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ストーカー


 リンク族の村は、確かに病気が流行っていた。病名が何なのかは分からない。でも凄く凶悪な病気らしく、人々は口々に病気に対する恐怖を吐露している。

 この世界の文明レベルでは、まだ病気に対する対応の仕方がよく分からないのだろう。この病気がどういう経緯で伝染するのか分からないけど、彼らが何らかの対策を行っている様子は見受けられない。

 そういえば、洞窟で変なスキルを覚えていたっけ。


 スキル『菌可視化』

 周囲の菌をその目に見る事ができる。


 キノコ型のモンスターを食べて覚えたスキルで、試しに使ってみていらねぇと思っていた。それが今この瞬間役にたとうとしているんだから、どんなスキルも覚えておいて損はないなと改めて思ったよ。

 で、使ってみる。

 すると、色々な菌が見えるようになる。空中を浮遊する、細長い菌。地面にうじゃうじゃしている菌。木にくっついている菌。本来はもっとグロかったりするんだろうけど、親切にもちょっとだけ簡略されて見えるのでグロさはだいぶ和らいでる。でもまぁ菌の特徴はそのままなので、多少デフォルメされたとしても気持ち悪いものは気持ちが悪い。それらの色は青く、害はありそうだけど害のないものばかり。


 そんなスキルを使いながら村に近づいてみると、やはり周囲の普通の菌とは明らかに違う物がちらほらと見える。というか、色が違う。普通の菌は青色に見えるのに、その菌だけは赤色に見える。更には他の菌達とは違って鬼の形相を見せているので、明らかに違う。よっぽどこの菌が危険だと言う事を示しているのだろうか。


「ハスタリクが流行り出して、もう一年か。一向に収まる気配がないな」

「ああ。死者は増えるばかりだ」


 村に近づいて茂みに隠れていると、深刻そうな顔をしてリンク族の男性が2人、そんな会話をしていた。

 ハスタリク……。どうやらこの病気はそう呼ばれているらしい。


「一体どうすれば収まるんだ……」

「やっぱり、森に生贄が必要なんだろう。この病気は森の怒りだ。森の怒りが鎮まればきっとすぐにでも収まる」

「そうだよな。やっぱり今の村長は全然分かってない。ヤツは若すぎるんだよ。昔の考えは捨てろとか偉そうな事を言って病院を作り、医学に頼った結果がコレだ」

「そうじゃない。お前、知らないのか?」

「何が?」

「村長はラネアト様に惚れているんだ。生贄には十の年を超えて一番十に近い者が選ばれるだろ?」

「……そう言う事か。そんな事で村人の命が奪われて行くんだから、たまったもんじゃねぇな」


 生贄とか、病気に対して全く意味のない事が出るくらいこの世界の医学は進んでいないようだ。あまりにもくだらなすぎる。

 あと、村長さんがラネアトさんに惚れているから生贄はしないとか言ってたけど、話の内容からもしかしてラネアトさんって十歳なの?若すぎない?

 そんな疑問の答えは向こうからやってきた。


「お姉ちゃん、今日はもうお仕事終わりなの?」

「ああ。今日はもうずっと一緒にいられるぞ」

「やった!」


 歩いてやって来たのはラネアトさんと、ラネアトさんと手を繋ぐ女の子だ。その女の子の見た目は十歳程であり、ラネアトさんの事をお姉ちゃんと呼んでいる当たり2人が姉妹だという事が分かる。

 妹ちゃんも、ラネアトさんと似て可愛い女の子だ。髪は金色の美しいショートカットで、八重歯が覗いている口がとても快活そうなイメージを持たせる。

 正直言って、美味しそう。ラネアトさんと同じく、妹ちゃんも私の食欲をそそらせる存在だ。姉妹揃って食べたら、どれだけ美味なのだろう。

 ま、食べないけどね。


 で、生贄の十歳がどうのこうのは、妹のためという訳だ。今生贄が選ばれると、あの元気いっぱいで可愛くて美味しそうな彼女が死んでしまう。それはラネアトさんも、ラネアトさんに惚れている人も避けたい道だろう。

 そんな2人を、先ほど噂していた男の人が睨みつけている。不穏な空気が流れたけど、ラネアトさんが気づいて睨み返すと男の人はその場を退散していった。


「お姉ちゃん?」

「なんでもない。帰ったら何をして遊ぼうか。それから……そうだ。今夜はリーリアの好きなご飯にしよう」

「ホントに!?やったぁ!そうだ。私お姉ちゃんに、キフトの実をとってきたの。それも夜一緒に食べよう」

「キフトの実を?嬉しいな。是非、食べよう」


 喜んで飛び跳ねる妹ちゃんが可愛い。食べた……間違えた。守りたいなこの姉妹。


「……」


 さて。立ち去っていく姉妹を見送り、私はどうすべきかを考える。

 リンク族を苦しめる病原菌の姿は確認できた。それを排除し、この村を救う事は可能なのだろうか。スキルイーターの力を使って飲み込めば、出来る可能性はある。できそうではあるけど、でも答えはやってみなければ分からない。

 そしてやるには、リスクを伴う。目立って見つかると、化け物として処分されてしまう可能性が高い。見渡す限り雑魚レベルの集団だし、別に襲われたってなんともない。でも救ってあげようとしているからね。助けてあげようとしてあげている所を襲われたら、さすがに私だって怒る。怒って食べちゃうよ。

 そんな事になったら、なんていうかむなしくなってしまう。

 とはいえ今の私には意思疎通する手段がない訳で、例え意思疎通できたとしてもこんな化け物と意思疎通できたらそれはそれで怖い。元人間として断言できる。


 結局何もいい案が浮かばないまま、3日が経過した。

 私はその間、仲の良い姉妹の暮らしを見守って過ごし、改めて尊いと思った。こんな姿にはなってしまったけど、尊い物にはちゃんと癒される事に安心したよ。


 見守っていて分かった事だけど、ラネアトさんと妹のリーリアちゃんは2人暮らしで、両親は他界しているみたい。ラネアトさんは剣技の腕前を活かして村の治安部隊のリーダーを務めていて、皆の尊敬を集めている。

 リーリアちゃんは子供らしく学校に通っているんだけど、学校の人数は少なく彼女と同年代の子はいない。一番年が近くて、上の高校生くらいの子だ。下は幼稚園児となる。

 リンク族は繁殖が難しく、子供が出来る確率は極端に低いのだ。その分寿命は長く、平気で300歳くらいは生きられてしまう。でも年を重ねてもおじいさんおばあさんになる訳ではなく、20歳くらいで見た目が固定されて以後寿命までその姿を保つのだ。その辺はゲームの中のリンク族と同じであり、知識として知っていた事だ。でも改めて現実でそういう存在と遭遇すると、まさにファンタジーって感じ。

 まぁそういう事情があって姉妹という存在は珍しく、ラネアトさんとリーリアちゃんの存在はかなりのレア物ってわけ。


 んで、今後数年は生贄を捧げるとしたら選ばれるのはリーリアちゃんと言う事になってしまうのだ。

 『聴覚強化』のスキルによって聞き耳を立てる限り、生贄に賛成する声は多い。私調査でおよそ8割の人が賛成している。村の偉そうな人たちの会議でも議論にあがり、生贄は必要だと結論づけられるに至るのを、今聞いている所。

 1人だけ猛反対しているけど、この人が多分例の村長さんかな。ラネアトさんに惚れているっていうね。


 早くなんとかしなければ、リーリアちゃんが殺されてしまう。生贄などというくだらない物に利用するくらいなら、私に食べさせてよって話だ。じゃなくて、生贄なんてくだらない物のために、あんな幼い子を殺すのに私も反対だ。


 ……はぁ。仕方がない。

 この3日で、私はどうすればこの村を救えるかを考えていた。ただ姉妹をストーカーしていた訳ではないんだよ。勘違いしないでよね。

 かなりめんどくさくて目立つ事になるかもしれないけど、リーリアちゃんを救うためなら仕方がない。頑張るかぁ。


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