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だめ魔物


 フェイメラちゃんとアルメラちゃんは、このお城で暮らし始めてからしっかりと勉強している。時々村での暮らしを思い出すのか、姉妹共に泣き出してしまう事もある。だけど姉妹で慰め合って前を向き、立派な大人となるための努力を惜しまない。その姿勢には見習う所がある。

 リーリアちゃんも、姉妹と一緒に勉強している。人の言葉を習ったり、計算だったり歴史だったり……。まだまだ子供だった時から私が村から連れ出してしまったので、色々と知識不足な所が目立つからね。この機会に基礎的な計算くらいはマスターしてもらおうかと思って、私が提案して勉強を習わせているのだ。ちなみに本人はかなり嫌がっている。でもやってもらう。言語の勉強に関しては熱心に習っているんだけどね。あの通訳の女性とも仲良くなり、彼女と一緒に自主勉に励む姿もよく見かける。

 町の方は平和そのものだ。アレ以降変な争いは起きていないし、神様関連の人もこの町にはもういない。匂いが全くしないからね。ただ戦争の傷跡は大きく、その傷が癒えるまでは時間がかかりそう。


「あ、アリス様、おはようございますっ。も、もうお昼近くなるのでそろそろ起床の方を……お、お願いしてもよろしいでしょうか……」


 気持ちよくふかふかベッドの上でゴロゴロとしていると、ネルルちゃんに声をかけられた。

 私に声を掛けただけだと言うのに、彼女の顔は相変わらず顔面蒼白だ。恐怖で倒れてもおかしくないんじゃないかってくらい、震えている。

 基本私が話しかけない限り黙っているネルルちゃんだけど、こうして話しかけて来たと言う事は上の立場の人に起こせと言われたからだろう。


 昼……。昼、か。

 道理で窓から差し込む日の光が強いと思った。


「……あともうちょっと」

「は、はい!ごゆっくり!」


 せっかく起こしてもらってなんだけど、私は起きるという選択を取らなかった。

 この自堕落な生活、懐かしい。こうやって部屋に籠もっていると前の世界を思い出す。この世界に来てからずーっとサバイバルで、しかも命の取り合いの連続だったのだ。たまの休日くらい、ゆっくりと休ませてほしい。


 幸いにして、ネルルちゃんは無理に私を起こそうとは絶対にしない。だからゆっくりとまだまだ寝ていられる。

 これでゲームがあったら文句なしだね。一日中ゲームして、せっかくの休日は昼夜逆転の堕落モードとしゃれこみたいところ。


「ごろごろしてないで起きなさい!」


 そんな怒鳴り声と共に、私が被っている布団がひんむかれた。

 今の私は寝間着の薄手のワンピース姿だ。太ももが露になった上で簡単に胸も覗けてしまう、けっこうセクシーなやつ。そんな姿を布団を剥がれた事で晒してしまう事になり、ベッドの上で身をよじって隠そうとするけど逆にエロい感じになってしまう。


「……」


 私は上目づかいで布団をはいできた人物を見つめる。

 その人物は、リンク族の少女。リーリアちゃんだ。


「もうお昼よ!?いつまで寝てるつもりなのよ、このだめ魔物は!」

「……もうちょっと」

「却下。起きろ。起きないと殺す。起きても殺す」


 殺気の籠もった目で睨まれ、私は仕方なくベッドから這い出た。そしてまずした事は、コートを羽織ってフードを被ると言う行動。このスタイルじゃないと、落ち着いて上手く話せないからね。

 へへ。情けない。


「何か用?」

「……はぁ」


 そして改めてそう尋ねると、ため息を吐かれた。

 人に向かってため息を吐く人は、ため息を吐かれる人の身にもなってほしい。けっこう心が痛くなるから。

 私だってわかってるよ。こんなお昼近くまでだらだらと寝ていたら呆れられるのも無理はない。リーリアちゃんやフェイメラちゃんとアルメラちゃんには勉強させておいて、自分はこれだもんね。

 でも仕方ないんだよ。私は前いた世界では、コミュ障の若干引きこもり傾向な可愛い女の子だったんだから。それを思い出してしまっただけなんだよ。この安全地帯に滞在する事でね。


「町に行ってみようと思うんだけど、一緒に来てよ」

「町に?」

「そ。これだけの町だもん。面白い物が色々とあるに違いないわ。特に!服もたくさんあるはず!」


 リーリアちゃん、服好きだもんなぁ。サバイバルの時は動きやすい服だったけど、買い出しで小さな村や町に立ち寄る時は、お洒落して行くんだよね。そして決まって食料やら道具やらのサバイバルに必要な物だけではなく、いつ使うんだってくらいお洒落な服も購入して来る。その辺は女の子である。

 今だって、地味目の色のフリル服を身にまとい、いつもと違う雰囲気のリーリアちゃんとなっている。スタイルがいいから何でも似合って可愛いんだよね。ていうか世界一可愛いんじゃないかなと思う。


 食べちゃいたい。


「という訳で、さっさと準備しなさい。あんた、魔物の素材も訳の分からない力でしまいこんでるでしょ。それを売ってお金にするわよ」


 私の手を引っ張って早くするように促してくるリーリアちゃんだけど、私は乗り気ではない。

 そりゃあ、ファンタジー世界の町とか興味ある。この町を初めて訪れた時は色々と見て回りたいとも思った。だけど今の私は陰キャの引きこもりモードに突入しているのだ。人が大勢いる町にお買い物に出かけるとかごめん被りたい。


「私はいい。素材は出すから、一人で行って」

「どうせゴロゴロしてるだけなんでしょう!?だったら一緒に来てよ!」

「……嫌」

「なんでよ!」

「気がのらない」

「……」


 丁重にお断りするとリーリアちゃんの手から力が失われ、私から離れた。

 いやに素直だなと思うと、リーリアちゃんが俯いている。そして唇と尖らせ、頬を赤くしていじけてしまっている。


 彼女は大人びて見えるけど、実はまだまだ子供だ。私を姉の敵として恨んでおり、時々殺そうとはしてくるけど同時に甘えても来る。素直に甘えたりはしてこないけどね。

 そこがまた可愛い所で、しかし寂しくもある。


 私は彼女のその顔に弱い。ここで突き放したら彼女が寂しい想いをしてしまうから。彼女を村から勝手に連れ出し、森の中のサバイバル修行生活を強要した私には、彼女を寂しがらせないという義務があると思う。

 だからその顔をされると、どうしても手を差し伸べずにはいられなくなってしまう。有体にいって、要求を呑んで思う存分甘やかしたくなる。ダメな親かっ。


「……仕方ない。一緒に行く」

「ホント!?いや、別に嬉しいって訳じゃないわよ。そこは勘違いしないでよね!」


 どこのツンデレさんですか。

 でも可愛いから許す。


「ネルル。リーリアと町に出かけるから準備してほしい。ご飯は準備してくれてあるなら食べる。準備してないならいらない」

「は、はい。起きてから温めてお召し上がりいただこうかと思っていたので、準備はまだです」

「なら、服を用意して」

「は、はい。準備はしますが……その……」

「言って」

「っ!ま、町へ出かけるのなら、カトレア様に頼んで護衛を付けてもらった方がいいかと。カトレア様が町中にアリス様の活躍について公報しているので、皆アリス様の事は知っています。で、ですので、皆アリス様の事をこわが……いえ、感謝していますので、手を出そうなどという者はいないでしょうけど、念のためです」


 そっかー。お姫様が私の事を町に広めてくれたんだー。一体どんな風に広めてくれたのかなー?ネルルちゃんの話によると、感謝しているのではなく怖がっている事がよく分かる。

 ま、もうどうでもいいけどね。自分が人々にとって、異形の存在であることは重々承知しているから。私を好きになってもらうのは無理がある。

 誰も私なんかを好きにはならない。それでいい。


「護衛はいらない。自分の身は自分の身で守れるから。お姫様には私はリーリアと町に出かけたと。それだけ伝えておいて」

「え?で、ですがそれでは──」

「服を用意して」

「は、はいぃ!ただいま、今すぐに!だから食べないでください!」


 確かにネルルちゃんの言葉を遮って服を用意するように言ったよ。それは若干強めのトーンになってしまったかもしれない。でも怒った訳ではない。ネルルちゃんの懸案事項は承知した上で出掛けると言う意思表示をしただけだ。

 それだけでネルルちゃんは顔を真っ青にして、私に食べないでと懇願して涙目になりながらタンスから町に出かけるための服を見繕ってくれる。

 身の回りのお世話をしてもらっておいて、さすがにここまで怖がられるのは申し訳がない。だから、彼女には出来るだけ優しく接するように気を付けよう。そう思った。


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