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悔しい


 突然静かになったかと思ったら、目の前にカエルの巨体が転がっていた。全身がバラバラになっていて、彼が死んでしまった事が状況から分かる。先程私を見つめたその瞳からは生気がなくなり、完全なる屍と化していた。

 このカエルの化け物を殺したのは、偉そうなおじさんだ。彼の黒い爪には青い血がついており、その爪でカエルをバラバラに引き裂いたのだ。どんな切れ味だよ。

 周囲は突然の落盤によって一部道が塞がれているし、洞窟内は滅茶苦茶。御覧の通りカエルは死んでいるし、とりあえず今の一瞬で何がおきたのかを私に教えて欲しい。できれば映像付きで丁寧にね。


『全く、汚い魔物だね。……ん?』


 偉そうなおじさんは、自分の爪についた血をポケットから取り出したハンカチで拭きながら視線を泳がせ、ふとカエルの死体の傍にいる私に気が付いた。彼と完全に目があうと、彼がこちらに歩み寄ってくる。

 うまく身体を動かせない私に、彼から逃れる術はない。あっという間に彼が目の前にやってきて、そして足で踏みつけられた。


『なんだ、この芸術性の欠片もない魔物は。汚い。汚すぎる。ゴミそのものではないか。いいや、ゴミにも劣るね』

「っ……!」


 足に力をこめられ、私は自身の身体が押しつぶされるのを感じる。苦しい。このままだと、死ぬ。絶対に死ぬ!

 殺さないでと、懇願するようにして必死に顔をおじさんに向けた。そうして見たおじさんの目はまるでゴミを見るかのようで、私のお願いなど聞き入れられる事もないであろう事を一瞬にして理解した。


 確かに私は、周りから見れば醜いのかもしれない。周囲と溶け込む事もなく、自分の興味がある事にだけのめり込みながら生きて来た。教室の隅で、好きな本を読んでいるだけで気持ち悪いと言われる事もあった。周囲は私の生き方を見て、嗤笑する。何がそんなに面白いの。私はただ、好きな事をしているだけなのに。


 おじさんの目は、私を嘲り笑って来た者達の終着点だ。最初は笑い、それが続くと今度はその場に存在しないかのように扱われ、一周回って今度はゴミを見るかのような目で見つめて煙たがる。

 別に、なんとも思わない。ゴミをみる目で見られたって、実は私に弊害など何もないから。でも今のように、殺されそうとなると別だ。だってあまりにもみじめじゃないか。私は何もしていないのに。なのに、そんな目で見られながら殺されるなんて。悔しいと言う感情が心の底からうまれ、生きたいと言う想いが爆発する。

 もがく。必死に、もがく。でも何もできない。意識が段々と遠のいて来た。やがてもがく力も失う。


『本当に汚いね、この洞窟は。もっと上の方へいこう。そちらの方がまだマシな魔物がいそうな気がする』

『は、はい』


 偉そうなおじさんが何か呟いて、突然私から足をどけた。おかげで少しだけ苦しさから解放されるけど、潰されていた所がへこんだまま戻りそうにない。痛くて苦しいままで、堅い地面にそのまま取り残される。

 おじさんは、もう私に見向きもしなかった。骸骨の兵士を引き連れて、その場を後にしていくのを私は朦朧とした意識の中で見つめる。

 結局彼は、私の生死にすら興味がなかった。ただなんとなく踏みつぶしただけで、命を奪うとか奪わないとか、そんな事を考えていた訳ではない。


 ただなんとなく、ゴミを踏んだだけ。


 こんなに悔しい想いを抱いたのは、生まれて初めてだ。

 私は彼の事を、絶対に忘れない。この日味わった屈辱を、いつか必ず彼にそのまま返却する。その想いをのせ、遠ざかっていくその背中を睨み続ける。

 するとその背中に、突然空中に浮かぶ平面の画面が浮かび上がった。その画面には文字が書かれているんだけど、文字化けしており何も読むことができない。画面の正体が何なのか分からないままおじさんとの距離が開くて、画面は消えてしまった。


「……」


 ──静かになった。


 カエルは死んで沈黙しているし、偉そうなおじさん達も見えなくなってこの場には私だけとなる。

 改めて、私は一体何をしているんだろう。冷静に考えれば、部屋でゲームをしていただけなのに気づいたらこんな洞窟でナマコになっているなんて、おかしすぎる。

 まず真っ先に思いつくのは、夢。でも夢であんなに痛くて苦しい想いは普通しない。というか感触が全部現実のようで、夢とは思えない。つまりコレは現実だ。

 そしてカエルの化け物や偉そうなおじさんの強さとかを鑑みて、どう考えても元の世界ではない。

 じゃあ、何か?私は異世界に転生やら転移やらをして、ナマコになったってか。


 何それ。ちょーうける。


 ナマコじゃなかったら大笑いものだ。

 なんて言っている場合ではない。これが夢でないのなら、ここで死んだら死んだ事になる。私は満身創痍のこの身体で、どうやったら生き残る事ができるかその可能性を探る。

 真っ先に可能性を感じたのは、先ほどの平面画面。文字化けしていたけど、あの画面にはもしかしたら何かヒントが書かれているのではないか。再び画面を開けないかと色々な物を睨みつけてみる。


 岩。

 何も出ない。

 壁も何も出ない。

 天井も出てこない。

 カエルの死体……出た!


 しかも今度は文字化けしていない。

 なになに……。


 名前:ジ・ゴ 種族:魔物ボグモード族亜種

Lv :1355  状態:死亡

 HP:0   MP:0

 スキル一覧


 何やらゲームでよく見るようなステータス画面が出て来た。更にスキル一覧という個所の色が変わっており、頭の中で選択するイメージをすると新たな画面が開いた。


 『ジ・ゴ』習得スキル一覧

 ・自動回復

 ・言語理解:人語

 ・言語理解:竜語

 ・言語理解:魔族語

 ・物理攻撃耐性Lv2

 ・攻撃魔法耐性Lv2

 ・弱体魔法耐性Lv2

 ・全状態異常耐性Lv2

 ・暗闇耐性Lv4

 ・自然環境耐性:熱Lv2

 ・自然環境耐性:水Lv4


 これまたゲームっぽいな。でもこんなの見た所で何にもならない。今の私が求めているのは、自分が生き残る術だ。

 ……いや、待てよ。もしかして自分のステータス画面とかも開けたりするのかな。と思ったら、カエルのステータスが消えて新しい画面が浮かび上がった。


 名前:── 種族:──

 Lv :1  状態:瀕死

 HP:3  MP:0

 スキル一覧


 なんじゃこりゃ。雑魚すぎるステータスに私は絶望した。

 あと、名前と種族が伏字になってるのは何故だろう。もしかして、名前も種族名も存在しないような雑魚って事?

 ちょーうける。

 とりあえず続いてスキル一覧を開いてみる。


 『──』習得スキル一覧

 ・亜空間操作

 ・スキルイーター

 ・アナライズ

 ・暗闇耐性Lv1


 この4つのみ。でもこんな雑魚に4つもスキルがあった事に驚きだ。


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