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リーリアさん


 町の空気はどこか暗い。まだまだ戦争の傷跡が癒える事はなく、この町に来た時よりも人通りは多いけど雰囲気がどんよりとしていて、私が想像するファンタジー世界の町とは少し違って見えてしまう。

 それでも建物やら皆の服装やらは私の目を引くには充分だ。私が住む国にはあまりなかった、レンガ作りの家々とカラフルでお洒落な屋根。粗めの石畳はこの世界の技術力を現わすよう。

 ゲームやアニメでしか見た事のない世界が、今私の目の前に広がっているのだ。

 興奮は、する。でも引きこもりモードに突入した今、この人の多さは見ているだけで気が滅入りそう。この町、こんなに人いたんだねってくらい、大通りは人でごった返していて私を精神的に攻撃して来る。


「さっすが、国の中心。私が今まで訪れたどんな町よりデカイし、面白そうなお店がいっぱいある!」


 私はそんな感じだと言うのに、リーリアちゃんは元気いっぱいだ。目を輝かせながらせわしなく視線を動かし、自分が訪れたいと思うお店を探している。


 そんなリーリアちゃんが、私にはリア充に見えてしまう。そんなリア充に連れ出された陰キャな私……。

 はは。笑える。


「どこから寄る?やっぱりまずは服かしら。いや、香水にも興味ある。ああ見て、あの靴可愛くない!?」

「……どれでもいい」


 ファンタジーな街並みを目の前にして楽しいとは思うけど、それ以上にダルイ。今のリーリアちゃんのテンションについていく元気が私にはない。だから返事は素っ気なく、それでいて覇気のない物となった。


「そうよね!まずは軍資金からよね!どこかに魔物の素材を買い取ってくれるお店はないかしら。……あった!あそこに行くわよ!ほら、はやく!」


 私は何も言っていない。なのにリーリアちゃんは自分で最初に寄るべきお店を、まるで私が提案したかのように言って私の手を引っ張って速足で歩きだす。

 それについていくと、私の肩が進行方向にいた身体の大きな男性にぶつかってしまった。相手はイカつく目つきの鋭い男で、薄着で露になっている肌には切り傷やら火傷が治った跡がたくさんある。どっからどうみてもカタギじゃない感じの人だね。


「おい、どこに目ぇつけていやがる!」


 すると、やっぱり絡まれた。高圧的にこんなにか弱い私を見下ろして威嚇する姿は、男として情けない。

 いや、ぶつかった私も悪いんだけどね?しかも謝りもしないから怒るのも無理はない。咄嗟な事で声が出なかったんだよね。


「……ごめん」


 いきなり怒鳴られたのはむかつくけど、私にも悪い所があるので謝っておく。


「ああ?ごめんなさい、だろうがっ!ちゃんと謝れねぇってなら、金をよこしな!それでチャラにしてやる!」


 いや、それはウザい。私は誠意をこめて謝ったし、怪我もないんだからもういいじゃん。ぷんぷん。

 それに今、私の身長やら服装やらを見てからお金を請求しようと判断したよね。相手を選んでいるのがこれまた情けないのなんの。


「……」


 そこに、リーリアちゃんが私と男の間に割って入った。


「な、何だ、嬢ちゃん?このガキの連れか?だったら話は聞いてたよなぁ!?金を寄越しな!それとも……身体で払ってくれてもいいんだぜぇ?」


 リーリアちゃんが美人さんだからって、そんな事を提案する男に私は腹が立った。リーリアちゃんの身体を、この男が自由にするだと?冗談ではない。腹の底からむかついてきたので思わず殺気立ってしまう。

 そんな私を落ち着かせるように、リーリアちゃんが足踏みして大きな音をたてながら口を開く。


「失せな、ゲス野郎。さもないとあんたの小さい玉を掻っ切るゾ」


 それは、竜語ではなく人語だった。カタコトな人語で下品な言葉を口にするリーリアちゃん。いや、リーリアさん。カッコイイっす。

 いやそうじゃなくて、誰だこんな言葉をリーリアちゃんに教えたのは。いや分かってるよ。あの通訳さんだね。実はあの人ノリノリで変な言葉を教えるタイプの人で、リーリアちゃんもリーリアちゃんでそれを面白がって覚えてるから心配してたんだよね。


「ああぁ?」


 毒を吐いたリーリアちゃんを、男が額に血管を浮かび上がらせて睨みつける。

 でもリーリアちゃんの眼力の方が強力だった。その上リーリアちゃんの背後では私が殺気を放ちながら男を睨んでいる。


「……じょ、冗談だ。へへ。仲良くしようぜ」


 それにヒヨった男が、敵対心がない事をアピールするように手を上げた。そしてそのまま立ち去って行く。

 案外呆気ない。


「変なのに絡まれてんじゃないわよ。さ、行くわよ」


 再びリーリアちゃんに手を引かれて歩き出すけど、ちょっと待ってほしい。人の事をドジっ子みたいに言うけど、さっきのは無理に私の手を引っ張って来たリーリアちゃんのせいである。名誉のために言っておくけど、そういう事だから。


「──リンク族か。高く売れそうだな」


 人ごみの中から聞こえて来た、不穏な声。振り返るとそこには大勢の人がいるだけで、怪しく思える人物はどこにもいない。

 この声自体が、『聴覚強化』のスキルがなければ聞こえなかったような物だ。この人ごみの中でその台詞を聞き取れたのは私だけだと思う。

 何か、気持ち悪い。でもその声の主を探そうにも、私はリーリアちゃんに手を引かれているので別行動が出来ない。もし自由だとしても、そんな独り言みたいな台詞にいちいち対応なんてしていられない。気にはなるけど、放置するしかないか。


 さて。何故先ほどの男が怖がらずに私に絡んで来たのか、その理由を話す必要があるだろう。

 私今、白を基調としたドレスを着込んでいるんだよね。しかもスカートにはワイヤーが通っていて、ふっくらと膨らんでいるタイプのを。その膨らんだスカートの中には、触手がしまいこんである。その上で頭には顔が隠れるように頭巾を被り、私の正体が皆にバレないようにしてあるのだ。

 正直言って、この服はさすがに恥ずかしい。こんな服着た事がないし、自分に似合うとも思えない。でもこの服を着て見せた時のリーリアちゃんの喜びようを前に、脱ぐ訳にはいかなくなってしまった。そしてそのままお城を連れ出されたという次第である。

 町がパニックにならないようにと、ネルルちゃんの提案で正体が分からない格好になる事になった。リーリアちゃんがそれに乗っかり、私にこんな服を着せて来たのだ。

 恥ずかしい。なんという屈辱。これで顔が見られていたら死ぬ所だ。


「次はぶつからないようにしなさいよ。前を見て、ちゃんと私に付いて来なさい。いいわね」

「……うん」


 でもリーリアちゃんが嬉し楽しそうで、それだけで心が満たされる気分だ。それに、今日のリーリアちゃんなんだか凄く頼りになる。こんなリーリアちゃんを見るのは初めてで、新鮮だ。


 新たなリーリアちゃんの一面が見れて、それだけでリーリアちゃんに付いて出掛けて良かったなと思えるよ。体調的には辛いけどね。でもついでに街並みも見学する事が出来る訳だし、頑張ろうかなと思える。


 ……いやホント、私ってつくづくリーリアちゃんに依存しているなぁと思うこの頃だ。


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