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アリス


 ま、いっか。

 すぐに私の頭は切り替わった。だってスキルの邪神、強いし。それに別にこの世界を餌場にしようとしている訳ではないので、私と『邪神』は全く違う。

 いや、最初はけっこうヤバイ奴だったな。食欲に取りつかれてリンク族を食べようとしてたからね、私。気持ちが切り替わったのはラネアトさんとの出会いがあったからだ。まぁ気持ちは切り替わっているんだから、それなら問題ないじゃない。そう結論づいた。


「ねぇー、ボーっとしてないで、何か話してよ。じゃないと、私のその服返してもらうからね」


 ステータスに夢中になっていたので、リーリアちゃんを放置してしまっていた。

 この服を没収されると困る。だいぶ冷静になれたし、ステータス画面についてはこれでおしまいにしておこう。


「……進化、した」


 おおぅ。喋れた。フードを深くかぶった状態でだけど、喋れた私偉い。

 ちなみに声も前の世界の自分と同じで、違和感がなかった。


「進化?そういえば、前にも一回姿が変わってたわよね。進化すると強くなったりするの?」

「するけど、しない」

「なにそれ」


 進化と同時に強くなったように見えるけど、弓の子を食べてレベルアップしたからという要因がある。進化が原因でレベルアップしたのか、弓の子を食べた事によってレベルアップしたのか……たぶん後者なんだろうね。だって過去に進化してもレベルは上がらなかったから。でも確証はないので返事は濁す事にした。

 それにしても、弓の子はよくわからない存在だった。状態異常の精神崩壊やら、種族の神の使いが関係しているんだと思う。けど彼女はもう私の胃の中で、私の疑問に答えてもらう事もできなくなってしまった。


「まぁいいわ。それにしても、可愛い声じゃない。前の姿も中々可愛らしかったけど、今の方がいいと思うわよ」

「……」


 前の姿が可愛らしかった……?

 そういえば、ラネアトさんも私の事を可愛いと言って抱きしめてくれたっけ。姉妹揃って感覚が狂っているのかもしれない。

 でも、面白い。

 笑おうとしたんだけど、表情が変わらない事に気づいた。感情がないのではない。表情そのものが変わらないのだ。もしかしたらこの顔、表情筋がないのかもしれない。


「で、言葉が通じるならいい機会ね。あんた、いつまでもあんたじゃ困るでしょ。名前を教えてよ」

「……名前」


 そういえば、ずーっと名無しのままだったな。リーリアちゃんにはあんたとか、触手とか呼ばれていただけで、それは固有名詞ではない。

 でも、うーん……名前かぁ。人だった頃の名前でもいいけど、今の私とあの頃の私とでは生物として違すぎて、その名を名乗るのは何か違う気がする。


「もしかして、名前ないの?」

「ない」


 首を振って答えると、リーリアちゃんは気まずそうな表情を浮かべた。


「じゃあ、今適当に自分でつけてよ。私もその名前で呼ぶから」

「……」


 そんな事を急に言われても困る。自分で自分に名前をつけると、ちょっと痛いよ。

 だって、変に可愛い名前をつけたら『お前、そういう名前がいいんだ……』て引かれるし、変にカッコイイ名前をつけたら『ぷっ。中二くさ』て笑われるでしょ。

 どんな名前をつけてもアウトな気がしてならない。


「そんなに悩む事……?」

「……」

「しょうがないわねぇ……。じゃあ、私が決めてあげる」


 黙り込んでしまった私にしびれをきらし、リーリアちゃんがそう言って助け舟を出してくれた。

 でもその申し出はありがたいんだけど、不安が大きい。変な名前をつけられたどうしよう。


「そうねぇ……んー……」

「……」

「あー……」

「……」

「……──アリス」


 リーリアちゃんがそう言って、一瞬『アリスエデンの神殺し』が頭をよぎった。


「アリス、なんてどう?」

「……」


 一瞬ドキッとしたけど、『アリス』で止まった。

 そっか。アリスかぁ。なんかちょっと可愛すぎる気がするけど……ま、いっか。せっかくリーリアちゃんが考えてつけてくれた名前だしね。


「気に入らない?なら──」

「いい。私の名前は、アリス」


 その瞬間、私は名前を得た。ステータス画面にも、アリスという名前が刻まれる。

 なんの因果かアリスエデンの神殺しの世界の中で、アリスという名前を名乗る事になった。


「そ。じゃあ、よろしくね。アリス」

「……」


 リーリアちゃんに頷いて答えると、リーリアちゃんは笑った。

 さて。名前も決まったしさっさとこの場から去ろう。こんなあられもない姿をまた男の人に見られるのは嫌だしね。

 そういえば、イケメン君の仲間の女性はどうしようか。麻痺毒を仕組んだうえで魔物が徘徊する森の中に放置は、さすがに命に関わる。


「……リーリア」

「ん。なに、アリス」

「あっちに仲間がいるって、彼に伝えて」

「自分でしなさいよ」

「……」


 私はローブをまくり、ローブの下が真っ裸だと訴える。まるで道端で遭遇した露出魔のような行為だと気付いたのは、見せた後だった。

 こんな露出魔のような恰好で男の人の前に立ちたくない。通報されても困るしね。至極真っ当な理由でしょ。

 でも実際は、裸を見られた男に会いたくないだけ。あと、会話がめんどくさい。だからリーリアちゃんに任せた。いや、押し付けた。


「そもそもあの男に言葉通じないんだけど……仕方ないわね。出来るだけやってみるわ」


 ま、実際はイケメン君もけっこうな重傷な訳で、麻痺で動けない2人を守れるかどうかは怪しい。でも私にしてあげられるのはここまでだ。これ以上は自分たちでなんとかしよう。私って、意外とスパルタ。


 そして私とリーリアちゃんはその場を後にし、勇者パーティとの邂逅はこれにて終了。再び2人きりの旅が始まるのだった。

 向かうのは、当初の予定通り人間の町である。


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