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裏切り者


 お姫様の口車に乗せられるようでアレだけど、この国を守るのではなく、この国に名前を貸すだけというならそれは別に構わない。

 でも別に私の名前がこの世界に轟いている訳ではないので、その効果は疑問だ。それでいいというなら貸すけど、その後何があっても私の知った事ではない。

 それを前提にしたうえで、名前を貸す条件を提示させてもらう。


「……名前を貸してもいい」

「ありがとうございます!それでは早速──」

「ただし、条件がある」

「なんでしょう。アリス様の提示する条件でしたら、なんでものみますわ」


 条件を言う前にその提案は、あまりにも軽率で危ういよお姫様。もし貴女を食べたいとか言い出したらどうするつもりなのさ。なんでもと言った手前、きっちりと食べさせてもらわなければいけなくなる。

 約束を反故になんかさせない。この場で、その美しい身体を貪らせてもらう。


 おっといけない。なんでもという提案に、ちょっと興奮してしまった。


「条件は、あの姉妹の保護者になって」


 私は触手で指を指すようにしてソファに座る姉妹を指し、その条件を提示した。


「分かりました」

「……なっ」


 お姫様の返事は即答。しかし通訳さんが私の言葉を翻訳し、それを聞いたリーリアちゃんが驚きの声を上げた。


「あんた、何考えてるの!?」

「何って?」

「なんであの姉妹をこいつらに保護させるのよ!?」

「裕福な家庭に預ける。リーリアが言った事」

「いくら裕福ったって加減てもんがあるでしょうが!なんでてっぺんを目指すのよ!もっと下の丁度良い感じの所にしておきなさいよ!」

「どうせなら、てっぺんの方がいい」


 その方が、心置きなく預けておけるからね。


「……あんた、自分がいかにとんでもない事を言い出したか分かってる?あの姉妹を、王族の保護下に置く事になるのよ?それがあの子達にとっての幸せになると思う?ただの平民だったあの子らが、ただでさえ生活が一変してしまったこの時期に豪華絢爛な華の貴族生活に突入とか、精神上よくないでしょうがっ」

「……良い生活が出来るなら、いいと思う」

「あんたねぇ……!」


 リーリアちゃんの言いたい事が良く分からない。生活が一変といっても、生活水準はこれまでよりもよくなるはずだ。良い生活ができるなら、ホントいいじゃんと思う。


「リーリア様の言いたい事も分かりますわ」

「そうでしょ?あんたからも……て、あんた言葉が分かるの……?」

「竜語でしたら、習得済みですわ」


 突然、お姫様とリーリアちゃんが話し出した。

 お姫様は言語理解が色々あったからね。その中にはリーリアちゃんが使用する言語の竜語もあった。だから通訳さん抜きで普通に会話で来てしまう。


「リーリア様の懸念も考慮し、こうしましょう。あの姉妹は確かに私が保護します。その素性は先の戦でアスラに殺された王族と縁のある人物の子とでもしておき、責任をもって王族がその身を保護。育てる事とした」

「成人するまで、勉強を教える必要もある」

「勿論、成人するまでしっかりとお勉強はしていただきます。このお城に住むことになるので、最低限のマナーも覚えていただく事にもなるでしょう。成人したら、後は本人たちの自由。更に深くお勉強をしたいというなら専門の学校に入る手続きをいたしますし、お金も出します。城を出てどこかで働きたいというならそれを支援します。このお城に残って貴族のように暮らすもよしですし、結婚の願望があるようでしたら出来るだけ意にそった相手を探しましょう」

「なにそれ。腹が立つくらい恵まれた人生」


 リーリアちゃんは保護者であるあるラネアトさんを失い、その身を触手の化け物に預ける事となった。そしてちょっぴり危険な旅に駆り出されると言う、デンジャラスな人生を送っている。

 その違いを抗議するかのように、私の方を横目で見て来る。でも、見られたからと言って何かが変わる訳ではない。


「そんな感じでいかがでしょうか」


 文句はない。リーリアちゃんの言う通り、恵まれた人生が送れそうだしね。

 しかしその会話の内容を、竜語で話して本人達に聞こえないようにしたお姫様はやはり策士だと思う。こんな会話、子供の前でする物ではない。

 通訳さんもそれを理解し、翻訳しなかった。


 王様と大臣は先ほどからすっかりおとなしくなっている。あんなに魔物の支配下になるものかーとかお姫様に向かって怒鳴り散らしていたくせに、先程のお姫様の怖い表情を見てから再びおとなしくなってしまった。その表情から、不満はありそうだけどね。

 そのおかげか、竜語で繰り広げられた会話を気にするような素振りも見せない。王様にとって、今は姉妹の事なんてどうでもいいのだろう。


「……いい。それともう一つ」

「なんでしょう。いくつでも、何でも受け入れますわ」


 そして再びそんな魅力的な事を言ってくる。

 2回目と言う事もあり、ここは欲には流されずにスルーさせてもらう。


「まず、紙とペンを貸して」


 私の要求を聞き、お姫様が頷いてベルを鳴らした。そして部屋に入って来た礼装姿の兵士に耳打ちをし、しばらくして紙とペンとインクを持ち、兵士が戻って来た。

 それらを机の上に用意した私は、とある絵を描き始める。それは人の目を囲むように火がたちこめ、目にトゲが刺さっているかのような変な絵だ。描いておいてなんだけどね。でもデザインしたのは私じゃない。


「この絵は?」

「貴女は、神という存在を信じてる?」

「……その存在を信じるかどうかという意味であるのなら、信じています。かつて神は存在し、この世界を作りあげた偉大な存在です。それは記録にも残っており、疑いようのないこの世界においての常識ですので」


 記録に神様の事が残ってるって事?そんなの初耳だ。私はまだまだこの世界の事に関して知らない事が多すぎる。

 特に神という存在がこの世界においてどういう存在なのか。それを確かめる必要がありそうだ。


 私のアリスエデンの神殺しの世界の知識で考えると、神は絶対なる悪だ。人々を支配し、家畜のように扱った大悪人。

 この世界の人々は全員が神に支配されている訳ではなく、神の家畜という訳でもなさそうだけど、ちょくちょく状態異常で神に支配されている人がいる。あの赤い人たちの中に混じっていたし、


 それに、ここにもいる。


「この印は、神に支配されている証。この印を身体に刻んでいる人は神の操り人形」

「それはつまり、神が存在して人を操っている、という事でしょうか」

「そう。神は恐らく、敵。この国に攻めて来た赤い人の中には神に支配されている人もいた。神に支配されると言う事は、神の家畜となる事。そして家畜となった人は神の命令によって争いをおこしたりもする」

「今回のアスラ神仰国の、この国に対する攻撃。それにも神が関わっている可能性が?」

「ある」

「……なるほど。確かにこの印を身体に刻む者がアスラに情報を流していましたし、それになによりアリス様がそう言うならそうなのでしょう。ねぇ、チャルス」

「……ひ、ひぃ?わ、私には判断しかねます所で」


 お姫様が大臣に目を向ける。すると大臣は一瞬黙った後に、先ほどと同じおどおどとした様子を見せた。


「知ってたの?」

「ええ。チャルスは密かに、アスラにこの国の情報を逐一漏らしていたのです。鳥に伝書を取り付けて飛ばして、ね。オマケにこの印。この印はチャルスの足に刻まれております。思えば、アスラ神仰国と名を改める前……。アスラが国名をギギルスと名乗っていた時に、チャルスを使者として送り込んで帰って来てから様子がおかしくなったようが気が致しますわ。足の印はその頃からお見掛けするように……」

「ど、どう言う事だカトレア。オグモンドが……ワシを裏切っていたと言うのか……?」


 王様が震えるような弱々しい声で尋ねながら、大臣の方を見る。

 大臣は相変わらずおどおどとしながら汗をハンカチで拭き、変わった様子はない。

 いやおどおどとしているのは怪しいけどね。でも指摘される前からこんな感じだったし、まぁコレがいつもの彼なのだろう。


「わ、私が裏切るなどそんな事……。王よ、魔物の戯言に騙されてはいけませぬ。印の事など出鱈目ですし、神が人々の精神を支配して操り争いをおこすなど、あり得ません。この者は恐らく、内部からこの国を崩壊させようとしているのでしょう。姫様も姫様です。姫様は魔物とこのチャルス、どちらを信じるというのですか?」

「あら。私の話を聞いていなかったのですか?私は貴方がアスラと繋がっていた事を知っています。そのような人物を信じろなど、よくぞまぁ言えたもの──」


 お姫様が言い終わる前に、お姫様に向かって銀色の刃が襲い掛かった。それは刃物であり、殺傷能力のある武器である。オマケに刃には毒が塗ってあるようだ。ガオウサムと同じような臭いがずっとしていたので分かっていたよ。

 それ以外にも、とにかく臭くてたまらなかったんだよね。神様関連の人の臭いが充満していて、いつ食べてやろうかとずっと構えていたんだ。


 それらの臭いの発生源は、全て大臣さん。


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