだって?」

「……私達にピッタリのお店が、あっちにあるらしい」

「ふぅん。私達に、ねぇ……」


 リーリアちゃんに通訳してあげると、リーリアちゃんは周囲を見渡してから面白そうにニヤリと笑った。

 私も、気づいてはいたよ。このおじさんの仲間と思しき男の人が、何名かこちらを見て笑っている。そして私とリーリアちゃんがこの場から逃げ出さないよう、囲んでいる。


 周囲は日暮れと言う事もあり、建物からの灯りで照らされてはいるけど薄暗い。人通りも少なくなってきており、大きな通りから小さな通りに入ればもう人の気配はなく、オバケとかが出そうな雰囲気。そんな方へとおじさんは私達を誘導しようとしている。

 分かりやすすぎる。


「ごちゃごちゃ言ってないで、おとなしく付いて来てくれるよね?ね?」


 ニコニコ顔のおじさんが、自分の服をめくって手に持っているナイフをチラチラとこちらに見せつけて来た。

 笑ってはいるんだけど、目がギラついている。声のトーンも一段下がった。この人の本性は、ニコニコ顔の人のよさそうなおじさんではない。


「いいじゃない。ついて行きましょうよ。丁度、ちょっと運動したい気分だったしね」

「はぁ……」


 リーリアちゃんは理解した上で、おじさんの示す方向に歩き出してしまった。

 どうせ、逃げても辿る結果は同じだ。ため息を吐き、私もリーリアちゃんについて歩き出す。

 それにゾロゾロとついてくる、大きな身体の男達。その先にも数名の男が待ち受けていて、私とリーリアちゃんは狭い路地で挟み撃ちにされてしまった。

 ピンチだなぁ。


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