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救ってあげる


 ──夜。

 リンク族の皆が寝静まり、静かになってから私は行動に移った。

 闇夜に乗じ、やってきたのはお墓だ。リンク族は土葬が基本で、寿命で死んでも病気で死んでも、棺桶にいれた状態で土に返される。

 普通に死ぬなら、それでもいい。だけど問題は、『ハスタリク』とやらで死んでしまった人を土葬する事だ。このハスタリクという菌は、非常に強い。宿主が死んでも生き続け、土で元気に育ってしまう。そして土は汚染され、土から栄養を引っ張る草木にも移り、広まっていく。ハスタリクにかかった人が咳き込むと、咳に乗じて菌が周囲に広がるのも見た。ただ空気中のハスタリクを吸って伝染した人は見かけなかったので、空気感染はしないのかもしれない。

 この3日調べた所によると、感染する主な原因はハスタリクに侵された食物等を食べる事だ。侵された草を食べる動物を食べるのもダメ。上手い事循環してしまっているのが、ハスタリクが収まらない原因である。


 そしてハスタリクに感染した人は、確実に死ぬらしい。

 実際発症してから3日で死んでしまう人の姿を私は見た。発症するとその日の内に高熱にうなされ、全身に力が入らなくなる。2日目には息も絶え絶えになり、3日目に全身に痛みが走って意識朦朧としながらも痛みに苦悶の表情を浮かべながら死ぬ。怖すぎる。

 かかると確実に死ぬのに、こんな状態で1年を過ごして来たあたり、感染力はそんなにないんだよ。ちゃんと対応すればこの病気はすぐにでもおさまる。でもこのまま放っておいて生贄がどうのとか言ってたら、この村本当に全滅するよ。


 だからね。私が救ってあげる。

 本当はあまり気が乗らないんだけど、仕方がない。私はハスタリクで死んだリンク族が埋められている墓場を前にして、大きく口を開く。そして飲み込んだ。土と、その下にいるリンク族ごとね。

 土は当然不味い。飲み込もうと思えば飲み込めるけど、その辺に吐き捨てておく。死体を包む棺桶も、かみ砕いてその辺に吐き出しておいた。問題は腐ったリンク族の死体だけど、やっぱり腐るとゲロ不味い。不味いけど、まぁ洞窟の中で食べて来たクモとかよりはマシかな。1つが終わると、別の死体を食べ、また次の死体を食べ……墓場は穴ぼこだらけとなった。でもこれでハスタリクで死に、土を汚染しているリンク族の死体はいなくなった。数にして、300人くらい。

 最後に念入りにもう一度、『菌可視化』でハスタリクがいない事を確認し、私は墓場を去った。

 お次は村の作物である。土から栄養を吸っている作物は、ハスタリクの温床だ。いくつかの作物がハスタリクに侵されているので、私はそれらの作物を土ごと食べて回った。ついでに使い物にならないと思っていたスキルシリーズの『土壌再生』で、土をキレイにしておいてあげたよ。結果、畑も穴ぼこだらけとなる。ただし残った土はキレイになった。

 最後に、草木だ。ハスタリクに汚染された草木がいくつかあり、リンク族がコレらを食べる事はないだろうけど念のため食べて回る。


「……な、なんだ?木が、なくなった?」


 やべ。さすがに大きな木を食べるのは目立ち過ぎた。

 リンク族に見つかったので、私は即退散。でも目的は果たせたと思う。周囲にハスタリクの姿はないので、これでハスタリクに侵された自然は全滅だ。

 とりあえず、これでオッケー。


 そして翌日。村は大パニックである。


「一体何がおこったのだ……?」

「分からない。だが、何者かが死者を冒涜した事は確かだ」


 穴ぼこだらけになった墓場を訪れたラネアトさんと、その隣に並ぶ長髪の男性を、私は木の上から見ている。

 ラネアトさんの隣のこの男性はたぶん、村長さんだ。ラネアトさんに惚れていると言う、例のあの人。

 2人とも、穴ぼこだらけになった墓場を前にして呆然としている。


「ここだけではない。畑も、木も何本かなくなりここと同じように穴が開いている。おかしいのは全てが少しずつ摘ままれるようになくなっている事だ」

「食べ比べでもしたのか?いや、それにしては妙だな。食べた跡を見る限り、それなりの巨体と推測できる。それなのに誰も気づかなかったと言うのは妙だ」

「いや、木を食べていた魔物を目撃した者がいる。その者によると、黒い塊が通り過ぎて行ったそうだ。大きさはこれくらい」

「……」


 手で大きさを示す男性を前に、ラネアトさんは顎に手を当てて考え込んだ。

 当然、その情報だけで犯人が私とは分からないだろう。でも確証はないけど、思い当たってしまっている。

 まぁ、仕方がない。どうせこれから姿を晒すつもりだし、別にイイヨ。


 という訳で私はこの村の病院に向かった。病院はぱっと見キレイだけど、私の目には一部赤く見える。それはハスタリクの菌だ。

 この中にはハスタリクに感染した人がいる。数はそれほど多くない。ハスタリクに感染しても、3日程で死んでしまうからだ。だから、さほど苦労する事はないだろう。

 さて。私が何をしようとしてるのか、もう分かるよね。そう。私はまだ生きているリンク族を食べにきたのです。

 死ぬまで待っても良いけど、どうせ生きてても辛い思いをするだけだ。だったら私が苦しませずにひとおもいに食べてあげよう。というのは建前で、私はちゃんと生きているリンク族を食べてみたくなったのだ。


 食べたい。どうしても、食べたい。腐ったリンク族ではなく、生きているリンク族を。


 でも理由もなく普通に食べるんじゃ、それは勿論ただの化け物のする事だよ。でも私には、村を救うためという免罪符がある。その免罪符に食欲が後押しされている形だ。

 という訳でこんにちは。


「な、何だ!?魔物!?どうしてこんな所に!?」


 病院の扉を開いて中に入ると、早速見つかってしまった。私を見たリンク族の男性が騒ぐけど、私は無視。ハスタリクにかかった患者のいる方へと歩いて行く。


「誰か来てくれ!自警団を……ラネアト様を呼べ!それと武器を持って来い!」

「どうした!?」

「魔物が入って来たんだ!止めてくれ!」

「この……!」


 あっという間に騒ぎになり、数名の男達が武器となる棒を手に私に襲い掛かって来る。

 でも彼らのレベルは皆高くても二桁台だ。私は触手の手を振り払うと、それだけで彼ら全員が吹き飛んで行って壁に激突。血を吐いて倒れ、気を失った。

 すごーく、手加減はしたつもりだ。それでもやはり、このレベル差は大きい。下手をしたら殺してしまう所だった。


「き、きゃあああぁぁぁぁぁ!」


 女性の叫び声が響き渡る。その叫び声がとても甘美な甘い蜜のように聞こえ、私を誘った。

 見ると、腰を抜かした白衣姿の女性のリンク族がいるではないか。とても美味しそうだ。私は方向転換すると、そちらに近づく。


「いや……こ、来ないで……!」


 怯えるリンク族の女性が、更に美味しそうに見える。食べたい。手足をもいで、もっと叫ばせたい。


 ──て、私は何を考えているんだ。


 ラネアトさんに怒られた時の事を思い出し、同時に触手で自分の頭を叩いて自らの思考を咎めた。

 そして女性から目を背け、病室の方へと向かう。食べてもいいのは、ハスタリクに侵されている人だけ。どれだけ美味しそうに見えても、それ以外の人は食べたらいけない。自分に繰り返しそう言い聞かせる事で自我を保ち、そして辿り着いた。


 ハスタリクの患者は一か所に集められており、その大部屋はハスタリクの菌で溢れかえっていた。中にいたのは、6人程。皆騒ぎに気付いていて起きており、部屋を訪れた私の姿を見て驚いている。

 でも、誰もベッドから起き上がる事はできない。皆衰弱しており、死を待つだけの人たちだ。全身を襲う痛みから、何もしていないのにうめき声をあげている人もいる。


 かわいそうに。今、私が楽にしてあげるからね。

 私は舌なめずりをしてから、病気と戦いながら一生懸命生きているリンク族に飛び掛かった。


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