ヤバイ光景
「あ……アックスー!」
「アックス様ー!」
やがて、2人の女性の悲痛な叫び声がこだました。
2人は敵である私の存在など忘れたかのように、ふっとんでいったイケメン君に駆け寄ってその身体を抱き起す。
「アックス、しっかりしてよ!死なないで!いやああぁぁぁ!」
「落ち着いてください、タニャ様。私の癒しの魔法で、なんとかしてみせます!」
「っ……」
イケメン君は、反応がない。鼻血を出し、恐らく全身の骨が何か所が折れている。いや、数十か所かな。
そんな状態のイケメン君に癒しの魔法とやらを放つおっぱいの女性だけど、効果は薄いようで彼女もかなり慌てている。
でもチート的なスキル持ち出し、たぶん死にはしないよ!たぶんね!
実際HPも250も残ってるし。良かったね。私なんて3になった事あるんだから。それと比べればまだまだ元気。
うん。良かったー。
「──スタンフェイロー」
おっと。突然茂みの中から飛んできた矢を、私は触手でキャッチ。するとその矢が光を放って周囲を明るく照らし、視界を遮って来た。
暗闇に対しての耐性はあるけど、明るさに対しての耐性があるスキルは持っていない。なので私の視界も遮られる事になったんだけど、そこは感覚強化やら嗅覚や聴覚でフォローできる範囲である。
「タニャ、リル!今のうちに勇者を運んで逃げるよ!」
矢を放ったと思われる人物がイケメン君の下へ駆けつけて、そう指示を出した。
「え、えぇ、そうね!」
指示をされた魔術師の女性とおっぱいの女性が、同意して行動に移す。
パーティの前衛の要であるイケメン君がやられた時点で、壊滅の危機だからね。逃げるのは正しい選択だと思うし、逃げてくれるならそれはそれで別に良い。
でもさ、このまま逃がすのもアレだよね。だって、まんまと出し抜いてやったぜとか思われそうだし。そしたら後で舐めた事を私のいない所で言われるかもしれない。
だから私は魔術師の女性とおっぱいの女性の足を触手で掴み取ると、更に触手で拘束してあげた。
「いやあああぁぁぁぁ!」
「きゃああぁぁぁぁぁ!」
2人の女性の、今度は自らの身に迫った危機に反応して出た叫び声がこだまする。
光にやられた目が、段々と復活してきた。その目で見てみると、いやはやけっこうヤバイ光景だったよ。
私の触手に拘束された、魔術師ちゃん。真っ逆さまになって吊り上げられているので、帽子が地面に落ちてしまっている。更にスカートがめくれてパンツが丸見えである。服の中に一部触手が入り込んでしまい、必死に掴み取ろうとしているけどその手も拘束されているので意味をなしていない。
一方おっぱいの女性は、もっと酷い。大きなおっぱいを触手が挟み込むように拘束していて、ただでさえ大きいのに更に大きく見えてしまっている。更には開脚するように拘束されているので、素直にエロい。
自分でした事だけど、コレは完全にヤバいシーンである。この先美しき女性2人に降りかかる運命を考えると、涙が出ちゃう。
というのは冗談で、何もしないから。エロい事とか、しないからね。だから期待してくれた人には申し訳ないけど、期待しないでね。
「に、逃げろ、エイダ!」
「アックス様を、どうかお願いします!」
「ふ、二人とも……くっ!」
触手に拘束されていないのは、イケメン君と弓を手にした女の子だ。
弓の女の子は金髪の女性で、短髪で男の子っぽいけど、立派な女の子。僅かにおっぱいのふくらみもあるし、間違いない。
この子が先制攻撃を仕掛けて来た矢を放った子だね。先ほどの、目くらましもそう。気配を消して周囲に隠れていたけど、ようやく姿を現わしてくれた。
そして良い匂いの他の勇者一行とは違い、この子の臭いは強烈に臭い。
すぐさまアナライズでステータスを覗き見てみる。
名前:エイダ・プロフェシー 種族:神の使い
Lv :1016 状態:精神崩壊
HP;10222 MP:7812
は?
私に声を出す能力があったら、そんな間抜けな声が出ていたと思う。
なんだ、このステータス。神の使い?精神崩壊?意味が分からない。あと、レベルが異様に高いね。イケメン君より高いし、もうこの子が勇者って事でいいんじゃないかな。
そんな子が、自分より大きな身体のイケメン君を肩に担ぐと駆けだしてその場を後にしてしまった。そして彼女が草むらに入るのと同時に気配が消えてしまう。リーリアちゃんも持っている、隠密系のスキルのおかげだろう。いいなぁ。私もそのスキル欲しいなぁ。
「ば、化け物!私達は何をされても、精神は屈しないわよ!かかってきなさい!」
「悪しき魔の獣よ。いつか必ず、貴方を勇者様が討ちます。私達の魂は、その日まで貴方に付きまとう事になるでしょう。そして、呪います。貴方の安寧の日々は、もう二度と訪れません」
いやいや、自分たちが勝手に襲って来たんでしょ。酷い言われようだ。
そこまで言われたら、ご期待に添って色々としたくなってしまう。
「……」
でも、ここで彼女達に時間をかけるよりも先ほどの弓の子が気になる。
「はっ……な、なにこの煙……!毒!?」
「いけません、タニャさん!吸ったら……」
2人の身体から、唐突に力が抜けた。
『ガオウサム』を発動させて、その毒によって2人の身体の自由は失われたのだ。そんな2人の身体を丁寧に地面に横たわらせると、すぐにリーリアちゃんに触手を伸ばして抱きしめる。
「ちょっと、あの二人どうするの?」
とりあえず、放っておく。そして弓の子を追いかける。
そう答えるように、弓の子が走って行った方向に向かってジャンプ。上空から目を凝らして見ると、木々の間をぬって走っていく姿を見つけた。
その近くの木に『フィールン』で糸を伸ばすと、糸で身体を引っ張って彼女の目の前に着地。
「な、何で私を追って来るの!?お前の餌は、タニャとリルだ!あの二人をむさぼっていればいいだろう!」
仲間をむさぼっていろとか、酷い事言うなこの子。レベルは高いけど、精神的には勇者向きじゃないね。
「私にもよく分からないけど、コイツはあっちに興味はないみたい。諦めて、餌になれば?」
リーリアちゃんもリーリアちゃんで、私の意思に反する事を言う。別に私は食べたくて追いかけてきた訳ではないんだからね。そのステータスを見て、ステータスの謎を解くために追いかけて来たのだ。
「……私達は、勇者の一行だ。そしてこの人が、人族にとって悪を滅する救いの勇者。殺したらお前たちは人族に闇をもたらした存在として恨まれ、命を狙われる事になるよ」
「私に言われても困る。私はコイツに連れて来られただけだもの」
「……」
この子、リーリアちゃんと会話が成立しているね。どうやら竜語を話す事が出来るらしい。
私はリーリアちゃんを触手で引っ張って引き下がらせると、一歩前に出て弓の女の子を睨みつける。
見た目に特に変わった所はない。普通の人間で、状態が精神崩壊という割に普通だし、本当に変わった所はない。
でも、美味しそうじゃない。
臭いは相変わらず強烈に臭いし、こんなのは初めての事だ。醜い化け物ですら美味しそうに見えた私に不味そうに見られるなんて、本当にあり得ない事。ましてや、こんなに美味しそうなのに不味そうなんて、不思議すぎる。
「何だ?一体、なんなんだお前。その姿、それにその目……まるで──いや、あり得ない」
弓の子も、私の目をじっとみつめていた。やがて自分で何かを思いついておいて、即座に否定して首をするという行動を見せる。
「……何者かは知らんが、させるか。ここまで手塩にかけて育てた勇者を、魔物如きに食わせる訳にはいかんからな!」
弓の子の口調が変化した。心なしか声色も低くなる。同時にその目が赤色の光を放ち、雰囲気が変わる。
でもだからさ、勘違いしないでよ。私が興味あるのは弓の子の方だ。イケメン君には全く興味がない。
そう伝える術がないのがもどかしい。でもやるっていうなら仕方がない。この子のレベル高いし、ちょっとだけ気合をいれて戦おう。




