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邪神の目覚め


 終わりは訪れなかった。


 リーリアちゃんの刀は私に当たる直前で止められ、見上げるとリーリアちゃんが笑っている。


「ビビった?こんな形で終わらせたりしないから、そんな目をしないで」

「……」


 そういうと、刀を鞘におさめた。

 それからボロボロになった私を抱き上げて、木陰に連れて来てくれる。身体がボロボロになったおかげで体積が減り、持ち運びも楽ちんである。

 でもてっきりリーリアちゃんに殺されると思っていた私は、ただただ驚くばかりだった。リーリアちゃん、やさぐれてて隙あらばいっつも私に襲い掛かって来るし、こういう機会があったら容赦ないと思ったんだけどな。

 どうやら、私の思い違いのようだ。リーリアちゃんは、良い子である。別の件で瀕死に陥った相手にとどめをさすような真似はしない。例え相手が、愛する姉の仇だったとしても……。


「て、あんた身体が光ってる!どうしたの!?」


 あれ、ホントだ。私の身体が光り輝きだし、周囲を眩しく照らし始めている。同時に身体が内側から熱くなるこの現象には覚えがある。


 進化だ。


 久々だなぁ。どうせまた、変な形になるんだろうなぁ。今はタコ型だから、次はイカ型とかだろうか。想像して、笑ってしまう。

 やがて光が収まって身体の熱いのもなくなると、リーリアちゃんが驚愕の表情を浮かべて私を見ている。

 やっぱり、ろくな物にならなかったんだなぁと、そのリアクションを見て思った。自分の身体を確認するのが怖い。でも確認しなければいけない。私は意を決して視線を下ろし、自分の身体を見た。


「……」


 するとそこにあったのは、遠慮がちながら確かに存在する双丘だった。丘のてっぺんには薄いピンク色の桜の木が立っている。その下には、お腹。その下には、足が見える。

 それには私も目を見張って驚いた。目の前に手を持ってくると、5本指の人間の手がしっかりと2つある。右手と、左手だ。その手で顔を挟み込むと、しっかりと私の顔がそこにある。

 全てをまとめると、私、人になっている。


 この世界に来る前は当たり前に人だったのに、いざ人になると物凄い違和感である。私、2本足で立ってるよ。これってどうやって歩くんだっけと、戸惑いが生じてしまう。


「あ、あんた、あんた、よね?ていうか女だったの!?」

「……」


 驚いていたリーリアちゃんが、そう叫んできた。驚いてたのって、そこなの?


「……へぇー。ふぅーん。そうなんだー」


 そしてリーリアちゃんが私に近づいて来ると、私の周りをうろうろして全身を嘗め回すように見て来る。

 考えてみれば私は素っ裸だ。白い肌を惜しげもなく晒しており、そんな姿をリーリアちゃんにくまなく見られている。凄い恥である。


「──美しい」


 そこに、そんな声が聞こえて来た。低い男の声だ。

 その声の持ち主は、イケメン君だった。先程まで気絶していたけど気づいたようで、目を開いて私の姿を見つめている。

 裸を見られた。見ず知らずの男に、私の裸をだ。

 その事実に触手が条件反射でイケメン君に襲い掛かり、彼を殺そうとする。

 この触手たちは私のお尻と背中の中間あたりに4本生えていて、先端には口のような物がついていて伸び縮みもできるようだ。基本的には私の意思で動かせるようで、彼を殺そうとするその動きをすぐに止める事ができた。

 代わりに彼の周りの木を食い荒らして倒し、視界を遮らせてもらう。


 それから私は亜空間操作で空中に穴を作り出し、そこに手を突っ込んで中に入っていた鏡を取り出した。

 鏡に映っていたのは、黒髪の美少女だ。目は黄金に輝き、髪は艶があってサラサラ。小さな顔は小さいながらも弾力があり、触り心地がとても良い。

 その姿は、かつての人だった頃の私そのものであった。いや、若干違うけどね。その頃の私よりも不健康な人みたいに肌は白く、髪もこんなにサラサラではなかった。手入れが甘かったので、いつもどこかハネてたんだよね。目の色も違う。

 まぁ違うのはそんな所で、ほぼほぼ私である。

 ちなみにリーリアちゃんよりも大分背が低い。軽く見下ろされるレベルである。これはたぶんリーリアちゃんが大きすぎるせいであり、私が小さいわけではない。


「黒髪なんて珍しいわね。サラサラで、触り心地すっごくいい!背は高くないけど……でも、可愛げがあっていいと思うわ。ていうか、その姿なら喋れたりするの?何か喋ってみてよ」


 相変わらず私の周りをウロウロしているリーリアちゃんのテンションが高い。何故か私を見る目はギラギラとしていて、身の危険を感じてしまう。命とかではなく、別の危険だ。


「──あ、ぅ」


 喋ろうとして気が付いた。上手くしゃべる事が出来ない。それは発声器官がどうのこうのとかではなく、私の性格の問題だ。


 人だった頃の私は、ぶっちゃけ変人だった。家に閉じこもって何年も同じゲームをやるような変態である。一応学校には行っていたけど休みがち。人とコミュニケーションが取り辛い性格で、喋るのが苦手だった。人の視線が怖い。見られるのが怖い。喋るのも怖い。それが私。

 だからかこうして人の姿になると、その頃の自分を思い出して誰かと面と向かって喋る方法が分からなくなってしまった。


「なに?」

「……」


 黙ってしまった私を怪訝そうにリーリアちゃんが見つめて来る。その視線が痛いのだ。

 私は咄嗟に、再び亜空間操作によって穴を作り出し、その中にしまってあった物を取り出す。

 それは、フードつきのローブだ。フードを被れば顔を隠せる優れもので、それを素早く身に着けて顔を隠した。


「ちょっと。何してるの」


 でも、リーリアちゃんが顔を覗き込んできてその効果を容易く粉砕して来る。

 私は手で牽制しつつ引き下がる事で、リーリアちゃんと距離をとった。追って来るなと。顔を覗くなと。そう行動で訴える。


「どうしたのよ、よそよそしい。あんた、あんたなんでしょ?」

「……」


 コクリと頷き返しつつ一旦冷静になろうと思い、私は自分のステータス画面を開いてみた。


 名前:──  種族:邪神

 Lv :1501  状態:普通

 HP:2410  MP:12977


 『──』習得スキル一覧

 ・???

 ・亜空間操作

 ・スキルイーター

 ・アナライズ

 ・自動回復

 ・菌可視化

 ・土壌再生

 ・土内移動

 ・言語理解:人族

 ・言語理解:竜族

 ・言語理解:魔族

 ・邪神Lv1

 ・遠目Lv1

 ・隠密行動Lv1

 ・気配遮断Lv1

 ・暗闇耐性Lv2

 ・自然環境耐性:熱Lv1

 ・自然環境耐性:水Lv1

 ・聴覚強化Lv3

 ・嗅覚強化Lv2

 ・感覚強化Lv3

 ・即死耐性


 『──』習得魔法一覧

 ・フィオガ

 ・ラグラス

 ・ラグジクス

 ・ラグネルフ

 ・シャモール

 ・テラ

 ・テラブロー

 ・テラブラッシュ

 ・テラガルド

 ・テラルード

 ・グロム

 ・ネロ

 ・ネロレック

 ・ネロエグザム

 ・ガオウサム

 ・フィールン

 ・風刃

 ・ハスタリク

 ・エンドスカーム

 ・消滅魔法


 瀕死状態だったためまだ回復しきっておらず、HPはまだちょっと少な目。一方でレベルとスキルを中心に大きな変化が見られた。

 まず、レベルが一気に400近くあがっている。倒したのは弓の子だけで、しかもレベル的には格下相手だったはずなのに、普通こんなに一気にレベルがあがるはずがない。だけど事実レベルがあがっているのは謎である。


 一方スキルと魔法の方だけど、まず魔法一覧に『消滅魔法』とやらが増えている。説明を見ると、自分の命を犠牲にして周囲に消滅をもたらす魔法らしい。つまり、使ったら死ぬ。弓の子が最期に私に対して使って来た魔法だね。使ったら死ぬとか、つかえねぇ……。


 スキルの方は『全状態異常耐性』やら、『物理攻撃耐性』やらが消えている。慌てたね。あんな便利スキルが一気に消えちゃうと、この先の戦闘が不利になってしまうから。

 でもその辺は心配なくて、それらが項目から消えたのは新しく増えたスキル、『邪神』のせいだった。


 スキル『邪神』

 全ての物理攻撃、魔法攻撃、状態異常、妨害魔法に対しての耐性を高いレベルで得る事ができる。また自分よりレベルが大きく劣る者に対して『恐怖』状態を付与することが出来る。


 つまり、このスキルと被る物が項目から消えたと言う訳だ。

 でも、邪神かぁ……。なんか悪っぽくて嫌だな。ほら、『アリスエデンの神殺し』の世界的に、邪神と言えば隠しボスであり真のボスで真の悪である。そんな物と名が被るスキルとか、ごめんこうむりたい。

 というかスキルとしての邪神はともかくとして、種族がこれまで表記されていなかったものが、邪神と記されている。つまり私が邪神そのものになってしまったという訳だ。はは。笑えねぇ。私、ゲームの中の邪神みたいに悪い事してないし、この世界を自分の餌場にするつもりもない。


 抗議だ。断固抗議する。


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