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会議


 しばらく馬車に揺られ、お城へと辿り着いた。町を囲う壁とは別に、お城も大きな壁に囲まれているので門をくぐる事となる。お城は半分ほどが大きな壁に囲われ、もう半分は湖によって囲まれているので全方位がガッチリと守られている感じ。

 門をくぐるとまずあまり広くない複雑な通路に出迎えられ、馬車はその通路を進んでいく事になる。

 通路には、人が大勢いた。服装から、兵士ではなく一般の人だと言う事が分かる。町から退避していた人々だろうか。確かにこちらの方が守りがガッチリしていそうだし、退避しておくのは良い事だと思う。

 でもなんか引っ掛かる。お城の外……町の方にも人はいた。ここに退避できた人と、外の人との違いってなんだろう。


 まぁ、うん。分かるよ。全員をお城の中にいれてたら溢れるもんね。選ばれた者は中へ。選ばれなかった者は外に。当たり前といえば当たり前で、そのやり方に部外者の私が口出しをするつもりはない。


 で、通路を通り抜けていき、通路にも何枚かある門をくぐり抜けてようやくお城の本体へと辿り着く事ができた。辿り着いたら早速お姫様に中へと通され、兵士やら豪華な服に身を包んだ偉そうなおじさんやらメイドさんやらに囲まれて歩いていく事になる。

 ファンタジー世界のお城を堪能する暇すら与えられないのはちょっと残念。外からゆっくりと見たかったけどまぁ今じゃなくてもいい。


 今堪能すべきは、メイドさん。上品な黒のロングスカートにエプロンをつけた美しい女性たちは、見ているだけで癒される。私的にはスカートを短くしてガーターベルトによって色気を醸し出したイロモノなメイドさんが好きなんだけど、コレはコレで好きだからイイネ。食べちゃいたい。


 そんな私の心情を察しているのか、メイドさんが私に近づくのを嫌がっている。ビクビクと震えていかにも私を怖がっているのが丸わかりだ。

 まぁ私を怖がっているのはメイドさんだけではない。兵士やおじさんも私を見て怖がっている。

 いくらお姫様が私の事を、「この国を救っていただいた英雄のアリス様です」とニコやかに紹介しても、そうなんですかーニコニコとはならない。


 だって私、魔物だし。


「あんた、かなり怖がられてるみたいね」


 そんな状況を、リーリアちゃんが茶化すように言って来た。

 馬車で寝てだいぶ疲れがとれたようで、彼女は私の肩も借りず自分で歩いている。良かったけど、嫌味はウザいよ。

 でも茶化されるのも無理ないくらい、お城の中はパニックだ。正体不明の魔物の姿を目にすると、誰もが驚いて目を見張ってジロジロとみてきたり、腰を抜かしたり、逃げ出すんだから。


 そんな反応が段々とウザくなってきた所で、ようやく部屋の中へと通された。豪華でド派手な壁画があしらわれた、円卓のある一室だ。窓はない。灯りは天井から吊り下がるシャンデリアの光で照らされているのでとても明るい。いわゆる会議室的な部屋かな。装飾が豪華で落ち着かないけどね。


 座るように促されると私は遠慮なくイスに座り込んだ。リーリアちゃんも、遠慮なく腰を下ろす。フェイメラちゃんとアルメラちゃんは、部屋の隅にあるソファの方に座ってもらう事にした。

 こんないかにも会議しますみたいな席に子供がついても、委縮してしまうだけだろうからね。


 席についたのは、私とリーリアちゃん。そして対面がわにお姫様と、豪華な服装のひょろながおじさん。


「ふん……!」


 それと、遅れてやって来た王様だ。彼は鎧姿から白の礼服姿に着替えており、やっぱりポッコリと出たお腹が目立つ。


「……この状況は、何」


 おとなしくついてきておいて、それでいてイスに座ってまでなんだけど、私は聞かなければいけない事を尋ねた。

 私はただ、この町を救った英雄として歓迎のパーティでも開かれるのかと思ってついて来たんだよね。ご飯がいっぱい出て、美女が踊り見る者を楽しませてくれる、そんな宴がさ。

 でもこれ、どうよ。あまり広くない部屋に期待していたご飯はなく、美女はお姫様やリーリアちゃんがいるけど踊ってくれる訳ではないし、あとはおじさん2人と可愛い姉妹だけ。


「貴様の処遇を決める会議に決まっておるだろう!」

「ひっ!?」


 私の問いに、王様が机を強く叩きつけながら答えた。私は特に反応しなかったけど、豪華な服を着こんだひょろながおじさんと、ソファに座っている姉妹がビックリしている。


「……父上。何度も言っていますが、アリス様はこの町の恩人です。失礼な発言や態度は、慎んでください」

「むっ……うっ」


 お姫様に睨まれると、王様は委縮する。

 ホント、この2人の地位って実は逆なんじゃないかな。お姫様が王様で、王様はその部下。その方がしっくりくる。


「失礼しました、アリス様。この場でアリス様とこの国の行く末について、重要な事を決めたいと思いまして……。あ、遅れて申し訳ございません。こちらは大臣の、チャルスという者です」

「ひ、ひぃ。ちゃ、チャルス・オグモンドと申します。あ、アリス様には此度の戦でアスラ神仰国から我が国を守っていただいたと聞き及び、まま、まこと感謝の念にたえませぬぬぬ」


 ひぃ?ぬぬぬ?


 お姫様に紹介されると、おじさんは大量の汗を額から流し、それをハンカチで拭いなら目を泳がせる。完全に、私怖がられてるね。

 試しに触手をうねらせてみると、やっぱりまた悲鳴をあげた。


「重要な会議ゆえに、彼にも参加していただきます。そして改めまして、アリス様。この国を救っていただいてありがとうございました。この国を代表し、お礼を申し上げますわ」

「お礼は、もういい。この国の事なら自分たちで勝手に決めればいいし、私がこの場にいる必要はない」

「それが、そう言う訳にはいかないのです……。実を言うと今回のアスラの侵攻により、この国はザイール諸王国軍に見捨てられてしまいました。困りました」


 困ったと言う割にお姫様は笑っている。その笑顔は相変わらず怖い笑顔だけどね。

 とそこで、私の隣に座るリーリアちゃんが私の服を引っ張って来た。


「どうしたの?」

「どういう状況か、説明して」

「……会議、するらしい」


 言葉も分からないのにこの場にいるのは気持ちが悪いだろう。かといって同じことを繰り返してリーリアちゃんに伝えるのも面倒だ。あとで短くまとめるだけじゃダメかな。


「通訳を用意します」


 困っているとお姫様が机の上のベルを鳴らし、それを聞いた礼装の兵士が部屋に入って来た。そしてお姫様が彼に耳打ちして去って行くとしばらくして、髪を後ろで結った礼服姿の女性が部屋に入って来る。彼女は紙とペンを持参しており、それを手にリーリアちゃんの傍らに立った。

 どうやら彼女がリーリアちゃんに同時通訳してくれるらしい。助かる。


 準備が出来て、お姫様が話の続きを開始した。


「本来であれば、ザイール諸王国に所属する一国が攻められれば他の諸王国が派兵する義務があります。しかしその約束は果たされず、この国に他のザイール諸王国から派兵される事はありませんでした。密偵の報告によると、どうやらこの国を囮にして時間稼ぎをしている間に防衛線を築いているようですわ。皆で協力すればアスラを倒せる程の戦力になるものを……愚かにも、兵や食料の消耗を鑑みてこの地に派兵する事を躊躇った者がいるのでしょう。どう思いますか?」

「……怒る」

「そうでしょう?信じられませんわ。腰抜けどもが、いつか必ず後悔させてやる……」


 お姫様は相変わらず笑顔だけど、その笑顔に陰りが見えて更に怖くなる。王様と大臣がその笑顔から目を背けるようにして汗を流し、自分は関係ないみたいな顔してるけどコレこの国のお姫様だよ。


「貴女はその国を、私に滅ぼしてほしいの?」

「いえ、違います。かの国への復讐はまたの機会に……勘違いさせてしまい、申し訳ありません。それで本題なのですが、今回の件でこの国はザイール諸王国を脱しようと思います」

「なっ、何を言っておるのだカトレア!?諸王国を脱すればこの国は単独の小国に過ぎなくなる!それだけではない……勝手な行動をすれば諸王国から交易も止められる恐れもあるのだぞ!?」


 お姫様の発言に慌てて大きな声をあげたのは王様だ。

 私もなんとなくそれが大変な事だと言う事は分かる。でも裏切られたならしょうがないじゃん。抜けちゃえばいいよ、そんな役に立たない連合的な物。


「だとしても、今回の諸王国の決定に私は深く失望致しました。彼らが動いてさえくれればもっと前に出て迎え撃つ事も可能でした。しかしそれを不可能にし、この国の民が大勢殺されたこの事態を私は許す事が出来ません」

「かといって、五代前から続いていた諸王国を抜けるとは……!」

「何代前から続いていようが、関係ありません。この国を見捨てた国々と、この先も同じように付き合っていける訳がありませんもの。あちらがこちらを見捨てると言うなら、こちらもあちらを見捨てる。道理にも適っていますわ」

「……ダメだ。それだけは、ダメだ!考えなおすのだカトレアよ!ザイール諸王国を抜ければこの国は小国と成り下がってしまうのだぞ!それはこの国の繁栄のために邁進するという父との約束を裏切る行為!いいや、父だけではない!先代の王皆にわしは顔向けができなくなってしまう!」


 この王様、お姫様の言いなりかと思ったけど案外違うようだ。自分の主義主張をちゃんと言葉にして抗議する姿は好感が持てる。特に、相手がこんな怖そうなお姫様だとなおさらカッコよく見えてしまう。


 ま、なんにしろ私には関係のない話だ。さっきも言ったけど、そういうのは私がいない所で勝手に決めて欲しい。


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