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王様と、お姫様


 壁の上に立っているのは、男の人だ。白髪交じりの金髪をオールバックにし、その頭の上には様々な色の宝石がちりばめられた黄金の冠を乗せていて、太陽の光を反射し輝いている。顔には小じわが目立ち、年はそれなりにいっていそうだけどおじいさんって程ではない。背は高い方かな。でもお腹が出張っているのか、身に着けた鎧の形状は丸っこくてその我儘ボディを表現していて、本来カッコよく見えるはずの格好がちょっとコミカルに見えてしまう。

 で、今なんて言った?私に去れと。邪悪な魔物って言ったよね。

 臆さずに堂々と私に向かって話しかけてきた人間は、一連の騒動の後初めてだ。それも挑発気味の言葉で。ちょっと感心だけど、それは蛮勇と呼ばれるべき勇気だと思う。あの人、私がした事をきっと知らないんだね。


「皆の者!この魔物をさっさと処分するのだ!」

「っ……!」


 その命令に従おうとする者はいない。私が周囲の兵士を見るとビクビクとして目を逸らし、攻撃するどころか身を隠そうとする。

 それでいい。もし攻撃しようものなら、私は容赦しない。ましてやリーリアちゃんやこの姉妹に危害を加えようものなら、一帯を吹き飛ばしてもいい。


 たった1人の愚行が、大勢の仲間の命を奪う事に繋がってしまう。


「何をしておるのだ!何を怯えている!このデサリットには、天を味方に付け圧倒的な力を持つアスラ神仰国を退けた英雄──『ゲイルグ・ベルハート・レ・デサリット』王がいるのだぞ!何も怯える必要は、ない!のこのことやってきたバカな魔物を殺して八つ裂きにするのだ!」


 行動を起こそうとしない兵士に苛立ちを隠さず、地団駄を踏むこの人間は、バカなのだと確信した。

 天を味方につけて退けた?それが自分の実力だと。そう言いたい訳だ。

 そしてそんな人間が、王様ねぇ……。周りの人たちもさぞかし苦労してるんだろうなぁと、この町に住む王様以外の人に同情してしまう。


「──お、王様!発言をお許しください!」


 さてどうしようか。とりあえず王様を食べて皆の出方を見ようかと思ったけど、私の後方の少女が地面に跪き、上にいる王様に話しかけた。

 姉妹のお姉さんの方だね。それを真似て、妹ちゃんも同じように跪いている。


「何者だ?」

「カヤック村の、フェイメラ・リングレイシアと申します」

「カヤック村……」


 村の名前を聞き、王様が目を細めて複雑そうな表情を浮かべた。

 その表情の意味はよく分からない。


「発言を許す!」

「ありがとうございます。こ、こちらのお方は、アスラ神仰国の兵を撃退してくださったお方で……私と妹の命の恩人であると同時に、この町を救ってくれた方でもあります。つまりその……アスラ神仰国の兵を一掃したのは天でもなんでもなく……こちらのお方なのです!」

「……ほう。野蛮なヤスラの連中を握り殺した岩石の手。大地を裂き、アスラの連中を地に落とし殺めたあの現象を、貴様は天ではなくこの魔物がおこした現象だと!そう言いたいのか!」

「はい……!」

「ふ──ふははははは!では聞くが、どうやってあのような現象をこのように小さな魔物がおこしたというのだ!」

「そ、それは、魔法で……」

「魔法?魔法だと!?あのように大規模な魔法など、この世に存在せん!田舎出身の娘は知らぬだろうが、魔法とは貴様が考える程単純な物ではないのだ!軽々しくアレを魔法などと言うな!アレは天がこのゲイルグに味方し、アスラの連中に下した天罰であるのだ!」


 事実だと言うのに、王様はバカにするように笑い飛ばした。そしてあくまでも天が王様に味方しか結果だと、そんなもっとバカみたいな事を貫き通そうとする。

 天罰がどうのこうの言い出すこの王様も、赤い服の神父と変わらないように見えて来たよ。

 目の前でやって見せてあげれば、分かってもらえるのかな。私があの魔法を発動させたことを。先ほど若い兵士に見せた小さな物ではない。赤い鎧の兵士たちを吹き飛ばしたのと同じ規模の魔法でだ。そうしなきゃ、この人はきっと信じてくれないだろうから。


「……なに、あのおっさん。何て言ってるの?」


 言葉を理解できないリーリアちゃんが、そこで私に耳打ちするようにして尋ねて来た。


「私を中に入れないって。あと、赤い人たちを退けたのは天が自分に味方したからだって言ってる」

「あんたを中に入れないってのは正しいとして、天が味方したってのは頭おかしいわね」


 いやまぁ……確かに私魔物だった。と考えれば中にいれてくれないっていうのは当たり前なのかもしれない。

 でも私、この町を救った英雄だよ。さっきリーリアちゃんも言ってたじゃない。堂々としてればいいって。その結果中にいれてくれないとか、話が違うと思います。


「ぬぁにをごちゃごちゃ言っておるのだ!これ以上この場にとどまるというなら、本当に容赦せんからな!おとなしく去るならよし!去らぬなら八つ裂きにしてくれよう!」


 既に兵士をけしかけてたよね。殺せ、って。

 でもそんな抗議をこの人が受け入れてくれるとは思えない。

 まぁこんな門くらい、自分で開く事ができる。開けてくれないのなら自分で開けるからいいよと思いながら門に近づくと、なんと門が開き始めた。

 格子が上から落ちてくる形のその門が、動き出した歯車によって門に繋がる鎖が巻き上げられ浮いて行く。


「なんだ!?どうした!?何故門が開く!誰がやっておるのだ、やめさせろ!」

「お、落ち着いてください!落ちますよ!?」


 王様が身を乗り出して慌てているのを見ると、門を開かせたのは王様ではない。というか先ほどから私にどえらく敵対的だから、開けてくれるつもりのはずがない。

 じゃあ誰が開けさせたのかというと、門が完全に開いた所で門の向こうから現れた女の人だと思う。

 女性の髪の色は金色で、髪質は見た事がないくらいキレイ。その髪を一体どれだけ時間がかかっているんだろうと思ってしまうくらい丁寧に編み上げ、美しく整えている。髪には宝石のかんざしのような飾りがつけられているんだけど、髪の美しさに宝石が負けているんじゃないかな。それくらいキレイな髪の毛だ。顔の方もとてもキレイに整っていて、鼻は高くてでも小顔で、自信満々そうなその目は眼光鋭く私とはまるで別の生き物に見えてしまう。

 実際今はそうなんだけどね。私は魔物で、彼女は人間。でもホント、キレイな人。

 身に着けた黒のドレスは胸元が大胆に開き、レースで覆われていて肌色は覗いていないけど谷間がハッキリと見えている。顔がよくてスタイルもよく、ドレスが似合うとかまるでお姫様みたい。


 そして何よりも、美味しそう。


「──ようこそおいでくださいました。私、『カトレア・リグハート・ラ・デサリット』と申します。上で貴女様に失礼な物言いをしたクズは、私の父にあたるものです」


 ドレスを左右の手で少しだけ摘まみ上げ、私に向かって頭を下げて挨拶をしてくる女性は、ニコやかでとても素敵な女性だ。でも自分の親を平気でクズよばわりする口の悪さを携えている。

 で、王様の子供と言う事は、つまり本当にお姫様って訳だ。まぁそうだよね。本当にキレイで別世界の人って感じだし、納得できてしまう。


「……貴女も、私を止める?」

「とんでもございませんっ。私は貴女を歓迎いたしますわ。だって、この町を救っていただいた英雄ですもの。歓迎するのは当然の事であり、クズのように無礼にも門前払いをする者は万死に値します!」


 それは予想外の反応だった。

 お姫様は私に駆け寄ると、私の手を取って輝くような目でフードで隠された私の顔を覗き込みながら訴えかけるように言って来たのだ。

 表情があったら私、パニックになっていたかもしれない。この身体だからこそ、こんな強烈な一撃にも耐えられた。


「カトレア!?カトレアか!?カトレアが門を開いたのか!?魔物を引き入れるとはどういう……いや、それよりも、まだ戦後の処理が済んでいないのに前線にくるのは危険だ!護衛はちゃんとついているのか!?ついていてもつけるのだ!兵士達よカトレアを守れー!」


 依然として上からそんな声が降って来る。でもお姫様は気にする素振りも見せない。

 どうやらお姫様は王様と違い、私を歓迎してくれるようだ。

 それにしても、魔物である私に恐れるどころかいきなり手を握って来るとか、このお姫様もしかして中々のつわものなんじゃないか。


 名前:カトレア・リグハート・ラ・デサリット 種族:人間

 Lv :35  状態:普通

 HP:680  MP:1121


 レベルは普通の人間にしては高い方だけど、普通レベルだ。でもスキルが凄かった。


 『カトレア・リグハート・ラ・デサリット』習得スキル一覧

 ・言語理解:人語

 ・言語理解:竜語

 ・言語理解:魔族語

 ・言語理解:古代語

 ・言語理解:妖精語

 ・物体鑑定

 ・魅了Lv4

・感覚強化LV2

 ・魔力感知Lv4

 ・スキル感知Lv4


 言語理解は私よりも多い。オマケに見た事のないスキルがちらほら。更におまけに魔法も覚えていて、MPの高さから魔法への適性がかなり高い人物と思われる。


「ふふ。どうぞ、満足いただくまでご覧ください」


 お姫様のステータスを覗いている時だった。お姫様が笑いながらそう言ってきて、私は慌ててステータス画面を閉じる事になる。


 この人は、私が彼女のステータス画面を覗いていた事に気づいている。そして同時に、彼女の事が少し怖くなってきた。

 私がステータスを覗いていた事に気づいていたのもそうだけど、なによりも彼女の笑顔だ。彼女の笑顔、笑顔なんだけど底知れない何かを感じる。それは過去に私を嘲笑った人間の笑い方でも、面白い物をみて笑う人間の笑顔でもない。どこにも属さない笑顔。その笑顔は悲しみにも憎しみにも喜びにも見て取れる。

 こんな笑い方をする人間を、私は見た事がない。だから、怖い。


 レベルが低くて華奢な身体の彼女を、化け物である私が怖がるとかとんだ笑い話だよ。


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