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慈善事業


 地面に倒れる、大勢の人間。その人間の大半は、鎧の上から、緑色の生地の上に青色の円が描かれ、その上端にお城のマークが描かれた特徴的な前垂れを装着している。

 その布は地面に落ち、装着していた者の赤い血と地面の泥や足跡がついて汚れいている。

 布に描かれた模様は、たぶんあの町を描いた物だ。緑色はこの一帯の草原。青色の円は湖を表している。彼らはあの町の兵士で、あの町を守るために戦いそして死んだ。


 対する侵略者側の装備は、赤い派手な鎧で身を包む者達だ。鎧は色さえあっていれば自由なのか、様々な形をしていてそれぞれで若干違う。中にはただ赤いペイントを身体に施しているだけの者もいる。


 どちらが悪で、どちらが正義かなんて私に決める資格はない。

 ただ、明らかに悪そうなのは侵略者側だ。彼らは楽しそうに笑いながら相手の兵隊を殺し、更にあろうことか前線では女性や子供を盾にして攻撃されないように進んでいる。そして後方では捕虜や捕まえた女性や子供に対して暴力をふるう……私がこの世界に来る前なら、こんな光景をみたら吐いて卒倒していると思う。

 でも今の私はそんな光景を前にしても、不思議と特に何も感じない。今の私は人間ではないから。人間同士が殺し合っていても、私には関係ない。例えるなら、動物同士が殺し合うのをテレビで見ているような、そんな感覚に近い。


 やりたければ、やればいい。どれだけ醜き光景だとしても、それを止めるつもりはない。


 それよりも、兵士たちのレベルだ。

 私はアナライズで兵士たちのレベルを覗いてみる。

 しかし、大したことはなかった。侵略者側も、侵略される側も、レベルは二桁で30以下という超雑魚ばかり。ただ、たまにレベルが高い者もいる。前線で縦横無尽に戦う者の中には、高くてレベル100以上の者もちらほらといるみたい。それでも私から見れば雑魚だけどね。


「う……あ……」


 人間のレベルは分かった。

 次は地面に転がり、死にかけている兵士が目に付く。侵略される側の、模様の描かれた布を装着している兵士だ。お腹や胸などから血を流しながら地面に倒れ、すがるような目で私の方を見て私の存在に気づいている。

 この傷では、長くはもたない。HPは既に一桁で、それが徐々に減って行って死のうとしている。


 彼の周囲にはめった刺しにされた死体があるけど、運良く見逃されたようだね。それを運が良いと言えるかどうかは別として、彼はまだ生きている。ただ、もうすぐ死ぬ。

 じゅるりと心の中で涎を垂らし、そして私のお尻の上辺りに生えた私の触手が彼に向かっていき、一口で食べた。


 触手から私に味覚が伝わり、そしてその味に舌鼓をうつ。やはり、人型は美味しい。

 あの弓の子は不味かったけど、あれは例外だ。生きている人は基本美味しい。これならいくらでも食べられる。いや、食べないけどね。

 これはあくまで慈善事業。彼が苦しまないように殺してあげただけ。

 無駄に食べて、この侵略者達のようにはなりたくないからね。私には私なりの正義感とルールがあるのだよ。あと、食欲に呑まれて化け物になったりしたら、私を止めてくれた上にリーリアちゃんを託してくれたラネアトさんにも申し訳がない。


 て、あれ?ふと気づけば先ほどまで私の隣にいたリーリアちゃんの姿がない。

 まさか、人間を食べる私を見て怖くなり、逃げ出したとか……?だとしたら、謝らないと。そして誤解をとかないと。アレは誤解なんだよ。私は彼を救うために食べたんだよ。


 慌てて周囲を見渡してリーリアちゃんを探すと、その姿はあった。リーリアちゃんはスキルの隠密行動を使い、猛然とある一点に向かって駆けだしている。

 その姿を見て、私も彼女のあとを追う。


「うわ、なんだコイツ……!?」


 そういえば、隠密行動で気配を消すのを忘れていた。周囲の赤い鎧の兵士たちが近づいて来た私に気づいて慌て、中には攻撃を仕掛けて来る者もいる。でも普通にかわして通り抜けてリーリアちゃんを追いかける。

 そしてなんとなく、リーリアちゃんの目的が分かって来た。彼女は別に、私から逃げた訳ではない。


 リーリアちゃんが向かっていく先には、2人の女の子がいる。ボロ切れに身を包んだ女の子は、2人ともまだ子供だ。でも顔が腫れたり痣ができたりしていて、暴力を受けた事が分かる。そして僅かに大きい方の女の子が、もう一方の女の子を守るようにして立って赤い鎧の兵士から暴力を受けているのだ。

 髪の毛を引っ張られたり、殴られたりと、それでもその場を退こうとはしない。でも背後から近づいた兵士が小さな方の女の子の髪の毛を引っ張り上げると、その身体が浮いて彼女達は引き離されてしまった。更に兵士が集まり、2人の女の子を笑いながら拘束。そして彼女達をまるでサンドバッグのようにして殴ろうとする。

 2人の女の子は、恐らく姉妹だ。

 リーリアちゃんはその姉妹を助けようとしている。たぶん、姉妹を自分とラネアトさんに重ねているんだと思う。

 人間が醜いだのなんだの言っておいて、優しい。とてもいい子だ。私は感動したよ。


「生意気なガキは後回しだ。先に妹の方から殴り殺してやれ」

「へへ。そりゃあいい」

「や、やめろぉ!アルメラには手を出すな!」

「安心しなよ。妹ちゃんが死んだら、次はお前の番だからなぁ。姉妹仲良く、同じように殴り殺してやるから感謝して殺されろ」

「や、やめて……お願いだから、やめて……」

「ぎゃはははは!」


 近づいて行くにつれて彼らのそんな会話が聞こえて来た。2人はやっぱり姉妹のようだね。

 そして泣いて懇願して妹を守ろうとする女の子に対して、赤色の鎧の兵士達は残酷だ。彼女が守ろうとしたものから、彼女の目の前で殺すとか惨すぎる。


 ……いやまぁ、私もリーリアちゃんの姉を食べてる訳だけど、でもアレは不可抗力と言うか仕方がなかったんだ。


「おらいくぜぇ、妹ちゃーん!」

「お、お姉ちゃん……」

「アルメラ……!」


 震えて姉に助けを求める妹ちゃんだけど、どうする事もできない。

 振り上げられる、男の拳。

 お姉さんは思わず目を瞑り、その光景から目を逸らした。


「──……は?」


 でも、拳は振り落とされなかった。代わりに腕だけ振り落とされ、拳は男の後方へと飛んで行って地面に落ちる。


「な、なに──」


 慌てだす、2人の少女の周囲にいた男達。でも赤色の物が一瞬に周囲を通り抜けると、彼らの身体がバラバラになってこれまた一瞬で息絶えた。

 少女を拘束していた者の首も、いつの間にかなくなっている。首がボトリと地面に落ち、拘束していたその身体から力が抜けて解放された少女が慌てて離れ、そして大勢の死体の中で呆然と立ち尽くす。何が起きているのか分かっていないのは、殺された男達だけではない。女の子たちも何がおこったのか全く理解できていない。


 でも、彼女達の目の前に立つ女の子がこの光景を作り出したと言う事は、彼女達にもなんとなくは分かるだろう。


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