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襲撃者


 ちなみに私の身体は、前より少しだけ大きくなっている。更に触手も数本増えてうにょうにょである。もう胸に抱きしめて持ち上げるのは無理。大人一人分くらいの大きさで、自分が言うのもなんだけど気持ちが悪い。

 人間だった頃は、それなりに整った容姿をしていたんだけどなぁ。これまた自分で言うのもなんだけどね。でもモテはしなかった。性格がアレだからである。


「この辺りの魔物は、コイツが主だったみたいね。知性のない魔物。雑魚ばっかりで探すのに疲れるだけだったわ」


 夜。焚火で昼間に倒した魔物の肉を焼き、骨付き肉をワイルドに頬張りながらリーリアちゃんが呟く。

 今はこんなだけど、最初は違ったんだよ。泣きながら私についてきて、泣きながら私に襲い掛かり、泣きながら眠りにつくという毎日だった。特に夜なんて、私が触手で抱きしめてあげないと眠れないくらい酷かったんだから。

 それが今じゃ自分で獲物を捌いて焼いて食べ、一人で眠れるようになった。涙を見せる事もない。成長したよ、本当に。


「で、次はどこにいくの?」

「……」


 んー……私の出身地である洞窟もいいかなと思ったけど、やっぱりまだリーリアちゃんには早い。でもこれまで通り人里を離れて魔物退治してまわるのも飽きて来た。経験値的にもね。

 私は地面に触手で絵を描き始める。その絵は人の形をした絵で、指さしてリーリアちゃんに訴えると彼女は喜んだ。


「いいわね。そろそろ薬品が切れそうだったし、それに調味料も補充しておきたいわ。服も欲しい。あと、ため込んだ獲物の素材を金に換えておきたいわね」


 服を欲しがるのはまるで年相応の女の子である。

 旅の中で、リーリアちゃんに必要な物がある時は小さな村に寄る事がある。私が一緒に行くとパニックになるから一緒に行けないので、リーリアちゃんが一人で行く事になるんだけど彼女は一人のその時間を割と楽しんでいるようだ。色々と買い込んでは私の亜空間操作にしまって旅に持って行っている。

 このサバイバル生活で彼女の身なりが異様にキレイなのは、大量の買い込みのおかげだ。ちなみに毎日私が魔法で作り出した水で身体を洗っているので、尚更キレイ。その水も火の魔法で熱してお湯にしてあげているので、かなり快適に洗えているはず。


 でも違う。そうじゃないんだよと、私は首を横に振って否定。自分を指さし、それから絵の人を指さす。


「……人里に行くって言うの?あんたが?退治されない?」


 容赦なく退治されそうになったら、返り討ちにするまでである。リンク族と同じで、もしかしたら経験値がたくさんもらえるかもしれないからそれはそれでいい。

 私はリーリアちゃんに頷くと、リーリアちゃんは笑って地図を取り出した。この地図もリーリアちゃんが立ち寄った村で購入してきた物である。


「私達が今いるのはこの東ザイール山の麓。この辺りかな。で、人里の方って言うと……人間の町がここにある。この辺の領地はザイール諸王国って呼ばれていて、ザイール平野にある六つの王国が連携してまとめてザイール諸王国を名乗っているみたい。この町はそんな諸王国の一つの首都で、名前はデサリット」


 解説してくれたリーリアちゃんに対し、私は行くと頷いて答え、リーリアちゃんは地図をしまった。

 こうして、目標が出来た。人里に行く。単純そうにみえて、この身体で人里に行くのは割と勇気がいる事だ。

 でもこのまま人里を避けて雑魚の魔物を倒して回ってたって、つまらないしリーリアちゃんのためにもならない。レベルが行き詰り始めた今これまで通りのやり方ではダメ。現状に変化を求めるために人里を訪れるのは、いいアイディアだと思う。どうなるか分からないけどね。ま、何が起きても大体は大丈夫でしょ。


 お腹一杯になり、眠りについたリーリアちゃんの頭を触手で撫でながら、その日は私も眠りについた。


 翌日になると、私とリーリアちゃんは早速人里に向かって歩き出す。リーリアちゃんの地図はざっくりなので、徒歩でどれくらいの時間がかかるか想像もつかない。ま、大体数日くらいでつくでしょ。そんな軽いノリで歩き出してその数日が経過した。

 つかねぇ。この世界に来てから時間を気にしながら目的地を目指した事がなかったけど、気にしだすと長いわ。車や電車が恋しくなる。

 何か移動手段を考えた方がいいかもなぁ。そういえばアリスエデンの神殺しには、ワープ系の魔法があったっけ。

 しまったなぁ。確かワープ魔法は、火と風と雷の魔法ランクをあげていく必要があるんだったかな。けっこう昔だからうろ覚えだけど確かそう。そしてその3種類を私は全く育てていない。

 ま、移動手段はおいおい考えて行こう。


「ん──?」


 先行しているリーリアちゃんが足を止めた。

 うん。私も気づいている。森の奥から、誰かが私達を見ているね。スキルか何かを用いているのかな。目玉が近くにあるみたいで気持ちが悪い。

 これは今までになかった出来事だ。何かが接近すると、大抵はまず私達が気づく。でも今回は違う。相手に気づかれてから気づいた。もしかしたら高レベルの相手かもしれない。


「どうする?先手うつ?」


 リーリアちゃんはもしかしたら高レベルの相手と戦えるかもしれないと、喜んでいるようだ。笑いながら刀に手をかけ、今にも飛び出していきそう。


「……」


 でも私は首を横に振った。相手の実力が分からない以上、下手に攻撃を仕掛ける訳にはいかない。いいかい、リーリアちゃん。相手の実力が分からないのに喧嘩をうったら、次の瞬間肉片になっている可能性もあるんだよ。こういう場面では、慎重に。私からの教えである。

 それに相手が好戦的な相手と決まった訳ではない。まずは様子見が正しい。


 とそこに、木やら茂みやらの間を通り抜け、何かが一直線にこちらに向かって飛んでくるのが見えた。それには魔法の力が宿っている。速く、威力も中々だ。

 リーリアちゃんはそれが自分を狙った物ではないと判断し、スルー。彼女の横を通り抜け、私に向かって来たんだけど触手でベチッと叩き落して処理した。

 確認すると、それは矢だった。つまり相手は魔物ではなく、知性のある者と言う事になる。なるほど、どうりで美味しそうな匂いがする訳だ。こんなに食欲をそそられるのはリンク族の村を訪れた時以来である。

 しかしこの美味しそうな匂いに混じり、不味そうな臭いもある。


「この距離で当てて来るなんて、相手は相当な手練れね。是非とも手合わせ願いたいわ」


 舌なめずりをするリーリアちゃんを触手でなだめつつ、私は向こうがこちらに向かってくる気配を探知している。相手は複数人。矢を放って来た者は恐らくリーリアちゃんの持っているスキルと同じ、『気配遮断』で気配を消している。そのせいで居場所が掴めない。その他に3人。合計で4人か。


 でも、私の食欲をそそる美味しそうな香りと不味そうな香りは隠せていない。おかげで全員の居場所がつかめた。


「──はああああぁぁぁ!エクスゼクトソード!」


 その場で待っていると、森の中を駆け抜けてついにその人物が姿を現した。

 それは人間の男で、若くイケメン俳優のように容姿の整った人物だった。


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