教育熱心
『アリスエデンの神殺し』は、世界を支配する神々を倒して旅をするゲームだ。アリスエデンと呼ばれる世界を支配する神は、合計で7人。7つの種族をそれぞれの神が支配して操り、時に種族同士が争い殺し合うように仕向けたり、時に和解し、時にまた殺し合う。全ては神の思惑通りであり、その世界に生きる人々は神の操り人形となっていた。
しかし人々はそれが普通だと思っている。神に支配される事こそが生物の生存理由であり、支配されている事に疑問すら持たない。神に生きろと言われれば生きるし、死ねと言われれば死ぬ。
そんな世界に疑問を抱いた主人公である人間が、故郷の村を追い出される所から物語は始まる。主人公は普通の人間で、しかしこの世界のおかしい所に気づけた存在だ。
実は神は魔法によって人々の精神に入り込み、神に支配される事が存在意義だと植え付けていた。この世界に生まれた人は皆まず儀式として魔法による支配を埋め込まれるんだけど、主人公はその儀式が偶然中途半端に終わってしまい、ある日魔法による支配が解けてしまったのだ。
同じく、主人公と同じように洗脳の解けた魔族の魔術師や、リンク族にドワーフ族。獣人族に、鬼人族、妖精族の仲間と協力しながらそれぞれの種族を支配する神を倒すと言う物語である。
例外として、『邪神』という存在がいる。ゲーム上の裏ボス的存在で、神々をも支配していた全ての黒幕的な存在だ。
神が生物を支配していたのは、邪神に餌として生物を捧げるためである。餌を繁殖させ、適度に数を増やしてた大切に育てながら邪神に捧げると言う形だ。
邪神は、恐ろしい存在だった。常に空腹で餌を求めており、世界中の生物を餌としか見ていない。神々ですら恐れる存在で、邪神の空腹を満たすのがアリスエデンを支配していた神々の役割だった。
もし邪神が暴走すれば、被害はこの世界に収まらない。世界の壁を越えて次の世界が呑まれて犠牲になってしまう。その連鎖を止めるために、アリスエデンは神々の支配下となり、玩具となり、邪神の餌場となっていたのだ。
ゲームの形式上はアリスエデンに住む人々を神の支配から生物を解放すればクリアだったんだけど、物語的には邪神も倒さなければ全てが終わらない。しかしその邪神を倒すのは、困難を極める。真のエンディングを目にし、真の意味でアリスエデンの神殺しを支配から解放した者は誰もいない。
私も含めて、ね。クリアしたと思ったら、ナマコになってましたから。せめて真のエンディングを見させてからにしてよって話。笑えねぇぜ。
まぁ何が言いたいかというと、この世界はやはり『アリスエデンの神殺し』の世界である。
地名だとかは聞いた事がないけど、日々増えていく魔法は私の記憶にあるゲームのそれそのままだ。
また、登場するモンスター──魔物も、ゲームに出て来た魔物と被るようになった。洞窟内にいたのは見た事がなかったけどね。洞窟の外の世界は、まさにゲームそのもの。見た事のある魔物ばかりである。
例えば、そう。今私の目の前にいる、巨大な猪のような生き物。形だけ、ね。現実の猪は、こんなに大きくないし頭から角も生えていない。
これはアリスエデンの神殺しの世界で、『ジャッジレグ』と呼ばれていた魔物だ。突進技がとても強力で、しかも体力が多い。厄介な魔物で、ちょっとこちらのレベルが高いくらいでは、逃げる選択が正しいくらい凶悪な敵だった。
名前:── 種族:ジャッジレグ
Lv :80 状態:興奮
うーん。洞窟の敵と比べると、外の魔物は明らかにレベルが低い。
洞窟外で遭遇した生物の中で一番レベルが高かったのは、今の所ラネアトさんだ。それすらも100とちょっとだったから、いまいち物足りない。
めぼしいスキルも持っていないし、食べる必要もないので私の出る幕ではないな。
「──シャイニングスラッシュ」
突然、いくつもの閃光が走り抜けた。その閃光は現れた魔物──ジャッジレグ君を一瞬にして通り抜け、消え去る。と、魔物の身体が崩れた。いくつかの肉片となり、地面に倒れる巨体によって地面が少しだけ揺れる。
うーん。この死に方、なんだか過去の自分のトラウマを呼び起こされるようで何か嫌だ。私も肉片にされた経験あるからね。あの時はもっと細かかったけど、似たようなもんだ。
「ふっ──」
倒れた魔物の背後に立っていた少女が短く息を吐き、刀を鞘に納める。
金髪の少女。身長は160センチくらいかな。髪はポニーテールにしており、惜しげもなく晒されるうなじがセクシー。身体の方はほっそりとしており、胸は若干膨らんでいて発展途上。締まっていていい身体をしていると思うよ。とても美味しそう。
その目つきは鋭く、人を何人も殺していそうな殺人者の目つきである。ただ、小さな頃の面影はある。というか成長してラネアトさんに似て来たと思う。
「私のご飯にするから、しまっておいてよね。絶対に食べないでよ。コレ、私のだから」
「……」
へいへい。まったく、人使い……いや触手使いが荒い子である。
私は言われた通りに触手で肉片となった魔物を拾い上げると、ひとつ残らず亜空間にしまいこんだ。亜空間にしまいこんだ物の時間は止まったかのようにその形が維持され、腐る事がない。便利だよねー。これだけあれば、一か月は食べていける量だよ。私のおかげで、その間腐る事はないんだから感謝してほしい。
なのにこうやって肉片をしまっている私の背後に回り込むと、刀が襲い掛かって来た。私はその刀を2本の触手で挟んで受け取り、白羽取りを披露。
「ちっ……」
刀を離してあげると、彼女は舌打ちをして刀を鞘に納めた。
彼女の名前は、リーリアちゃんである。あの、リーリアちゃんである。ちょっとやさぐれて不良少女みたいになっているけど、間違いなくあのリーリアちゃんである。
私と彼女がリンク族の村を旅立ち、はやいものでもうこんなに大きくなっちゃったよ。5年くらい?カレンダーがないから分からないけど、たぶんそれくらい。リーリアちゃんは私が与えた刀を手に、すくすくと成長して強く美しくなっています。
こうやって、私が隙を見せるとすぐに気配を殺して私の背後に回り込み、容赦なく斬り殺そうとしてくるんだからホント、逞しいよ。
うん。逞しすぎだねっ!
名前:リーリア・シルフィーネ 種族:リンク族
Lv :560 状態:普通
『リーリア・シルフィーネ』習得スキル一覧
・言語理解:竜族
・斬撃強化Lv2
・感覚強化Lv1
・気配遮断Lv3
・隠密行動Lv3
・病気耐性Lv2
・麻痺耐性Lv1
・威圧耐性Lv1
その逞しさは彼女のステータスにも表れている。
現状、洞窟の外で出会った何者よりもリーリアちゃんは強い。ま、それは私と旅をしてきたおかげだけどね。私についてきて一緒に戦うだけで、彼女のレベルも一緒に上がって来たのだ。スキルも増えていき、こんな感じ。
ま、私の強さにはまだまだ及ばない。
名前:── 種族 :──
Lv :1178 状態:普通
HP:25809 MP:11212
私のレベルはこんな感じになっている。うーん、伸び悩んではいるね。リンク族を食べた時はけっこう経験値が入ったんだけど、それ以外の格下の魔物を倒しても私のレベルでは大した経験値にはなってくれない。
ま、ここ数年はリーリアちゃんを育てるための期間だと割り切って過ごしてきた訳で、伸び悩むのは仕方のない事。一人だったらまた洞窟にでも行って強力なモンスターを食べまくってるよ。でもリーリアちゃんをあんな所に連れて行ったら、死んじゃうでしょ。だから外をこうして練り歩いて旅してきたと言う訳だ。
私ってば、教育熱心。そのおかげで自分の命が危うくなりつつあるけど、リーリアちゃんが私を超える日はまだまだ先である。
ところで、ラネアトさんを食べたその日に増えていたスキル『???』だけど、未だに???で何のスキルなのか分からない。たぶんラネアトさんを食べてスキルイーターで奪ったスキルなんだけど、いかんせんラネアトさんのスキルを覗くのを忘れていて、確証はない。
何か条件を満たして手に入れた可能性もあり、コレがなんなのか知っている人がいたら是非とも教えてもらいたい所である。