表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/164

???

本日二話目の投稿となります!


 荒い息遣いが聞こえる。それは興奮しているような、苦しみに耐えているような、はたまた激しい運動の後の息遣いのようにも聞こえる。

 声の主は、耳の長い男だった。背が高く、スラリとした体形。しかし顔色はとても悪く、目の下には濃いクマがある。そして病的にやせ細っている。


 はたから見れば、誰もが普通ではない男だと思うだろう。


「はっー、はっー、クソ、どうしてオレがこんな目に合わなければいけないんだっ……!あの化け物のせいだ!それと、リーリア……!ラネアトと、オレを……リンク族を裏切ったあの小娘……殺してやるっ。魔物も、リーリアも……!」


 男は壁に強く拳を打ち付ける。

 よく見ればその左手の拳は砕け、血が出て、折れているようにも見える。右手は途中で斬り落とされていて、袖の中身は途中から空っぽだ。


「……嗚呼、神よ。かつて人間族を支配したアスラ神。リンク族に繁栄をもたらした、ルッフマリン神。ドワーフに知性をもたらした、シフス神。鬼人族に力を与えた、ジスレクト神。獣人族に笑いをもたらした、ヴァレオリラ神。妖精族に娯楽を与えし、メド神。偉大なる神々よ……オレに力をお与えください。あの化け物に、オレの腕を斬り落としたあの化け物を倒せる程の力を……どうか……!」


 突然、男が泣き崩れた。そして何もない壁に縋りつき、天を仰いで祈る。まるで、そこに何かがいて、男にだけその何かが見えているかのようだ。


『──力を欲する、弱き者よ。憎悪にまみれ、復讐心に取りつかれた愚か者よ。貴殿は神に何を捧げる事が出来る』


 声が響いた。その声は男にだけではなく、周囲の人にもハッキリと聞こえる声だった。


「……全てを。オレの肉体も、命も、意識さえも、全てを捧げます。魔物と、リーリアを殺すために」


 自然と涙を止めて、静かに、冷静になった男が、突然聞こえて来た声に疑問をいだく事もなく、そう答える。

 そしてその願いに応えるように、男の影から真っ黒な手がいくつも這い出て来た。そしてその手が男に伸びていき、男の身体を掴み取る。

 男は手に抵抗もせず、身体中を掴まれてその手に身体を潰されて行く。


 絶対に痛いはずなのに、男は悲鳴を一切上げない。そして手の隙間からかろうじて見える男の目は、憎しみに満ちていた。その目に映っているのは、彼が恨む人物達。憎悪と悪意に満ちており、とても邪悪な物を感じさせる。

 やがて、多くの手に飲み込まれた男の身体が元の状態に戻った。影から出て来ていた手は消え去り、男の身体も元通り。でもその右腕だけが違っていた。そこに、なかったはずの腕が生えている。その腕は黒い、影の中から出て来ていた腕のようで、最初からそこにあったかのように存在して男の意思で動いているように見える。


「……──アリス。必ずこの手で、殺してやる。そして再び、今度こそ、この世界を支配してみせる。神に逆らいし者ども全てに、必ず復讐してみせる」


 男の目も、元の憎悪に満ちた目に戻っていた。しかし片目が真っ黒に染まっていて、そこに何者かの意思が宿ったようにみえる。


 彼のその憎悪の対象は、間違いなくアリスが主だ。

 元はリンク族の村の長として人望を得ていた彼は、ある出来事がキッカケで変わってしまった。全てを恨み、疑い、信用しない。

 そのあまりに強い恨みと憎しみと、神に対して願った想いの強さは、神の復活を予想外に早めてしまった。あるいは、神と彼の想いがリンクしてしまい、そのせいなのかもしれない。はたまたその両方か。


 アリスに訪れた平穏な日々が終わるのは、案外近いのかもしれない……。


この物語はコレで終わりとなります!

読んでいただいた方は勿論、感想などくれた方々、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ