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ナマコから始まった物語


 大きな出来事がもう1つあって、実は先日、バニシュさんとミズリちゃんが結婚した。

 ミズリちゃんは成長し、15歳になった所でバニシュさんが改めてプロポーズ。そのプロポーズをミズリちゃんが快諾し、そして2人は結婚に至った。

 その結婚式には勿論皆で出席したけど、成長したとはいえミズリちゃんはまだまだ幼い。というかミズリちゃんは背があまり高くならないタイプのようで、普通よりも小さい気がする。まぁロリコンのバニシュさんにとっては喜ばしい事だろう。

 一方でバニシュさんは変わらないおじさんで、一見すると犯罪臭がする式場だったのをよく覚えている。


 でも、ウェディングドレス姿のミズリちゃんはとてもキレイだった。そして、凄く幸せそうだった。

 バニシュさんもその時ばかりは緊張した面持ちで、それが面白かったな。長年の恋が実を結んだ形で、とてもいい結婚式だったと思う。


 私もその内、リーリアちゃんやカトレアとあんな風に……。やっぱりリーリアちゃんは、タキシードだよね。いやでもあえてウェディングドレスも捨てがたい。むしろギャップを狙い、カトレアがタキシードもありかも。

 なんて妄想がはかどった。


 カラカス王国のシェリアさんは、騎士として町を守る力を得るために、修行の旅に出ている。たった1人の旅で、その旅は国内やザイール諸王国にとどまらず、世界中を旅して冒険者のような事をしているみたい。

 むかーしカラカス王様と色々あり、喧嘩別れとなって行方の分からなくなった自分の母親を、その旅の中で探すと言う目的もあるらしい。

 一国のお姫様でありながら、凄い行動力だ。機会があれば、私も協力してあげようと思う。もしかしたら私が知っている人かもしれないからね。

 なんて、そんな偶然ある訳がないか。私のこの世界の交流関係って、かなり狭いから。その中にシェリアさんのお母さんがいるなんて、そんな事ある訳ない。

 そういえばちょっと前に、ミルネちゃんの保護者のイギータさんが、昔カラカスに住んでいたとか言ってたな……。まぁ関係ある訳がないか。


「──アリス。この後アルメラの卒業記念祝賀会を、お城で盛大に開くみたいだけど、どうする?」


 少し人ごみに疲れたので、校舎裏の静かな場所に設置されたベンチに座って休んでいると、リーリアちゃんがやって来てそう尋ねられた。

 私の行動パターンは、もうかなり読まれている。私がどこにいるのか、匂いで嗅ぐ必要もない。全てを見通されているみたいで、でもそれは嫌な感じではない。むしろ嬉しい。


「……アルのためなら、私も出る」

「そんなに気合いれなくてもいいわよ。盛大といっても、身内だけのパーティだから」

「うん」

「あー、それにしても、ついにアルメラも卒業かぁ。フェイメラもそうだけど、二人とも本当に大きくなったわよね。あの日を思い出すと、感慨深い」


 リーリアちゃんは2人と出会った時の事を思い出しながら、私の隣に腰かけた。

 あの日、2人を助けにいったのは間違いなくリーリアちゃんだ。姉妹を自分と重ね、助けずにはいられなくて行動に移した。だから私も2人を助けた。

 2人が今こうして立派に大人になれたのは、私のおかげでもあるけどリーリアちゃんのおかげでもある。それだけではなく、お城の皆のおかげでもあって、勿論死んでしまった2人の両親のおかげでもある。


「あの時、リーリアは負けた」

「ちょっと、その話はしないでよ。あと、負けてはいないから」

「負けたようなもの」

「だから違うって。ちゃんと勝った上での、敗北だから」

「やっぱり負けてる」

「あ……」

「ふっふっふ」


 無表情だけど、勝ち誇ったみたいに笑ってみた。

 すると、リーリアちゃんが私の顎を手で掴み取り、自分の方に向けてからその顔を目の間に持ってくる。


「悪い事を言う口は、この子かしら。あまり悪戯がすぎると、あんたの唇食べちゃうわよ」


 目の前のリーリアちゃんは、笑っている。その微笑みはイケメンのようであり、可愛い女の子でもある。

 そして是非とも食べてもらいたい所である。私はその唇に媚びるように、そっと目を閉じて唇を差し出した。


「二人で抜け駆けして、何をしているのですか?」


 唇を奪われる代わりに、声が聞こえて来た。その声はカトレアの物で、声がするのと同時に私の隣のベンチに腰掛けて来て、腕を強く抱きしめて来る。


「別に抜け駆けしてたって訳じゃないわよ。ちょっとアリスとキスしようとしてただけ」

「それを抜け駆けと言うのです。するなら、私も一緒ですよ」


 カトレアはそういって、私の頬にキスをしてきた。負けじとリーリアちゃんも、反対側の頬にキスをしてくる。

 幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだ。


「それにしてもアリス様。最近ではフェイメラやネルルとミルネさんとまで仲が良いようですね」

「特にネルルの身体にはよく抱き着いてるわよね。大きな胸が好みなの?」

「あの胸には二人とも勝てませんね……」

「ええ。私も抱きしめられた事があるけど、あの胸は凶器よ」


 3人でネルルちゃんのおっぱいを想像し、自分たちの胸を比べる。と、やはりあの胸が桁違いの化け物だと言う事がよく分かる。


「やめましょう。むなしくなります」

「そうね。ネルルはネルルで、私達は私達よ。ところでアリス。アルメラが言ってたけど、アルメラに何かあげるんでしょう?」

「うん。卒業祝い。というか前から約束していた事でもある」

「へぇ。何か聞いても良い?」

「……内緒。その方が面白い」

「気になりますね。一体どのような特別な物を差し上げるのでしょう」


 カトレアも気になるようだけど、ここでそれをバラすつもりはない。


 実は今日、この日、パーティが終わった後でアルちゃんを連れて、私は旅に出る予定だ。それはアルちゃんきっての希望で、私がリーリアちゃんを連れて旅したのと同じような体験を、自分もしたいと言って来たのだ。

 その時になって旅の参加者を募るつもりだけど、リーリアちゃんは来るだろうな。カトレアも無理を言って付いて来そう。ネルルちゃんも来そうで、フェイちゃんはカトレアの護衛という名目の下でついて来るだろう。他の皆は、予定次第といった所か。


 実は、新たな旅を目前してワクワクしている自分がいる。神様がいなくなって、平和なのはいいけど若干退屈な所もあるからね。まぁ魔物関連でちょっとした事件はあったけど……皆の力を合わせれば大抵のことはなんとかなり、乗り越えて来た。

 この旅は……初心を思い出し、ワクワクする冒険を味わえる最高の旅になるはずだ。


 この世界にやってきて、ナマコになり、今の姿へと成長してしばらくの時が経ったけど、まだまだ知らない事はたくさんある。そして私を慕ってくれる皆のためにしなくてはいけない事も、まだまだたくさんある。したい事もある。

 こんな日常を、いつまでも謳歌していきたい。この世界に訪れた平和を、いつまでも守っていきたいな。


 でもとりあえずはここで、私の異世界生活に関する物語は終わりとなる。ナマコとなり、神殺しを成して平和となった今、語るべき事は少ない。私はこれから、普通に、ただの触手の魔物として、皆と日常を過ごしていくだけだから。


 でも次に神様が復活するその時まで、どれくらいだろうか。どう思う?セイルヘル。


「わっ。アリスが白くなった」


 私がセイルヘルに語り掛けると、かつて邪神を倒したときのように髪が白くなる。こうしていられる時間はあまり長くはないけど、この時間だけはセイルヘルが邪神の空腹感から解放される事が出来るので、私は定期的に呼び出すようにしてあげているのだ。


『それはボクにも分からない。神を想い、神に力を欲する者の数と想いの強さによって、その時期はずれるだろう。でも少なくとも、君達がこの世界にいる間は神もおとなしくしているんじゃないかなと思うよ』


 そうだといいんだけどね。そうしてくれれば、少なくとも私達が生きている間は本当に平和なだけだから。

 でも、何か嫌な予感がするんだよね。何かがこの世界を……というよりは、自分の身の危険を感じる。気のせいだとは思うけど、なんか気持ち悪い。


『気のせいだよ。神殺しを成した君に逆らおうとする者は、もうこの世界にはいない。まぁ、君を個人的に恨んでいる存在はいるかもしれないね。神以外にも』


 個人的に恨んでる?誰の事?


『さぁ』


 セイルヘルはそこまで言ってくれたのに、突然黙った。

 私はこの世界で、良い事しかしてないよ。町を救ったり、女の子を助けたり神様を倒したり、本当に褒められる事しかしていない。

 でもそれは視点を変えれば、私が悪ともなりえる。分かっている。良い事をしても、誰かの目線では悪役になり得る事を。でもそんな恨まれる事はしてないと思うんだけどなぁ。


『まぁいいじゃない。少なくとも今は、平和だよ』


 それもそうか。何かがおこるにしても、今ではない。

 私はこれからも、この世界を満喫していくだろう。可愛い女の子達に囲まれて、イチャイチャしながらね。

 いや本当に幸せな生が謳歌できそうで、今からワクワクするわ。私は両サイドで私を囲んでいる2人の手を握りながら触手を伸ばし、抱き締めながらそう思う。


 ──私はこの世界で、ナマコから始まったこの生を、これ以上ないくらい満喫している。私は、幸せだ。


読んでいただきありがとうございました!

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