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ナマコだった


 気が付くと私は、見た事もない地にいた。周囲はたぶん岩石で、光がなく視界はゼロに近い。

 視界ゼロなのに何故周囲の状況が分かったかというと、何故か見えるのだ。どちらかというと、感じると言う方が正しいかもしれない。周囲の状況を、光が全くない状況でもどこに何があるのかを、ポリゴン風のマップのように理解する事ができる。理解できるのは、大体目で見える範囲くらいだ。

 でもおかしい。私にそんな能力はないはずだ。

 とりあえず、立ち上がろう。自分が寝転がっているのだと判断した私は、手足や胴体に力をいれて立ち上がろうとする。


「……」


 おかしい。立ち上がれない。あと今「あれ?」と声をあげようとしたのに、声が全く出なかった。

 一体自分の身に何がおこっているのか。確かめるべく色々と身体を動かしてみる。でも上手く動かない。硬い地面の上を這いつくばり、前に進むことはできるけどとても窮屈だ。

 もしかして私、拘束されている?手足を縛られ、口も塞がれて大ピンチ?


 更にピンチは続く。地を揺らしながら、何かが私の方へと歩いて来る。とても大きい何かだ。

 私はその進行方向にいて、地面を這いつくばっている状態。このままでは潰されてしまう。必死になって身体を動かし、その動線から外れるためにもがいて進んだ。

 どうにかその巨大な物の動線から逸れる事には成功したけど、相手が私に気づいて目の前で停止した。そして私の目の前に、巨大な目玉が現れた。


「っ!」


 真っ暗闇の中だったけど、突然光に照らされて瞳に映る自分の姿を見る事ができた。

 薄いピンク色の、ナマコのような生物。お腹の辺りには小さな手のような物が2本生えており、一応小さな口もついている。

 最初それがなんなのか、理解できなかった。でもすぐに理解した。私以外にそこには誰もいない。それは紛れもなく、私だ。私はナマコになっていた。

 いや、それよりも危惧すべき事態がおきている。私は今、化け物に睨みつけられている状態だ。私よりも大きなその瞳をみれば分かるけど、相手の大きさはナマコ姿の私の大きさを凌駕している。


『アレは何だね?』

『はっ。ジョーグヴァーレン洞窟、最底の魔物と呼ばれるジ・ゴです』


 聞いた事のない言語が聞こえ、そちらを向くとそこに複数の人がいた。

 そこにいた人の何人かが先端が光り輝く棒を手にしており、その光によって私は目の前の瞳と自分の姿を認識する事ができたのだ。

 その声を聞き、私を見つめていた怪物が人の方へ向く。

 瞳が遠ざかり、全体像の姿を見てようやく分かったんだけど、その怪物はカエルだった。私よりも遥かに大きい。ごつごつとしていそうなイボだらけの茶色い肌に、先ほど私を見つめていたぎょろぎょろとした大きな目。顎下の皮膚はだらけていて、それが髭のように見えて貫禄がある。

 今の私はナマコなので、私よりも大きいのはわかる。でも現れた人と比べればその大きさが異様なのがよくわかるだろう。このカエルは、人よりも遥かに大きい。一口で人数十人は飲み込めるほどの巨大さだ。


『……なるほど。名のある魔物なだけあり、それなりに強いようだね。オレが求める強さを満たしていると言える。だがな。なんだこの醜悪な姿は。醜い。醜すぎる。こんな物をオレは飼いたくない。却下だ、却下』


 現れた人間の中の、偉そうなおじさんが何やら怒り出した。

 おじさんの特徴は白髪で顔のシワの目立つ人で、だけどダンディでカッコイイタイプのおじさんだ。装着した片眼鏡もいい味を出している。服装も、身体のラインを強調するキツめのシャツを着ているんだけど、そのシャツに筋肉が浮かび上がっていて身体を鍛えている事がよくわかる。その上から白いコートを羽織っているんだけど、ボタンが全開なので下が見えちゃっている。

 よく見れば、おじさんの手先の爪がおかしい。鋭く長い、黒い爪が伸びており、明らかに人の物ではない。また耳の形もおかしくて、長い上に先が尖っている。


『も、申し訳ありません。では、次の魔物の下にいきましょう。次はきっと、気に入ってくださると思います』


 彼を囲む人間は、鎧姿の人間だ。銀色の鎧と、兜を身にまとっている。背には大きな斧を携えていて、彼が戦う人間だと言う事がうかがえる。

 だけど、その体格がいささか大きすぎる。偉そうなおじさんよりも一回り大きい。とてもではないけど人間には見えない。

 そう思っていたら、兜の隙間からその中身が見えた。その兵士は、私が思った通り明らかに人間ではなかった。形こそ人なんだけど、その兜の下に見えたのは骸骨だ。目は赤く光り輝いているだけで、眼球は存在しない。


『ちっ。さっさと案内しろ』

『はっ。こちらです』


 骸骨の鎧が偉そうなおじさんに向かってペコペコと頭を下げながら誘導する姿は、なんだか滑稽だ。悪い夢でも見ているようで、頭が痛くなってくる。


『……待ちたまえ、魔族の諸君』


 低く唸るような声が洞窟内に響いた。

 なんとも迫力のある声で、一瞬地震でもおきたのかと思ったけど違う。なんとカエルの化け物が喋ったのだ。


『魔族語を理解できるのか、この醜悪な化け物は』

『言語を理解するのに、容姿は関係ない。君はまだ若いので、そんな事も理解できないか』

『ふんっ。生意気な口をきく魔物だ。それで、我々を呼び止めて一体何の用かね。オレは忙しいので、手短に頼むよ』

『……私は長い間、この洞窟の奥底で暮らして来た。ただ暮らしていただけだが、洞窟に住まう魔物の中には私を殺そうと襲ってくる者もいた。そんな者を返り討ちにする内に、いつの間にか洞窟の中で長として敬われるようになり、襲ってくる者もいなくなっていたんだ』

『だからなんだね。醜悪な貴様の歴史に興味などない。むしろ、聞きたくもない』

『だからね。長年敬われていた身でありながら、突然現れた矮小な魔族に醜悪だと喧嘩を売られ、実は腹がたっているんだ』

『……』


 突然、辺りがピリついた雰囲気になった。地鳴りのような音が聞こえて来て、吐き気を催す。だけど私の胃の中はたぶん、空っぽだ。そもそもこの身体には吐くと言う機能がないのか、気持ち悪いだけで何も出てきはしない。

 ただ、強烈に気持ちが悪い。


『なるほど。むかついたから、オレを殺すと。醜悪な化け物はオレにそう言いたいのか』

『うん。残念だけど、ここまで腹が立ったのは百年ぶりでね。だから君を殺すとする』


 次の瞬間、大きな音が響き渡った。地面が大きく揺れ、岩が天井から降ってくる。更には衝撃波もおこって私はそれによって地面を転がった。


 何がおきているのか、サッパリ分からない。


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