やっちまった
イケメン君が、手にした白銀に輝くキレイな剣で私に斬りかかって来た。刀身が神々しい金色の光に包まれると、剣の威力が増加する。
その剣の威力は、リーリアちゃんよりも強い。でも私に剣がぶつかると剣が弾かれ、私に傷がつく事はなかった。
「なっ……!?」
私の目の前で驚くイケメン君。
「ファイアアロー!」
イケメン君の横を通り抜け、魔法で作り出された火の矢が飛んできた。私にぶつかるけど、それも私に傷一つ付ける事無く消滅。
火の矢を放って来たのは、トンガリ帽子を被った上で杖を手にした女の人だ。見るからに魔法使いという格好である。赤髪の美少女で、ちょっと目つきはキツめだけど睫毛が長く、まるで希望が詰まっているかのようなキレイな瞳をしている。
彼女もまた魔法が効かなかった事に驚いているんだけど、悪いけど私、物理攻撃にも魔法攻撃にも耐性を持っているんだよね。効く訳がない。
「二人とも、気を付けてください!クイックシム!ストレンジング!」
続いてもう一人、姿を現したのが白い修道服のような服に身を包んだ美しい女性だ。彼女も杖を持っているんだけど、魔法使いの女性とは手にした杖のタイプが違う。向こうは宝石がちりばめられた派手な杖だけど、こちらは先端に大きな宝石が嵌めこめられただけで、シンプルだ。
こちらはおっぱいが大きくて、杖を振り回すたびにたぷたぷと揺れて面白い。こちらもかなりの美貌を兼ね備えており、イケメン君中々やるねって感じ。
おっぱいが大きな修道服を着た女性は登場と同時にイケメン君に魔法をかけたんだけど、その魔法に聞き覚えはない。強化系の魔法だと思うんだけど、そんな魔法は私の記憶の中で、『アリスエデンの神殺し』の世界には存在しないはずだ。
それはさておき、皆とても美味しそう。特に女性二人は、今すぐにでもしゃぶりつきたくなる程に。
「大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」
「は?」
イケメン君は私を警戒したまま距離をとり、リーリアちゃんにそう尋ねた。
どうやら彼は、盛大に勘違いをしているようだ。私がリーリアちゃんを襲っていると。そんな事する訳ないのに。
でもリーリアちゃんを助けるために襲って来たのには、好感が持てるよ。
というか君ら人間だよね。この世界で初めてみる人間は、美男美女揃いのパーティでした。とりあえずステータスを拝見しよう。
名前:アックス・グラフィ 種族:人間
Lv :751 状態:普通
HP:10123 MP:3293
『アックス・グラフィ』習得スキル一覧
・勇者の加護
・言語理解:人族
イケメン君のそのレベルの高さと、習得スキルの勇者の加護という文字を見て私は噴き出した。
とりあえず勇者の加護の効果を見てみると、ありとあらゆる剣技に通じて鍛えれば鍛える程強くなり、魔力増加に防御力強化。悪に対してステータス上昇の付与。想いの強さによって更なるステータスの上昇。更には瀕死の状態からも回復することができるというとんでも効果だった。
つまりこのイケメン君、勇者って訳。そんなの実在したんだね。笑える。いや笑っている場合ではない。見てよこのレベルとチートスキルを。スキルはコレ一個しかないけど、こんなスキル反則だ。
いやでも各種弱体に対する耐性がないのは気になるな。いくら強くたって、弱体された意味がない。力は強いけど、サポートがいなければ力を発揮できない──それってつまり、脳筋て事だよね。パーティを組む事でしか力を発揮できない、悲しき運命上に彼はいる訳だ。
「ああ。なんか勘違いしてるみたいだから言っとくけど、別に私はコイツに襲われたりしてないから」
「人語が喋れないのか?」
「竜語が通じない、か……」
2人の会話は成立していない。それはリーリアちゃんが人語を喋る事が出来ないからで、彼女が普段使っているのは竜語という物だからだ。
イケメン君の方も竜語が喋れないので、2人は異なる言語を喋っている。
言葉が通じないと判断するといなや、イケメン君がリーリアちゃんの腕を掴んで私から引き離そうとした。
その行動が気に入らなかったリーリアちゃんは、イケメン君から腕を振り払うと彼の顔面に拳を放つ。その拳はイケメン君の顔面に直撃。でもイケメン君が倒れる事はなかった。
「錯乱しているんだね。でも大丈夫。オレが守るから!」
「んなっ!?」
リーリアちゃんの拳が顔面に直撃しておきながら、イケメン君はピンピンしている。ただ、鼻血は出ているね。一応はダメージがあるように見える。
そしてカッコ良い台詞を吐くと、リーリアちゃんを背に庇って私に向かって剣を構えて来た。
「ちょ、アックスに何してくれてんのよ、この女!」
魔術師の女性が、リーリアちゃんに対して怒りだした。
仲間がいきなり顔面パンチくらわされたんだから気持ちは分かるけど、今のはイケメン君が悪いよ。言葉も理解せずに無理矢理女性の腕を掴んで引っ張るとか、絶対ダメ。
「落ち着け、タニャ。それよりこの魔物を始末するぞ。援護してくれ!」
「わーかってるけど、あたしの魔法が効きそうにないんだけどこの化け物」
「落ち着いて、別の属性の魔法を試すんだ。お前の魔法が効かない敵などいるはずがない。冷静に見極めろ」
確かに、火属性の魔法が効かないだけという可能性はある。だからゲームにおいて、効かなかった魔法とは別の属性の魔法を試し打ちするのは常套手段といえる。
彼の判断は正しい。リーダーとして、ちゃんとしていると思う。
でも違うんだよ。前提が全て間違っている。だって今貴方達の前にいるこの私は、貴方達のレベルを遥かに凌ぐ化け物だ。
「サンダーアロー!ブリザードアロー!」
魔術師の女性が、私に向かって魔法を放って来た。その魔法も、聞き覚えがない。私が知るアリスエデンの神殺しの世界にはなかった魔法だ。
それぞれ雷の矢と、氷の矢を飛ばす魔法なんだけど、勿論私には効かない。私に触れると同時に矢は消滅。痛くもかゆくもなかった。
「はああああああぁぁ!」
その攻撃と同時にイケメン君が斬りかかって来たんだけど、その剣も痛くない。物理攻撃耐性と自動回復によって私にダメージを通す事すら叶わない。
でも先ほどよりは、格段に力とスピードが上がっている。おっぱいの女性にかけられた魔法のおかげだろう。
イケメン君は前衛で、おっぱいの女性はサポート役。魔術師の女性は攻撃魔法役というパーティか。
本当はもう1人いるんだけど、そちらは後回し。
名前:タニャ・ウィックレント 種族:人間
Lv :303 状態;普通
HP:3260 MP:9987
名前:リルカミラ・レクイエム 種族:人間
Lv :250 状態:普通
HP:2090 MP:8857
女性2人のステータスはこんな感じ。勇者のイケメン君より、2人は一回り以上レベルが低いね。
正当防衛だし、皆まとめて食べちゃってもいいけど……さすがに勇者を食べちゃうのはマズイよね。いや、味の問題じゃなくてね?だってほら、勇者と言ったら世界を悪から救うために存在するものでしょ。ここで勇者が倒れれば、その悪に太刀打ちする人がいなくなってしまう。
上から目線で言わせてもらえば、お前は今ここで倒れるべき存在ではないのだよ。
「くらえ、化け物!奥義・ジャッジメントローア!」
ああ、もう鬱陶しい。私は今、考え事をしている最中なんだよ。ちょっと黙ってて。
襲い来る剣を触手で軽く薙ぎ払うと、勢い余って触手がイケメンに当たってしまった。すると彼はすっとんでいってしまった。地面とこすれて砂埃を舞わせながら、くるくると回転して木にぶつかってようやく停止。その木は倒れて衝撃の大きさを物語っている。
……うん。やっちまった。