表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/164

兄弟の連携


 リーリアちゃんへと近寄って来たのは、赤い羽織を羽織った軽装の男と、赤い鎧を着こんだ重装備の男だ。

 軽装な方は、2本の剣を背負っている。顔にまで赤色のペイントを施し、口の端をあげるその姿はまるでドラマに出て来る殺人鬼のような異様な空気を纏っている。

 重装備な方は身の丈よりも長い大剣を背負っており、身体がとても大きい。軽装な男の方とは違い、その顔に感情はなくて無。唇をへの字に曲げ、好戦的で好色的な周囲の赤い男達とは一線を画しているように見える。


 名前:ジャンバラ・ディール 種族:人間

 Lv :245  状態:普通


 名前:ディカルス・ディール 種族:人間

Lv :201  状態:普通


 軽装な男がジャンバラ。重装備の方がディカルス。苗字が同じな所を見ると、2人は兄弟か何かだろうか。

 にしても、レベルが高い。今まで洞窟の外で戦って来たどの魔物よりも高い。更にはラネアトさんのレベルをも上回っているんだから、相当な手練れだ。

 とはいえ2人のレベルを合わせてもリーリアちゃんのレベルには及ばない。当然ながら私にも遠くおよばない。だからここも私は様子見だ。リーリアちゃんに任せよう。


「リンク族のメスがぁ、何でデサリットなんかに味方して戦ってやがる。もしかして、オレに犯されたくてしゃしゃり出て来たのかなぁ!?」

「……」


 軽装な男は舌なめずりをしながらリーリアちゃんの全身を見た。彼の目的もリーリアちゃんの身体か。やったね、リーリアちゃん。モテモテだ。悪い意味で。

 大きい方は相変わらず口をへの字にしているけど、リーリアちゃんをみつめて興奮したように鼻息を荒くしている。こちらも同じ目的だ。


「ところで、あっちの魔物はお前の何だ?仲間かぁ?それとも眷属にでもされてんのか?」

「……」


 私の方を見てそう尋ねた男に対し、リーリアちゃんは何も答えない。刀の切っ先を男に向けて、敵意を示すだけだ。


「……ま、いいけどよぉ。オレに魔物を犯す趣味はねぇ。あっちは後回しで、まずはてめぇだぜお嬢ちゃーん」

「おお!やっちまえ、ディール兄弟!」

「早くその生意気なメスを殺してくれぇ!」


 2人の男達の登場に、戦意を失いかけていた周囲の赤い集団が息を吹き返した。大きな声援が沸き上がると、リーリアちゃんや私達を囲んで人間の円が出来上がり、簡素なリングが設けられる。

 そしてその声で2人が兄弟であるという事が判明した。似てないけど、やっぱり兄弟なんだね。


「──ぶおおおおおお!」


 突然、兄弟の大きな方が雄たけびをあげながら剣を抜き、リーリアちゃんに向かって突進を始めた。その突進はまるでブルドーザーのような迫力があり、私ならこんなのが突っ込んで来たら思わず食べてしまう。

 でも残念ながらリーリアちゃんにそんな能力はないので、普通に対処する事になる。


 しかしリーリアちゃんは動かない。真正面から突撃して来る大男に対し、その場で刀を構えるだけ。

 そんなリーリアちゃんに対し、間合いにまで近づいた大男から大剣が振り下ろされる。突撃の勢いがそのまま乗った一撃は中々に強力だ。

 でもその剣はリーリアちゃんを捉える事なく地面にぶつかった。地面が一瞬にして盛り上がり、崩れ、大きな衝撃が生まれる。そんな地面にめり込んだ剣の上に、いつの間にかリーリアちゃんが乗っていた。そして剣の上を走って大男の顔面へと近づいて行き、その首に向かって剣を振りぬこうとする。

 その剣は大男の背中を飛び越えて現れた男によって受け止められる事となる。2本の剣を左右それぞれの手でもった、兄弟の小さな方が大男の隙をカバーした形だ。


「しゃああぁぁぁ!」

「くっ!?」


 更に厄介な事に、小さな方は二刀流。繰り出される攻撃は単純に二倍で、剣を受け止められた直後から始まった連続攻撃に対してリーリアちゃんは防戦一方となってしまう。本来であればリーリアちゃんが打ち負けるようなスピードではないけど、足場が悪いせいで戦いにくそうで、それが2人の実力を拮抗させているようだ。戦いの経験不足が出ている。

 それにしても、剣の上で繰り広げられる打ち合いとかちょっと面白い。


 そんな打ち合いに、邪魔が入った。大男が剣をゆすってリーリアちゃんのバランスを崩させると、リーリアちゃんの刀の軌道がズレて剣を受けそこなってしまう。

 でもリーリアちゃんは反射神経でそれをカバーする。身体を大きく逸らす事によって剣を回避。掠って服が切れたけど、肌には当たっていない。


 リーリアちゃんは、そのまま後方に飛び退いて剣から降り、一旦距離を取る。

 そして息を整えてから刀を構え直す姿は冷静だ。


「……気を付けろぉ、弟。あのメス、強い」

「分かっている。兄者の攻撃を足場の悪い剣の上で捌くとは、タダ者ではない」


 一方で兄弟の方も互いにヒソヒソと話してリーリアちゃんの感想を述べている。

 聴覚強化のスキルで盗み聞きさせてもらったけど、兄弟も案外冷静だ。ただリーリアちゃんの身体が目当てかと思いきや、ちゃんとリーリアちゃんの強さを認識して人数の優位性を活かすために情報の交換をしている。

 いやそれより驚いたのは、兄者と呼ばれたのが小さな方だと言う事だ。昔から小さな方が兄で大きな方が弟という相場はあるけど、なんとなく意外だった。


「ふっ!」


 そして話し合いをしている兄弟に対し、今度はリーリアちゃんが仕掛けた。

 駆けだして、正面から兄弟に迫っていく。その突撃は先ほどの弟君の突撃の様に荒々しい物ではなく、美しく優雅で速い。

 慌てて話し合いを打ち切った兄の方が、弟よりも数歩前に出て武器を構えてリーリアちゃんを迎え撃とうとする。


「んなにっ!?」


 でもリーリアちゃんの目的は兄ではない。迎え撃とうとした兄の側面を通り抜け、後方にいた弟に斬りかろうとする。

 弟も武器は構えていたけど、その動きは鈍い。大剣を振り上げている間にリーリアちゃんは彼の懐に入り込んだ。更に万全を期すためにリーリアちゃんは弟の背後に回り込んでから刀で斬り刻む。


 でも刀は赤い鎧に弾かれて、火花が飛び散るだけ。どうやらあの鎧、かなり頑丈なようだ。リーリアちゃんの刀を防ぐとか、並大抵の硬さではない。何か特別な防具なんじゃないかなと思う。


「きっしゃああああ!」


 そこへリーリアちゃんを追いかけて来た兄の方が、弟の股座を通り抜けて援軍に駆けつけ、リーリアちゃんに斬りかかる。

 再び始まった2人の打ち合い。でも今度は先ほどのように兄優位ではない。襲い来る2本の剣を、リーリアちゃんは1本の刀で素早く美しく捌いて防いで見せる。


 元々レベル差がある2人だ。足場がちゃんとしていて冷静なら、いくら相手が二刀流だからと言ってリーリアちゃんが打ち負けるはずがない。

 でも忘れたらいけないのが、相手は2人だと言う事。


 リーリアちゃんが目の前の兄に気を取られている隙に、背後の弟が兄の背後から大剣を構えて振り落とした。

 見方次第では味方ごと切り裂こうとした攻撃だ。でも兄は分かっていた。気付いて身をひるがえして頭を低くすることにより、弟の剣を回避。大剣はリーリアちゃんに降り注ぐことになる。


 その瞬間、リーリアちゃんが本気になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ