やり返しただけ
名前:フェイメラ・リングレイシア 種族:人間
Lv :8 状態:恐怖
名前:アルメラ・リングレイシア 種族:人間
Lv :4 状態:恐怖
私についてくるという選択をした姉妹のステータスは、こう。フェイメラちゃんはお姉さんで、アルメラちゃんが妹ちゃん。
レベルはめっちゃ低い。悪い人間が去ったと言うのに状態は恐怖で、身体は震えっぱなし。一体なにに対してそんなに怖がっているのだろうか。
「……なんで姉妹が付いて来るのよ」
「付いて来るかと聞いたら、付いて来ると言った」
「あんたね……」
リーリアちゃんに肩を貸し、町に歩き出した私達の後ろに姉妹が付いて来ている。
リーリアちゃんは人の言葉が分からないので、先ほどの私の問いかけと姉妹の返答を聞いても、理解できていなかった。
歩き出したら付いて来る姉妹を見て、私に尋ねて来たのだ。そして会話の内容を教えたら、呆れたように頭を抱えると言うリアクションを見せて来た。
「何でも拾えばいいってもんじゃない。付いてこさせて、どこまで連れて行くつもりよ」
「町まで」
「その後は」
「……」
そこまでは考えていない。でも放っておけないでしょ。
私に付いて来ると言う選択をしたと言う事は、彼女らには頼るべき大人がいない。こんな震える状態の姉妹を残していけるものか。というかリーリアちゃんだって姉妹の方をチラチラ見て心配してたじゃない。
「あの子らも、私みたいに旅に連れ出して育てるつもり?」
「そんなつもりはない」
「だったらどうするのよっ」
リーリアちゃんは本気で怒っている。私の軽率な行動が、彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。
確かに私の行動は軽率だったと思う。姉妹は人間であり、ペットでもなんでもない。簡単に拾って良いものではなく、拾ったら責任がのしかかる。
でも私は責任について深く考えておらず、それがリーリアちゃんを怒らせてしまった。
姉妹を旅に連れ出してリーリアちゃんのようにレベル上げをさせるのは、何か違う。だからそのつもりはなく、じゃあどういうつもりで姉妹を連れて行くのかというと、ただかわいそうだと思ったから。確かに、軽すぎる。
「……ごめんなさい。そこまで深く考えていなかった。でも放ってはおけないし、とりあえずは連れていきたいと思う」
「……」
素直に謝ると、リーリアちゃんは黙ってそれ以上は言って来なかった。
「あ、あの……ご迷惑でしたら、やっぱり私達はここで──」
私とリーリアちゃんの口論を聞いていた姉妹のお姉さん──フェイメラちゃんが、ビクビクと怯えながらそんな事を口にした。
言葉は分からずとも、私とリーリアちゃんの口論の内容を察してしまったのだ。まぁチラチラと姉妹の方を見て、声は荒げずとも言い合う姿を見れば分かるか。
「問題ない。だから、心配しなくてもいい」
私はフェイメラちゃんの言葉を遮るようにして即答した。
姉妹は悪くない。悪いのは考えの至らなかった私だ。だから彼女らは連れて行く。
「……町についたら、姉妹を預かってくれる人間を探しましょう。出来るだけ裕福そうな人間に預けて、もし仮に姉妹を傷つけるようならあんたが食べに来ると脅せばいい」
「……分かった」
旅に連れて行くつもりがないのなら、そうするしかないだろう。2人を他人に押し付けるみたいで若干無責任ではあるけど、それが一番良いと思う。
それにしても、リーリアちゃんはそこまで考えていたんだね。2人がお金に不自由しないように裕福な家を指定し、オマケに2人に危害が及べば私が食べに来ると脅せとか、2人の事をちゃんと考えていて優しい。さすがだよ。
町の方へとゆっくりと歩いて来た私達に対する視線は、それはそれは痛く突き刺さるような物だった。
戦いが終わったとはいえ、あの町を象徴するようなデザインの緑色の旗を掲げる兵士達は、酷く傷ついている。私達がやってくる前は一方的にやられ放題だったからね。多くの死体がそこら中に転がっており、生き残った者達は放心状態だ。
そこへ訪れた、リンク族の少女に肩を貸す謎の魔物。後ろには2人の女の子が付いて歩いていて、目立たない訳がなかった。
特に私、魔物だし。後ろに生えた触手を隠そうともしていないので、彼らも私の正体は一目見て分かっているはず。
何も言われないのは、私が堂々としているからだろうか。
「……」
いや、違うか。彼らはなんとなく分かっているのだ。私が赤い鎧の兵士たちを吹き飛ばすような魔法を発動させた、張本人である事を。
確証はないはずなのに、視線から皆が私を怖がっているのがよく分かる。そしてもし話しかけて自分に災いが及ばないかと心配し、見るだけで黙る。
別に良いけど、居心地が悪いなぁ。かと言って歓迎されるのも嫌だけどね。んじゃこのままでいいか。
「ま、待て……魔物!」
しかし勇気ある青年の兵士が立ち上がった。私の進行方向で剣に手をかけた上で仁王立ち。行き先を塞がれてしまった。まぁ迂回すればいいだけだけど、とりあえず足を止めてみる。
「な、何故魔物がこんな所にいる!アスラの連中を殺したあの魔法……あれはお前がやったのか!?そ、それと町に向かっているようだが、町に何の用だ!町も吹き飛ばすつもりか!?」
勇気があると言うか、無謀と言うか……でも当たり前と言えば当たり前の行動だ。だって、自分たちが守るべき町に化け物が向かってるんだからね。
「……赤い鎧の兵士たちは、私に攻撃をした。だから、やり返しただけ。町に手は出さない」
「あ、あの地割れも……岩の手も……?」
「……」
私はそうだと頷きながらテラブラッシュを発動させ、青年の横隣に岩石の手を出現させた。サイズは赤い鎧の兵士たちに使った物よりもはるかに小さい。人一人分くらいのサイズなので、先ほどのような虐殺はおきえない。
それでも青年は驚いて腰を抜かしてしまった。周囲にいた他の兵士たちもその光景を目の当たりにして、私に対する恐怖心を一層高める事となる。先ほどの魔法が、私による物だと確定したせいだ。
「もう、いい?」
「っ……!」
尋ねると、青年は怯えた顔で必死に頷いて来る。道を開けてくれたので、私は再び町に向かって進みだす。
岩の手は私が通り過ぎると崩れ去り、彼らに危害を加える事はなかった。
私があの魔法を発動させた張本人であるという話は、それからすぐに広まった。おかげで私の歩みを止めようとする者は誰もいなくなり、更に怖がられる事となる。
私の言い方も悪かった。私に攻撃したからやり返しただけみたいな感じで答えたから、私に手を出したら町ごと吹き飛ばされて皆殺しにされるみたいな話になっている。
実際攻撃されたらもしかしたらそうするかもしれないけど、私はそんな短気じゃない。余程の事がない限り、苦労して助けた人々を殺すとか、あげておとすみたいな事はしないから安心してほしい。
まぁそれを訂正するのも面倒なので、受け入れておこうじゃない。皆の、私に対する恐怖心を。
実際やろうと思えば彼らの命くらい一瞬にして奪えてしまう。簡単だ。蚊でも叩き落すような、とても小さな力を行使するだけで殺せる。そんな魔物に対して恐怖心を抱くのは当たり前だし、怒らせないようにするという心がけは大切だ。
そう思っていたんだけど、ようやく町に辿り着いた時だった。私の行く先は兵士たちが道を開いて通してくれたので、ここまでは簡単に辿り着けた。
でも町を囲んでいる壁に設置された、立派で大きな格子で塞がれた門が開いていない。せっかく町を救った救世主様がやって来たと言うのに、門が閉じられたままとかどう言う事よ。ふっとばしちゃうよ?イライラ。
「──立ち去れええぇぇい、邪悪な魔物!」
イライラしている所に、そんな声が上から降って来た。見上げると立ちはだかる壁の上に人が立っていて、私を見下ろしていた。