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晴れ舞台


 ──神様がいなくなってから、数年の月日が流れた。


「あ……!おーい、アリスお姉ちゃーん!」


 よく晴れた、天気の良い日。大きな建物の前に、学校の制服を着こんだ大勢の人々が集まっている。そんな集団の中で、一際目立っているのが私を中心とした一行だ。

 私はこのめでたい日と言う事もあり、黒色のドレスを着こんでいる。その上で、顔はフードで隠してある。でも触手は隠していない。ドレスのスリットの間から顔を出し、うねうねとしている。


 顔を隠しているフードだけど、これは特別仕様だ。白色の、花の柄もついていてお洒落なヤツ。お祝いとかでしか着用しない、レアなヤツである。


 そんな私に駆け寄って来たのは、制服を着こんだ女の子である。短髪の女の子で、背はやや小さ目かな。でもスタイルはよく、お姉ちゃん譲りのほっそりとした体形はとても美味しそう。

 おっぱいは……残念ながらあまり大きくならなかったね。そこもお姉ちゃんと同じだ。


「卒業おめでとう、アル」

「ありがとう、アリスお姉ちゃん!」


 そう。この少女は、アルちゃんだ。幼かった頃の面影を残している彼女は、今日学校を卒業し、大人の仲間入りを果たそうとしている。

 と言ってもこの世界では15歳くらいで大人扱いなので、私から見ればまだまだ子供みたいなものだ。


 お城での勉強会は、12歳をもって卒業する事になった。その後は更に勉強の道を歩むか、働くか技術を身に着けるか、はたまたどこかで何かの修行をするか。個人の判断次第で道が分かれる。アルちゃんにはこの国という王様がバックについているので、どんな道でも歩むことが出来る状況だった。

 そんな数多くある道の中から、アルちゃんは勉強の道を選んでデサリットの名門校に入学する事になった。そして今日、その学校の卒業式が行われている所である。

 いやぁ、だけどまさかこんな事になるとは思わなかったな。まさかあのアルちゃんが、医学の勉強をするために進学校に入るなんてね。その目的は、勿論お医者さんを目指すためである。

 病や怪我で苦しむ人の命を、医学の力をもって救ってあげたいんだってさ。

 アルちゃんは勉強が好きだし、それに頭も悪くない。学校での成績はトップクラスだったし、これから更なる専門的な勉強が待っているけどそれも問題ないだろう。


 しかし年齢を差し置いてもアルちゃんはやはり子供っぽい。アルちゃんは相変わらず抱き着き癖があって、私の姿をみればすぐに抱き着いて来る。今も抱き着いてきて、そして頭を撫でて欲しいと無言でねだられるので、なでなでしてあげている。


「もう、アルメラ!こんな日くらい、もう少し大人っぽく振舞えないの!?」


 そんなアルちゃんを叱ったのは、フェイちゃんだ。

 フェイちゃんは銀色の甲冑を身にまとい、伸びた髪はポニーテールに結んで凛々しい姿を見せている。こちらは背も伸びて、だいぶ大人っぽい姿となった。というか大人だ。私よりも背が高いし、大人に見える。

 一体いつの間に追い越されてしまったのだろう。気付いたらこうなっていた。でもおっぱいの大きさでは私が勝っている。


 フェイちゃんはお城での勉強会を卒業すると、騎士を目指して本格的に修行を開始した。

 今はお城で見習い騎士として働き始め、要人の護衛や魔物退治などに従事している。超美人騎士様の誕生にデサリットの町は沸き上がって、早くもアイドル的な人気を得ているんだよ。


「お姉ちゃんこそ、相変わらずうるさいなぁ。今日は警備のお仕事とかないの?」

「あんたの卒業に合わせて、無理を言って休ませてもらったんでしょうが……!」

「えへへー。冗談だよ。わざわざ休んでくれてありがとう、お姉ちゃん」

「まったくあんたは……」


 今日の主役という事もあり、フェイちゃんは怒るに怒り切れないといった様子だ。身内だからこそのやり取りは、見ていて微笑ましい。


「アルメラちゃん、卒業おめでとう……!」

「で、どうしてミルネちゃんは泣いてるの?」

「だって、おめでたくて……!」


 ミルネちゃんもドレスを着こみ、アルちゃんの卒業に駆けつけてくれたんだけど、アルちゃんが指摘した通り泣いている。というかずっと泣いている。

 尻尾と耳が垂れ下がっているのが超カワイイ。

 でも卒業式で泣いてる人ってよく見かけるけど、私にはよく分からない。アルちゃんも泣く要素がないと言った様子で、ポカンとしながら尋ねている。


「ミルネはずっとこの調子なの。私達の、お城勉強会卒業式でもこんな感じだったでしょ?」

「あー……うん。でも今日は私の卒業だよ?ミルネちゃんが泣かなくてもいいよー」

「だってー……」

「あはは」


 アルちゃんが涙の止まらないミルネちゃんの頭を笑いながら撫で、一体誰の卒業式なのかよく分からなくなってきた。


「──ぶおおおぉぉぉ!おおおおお!」


 でも、もっと泣いている人がいる。

 声をあげながら泣いているのは、この国の王様だ。アルちゃんの卒業式に当然のように駆けつけ、そして大号泣している。


「あの、国王様。さすがに泣きすぎです。うるさいです」

「今日はアルメラの卒業なのだぞ!?しかも医者を目指し、全寮制の専門校に入ってしまうのだぞ!?毎日会えなくなる!泣かずにいられるか!」


 大きな声で泣く王様を、リシルシアさんが叱っている。けど、王様は聞く耳を持たずに大声で泣き続ける。


「それは私も寂しいですけど……今は喜んであげましょうよ。せっかくのおめでたい日なんですから」

「そうだな……うおおおお!」

「うあーん!」

「ダメだこりゃ」


 リシルシアさんの言葉に納得したと見せかけて、王様は泣く。ミルネちゃんも声をあげて泣く。そんな2人を前にして、リシルシアさんは何を言っても無駄だと悟った。


「シア。こういう時は、殴っても良いですよ。ミルネさんは、ダメですが」


 自分の父親を殴るように進言したのは、カトレアだ。

 カトレアも、背が少し伸びている。そして胸も少し大きくなった。美しさは前以上に進化していて、周囲を魅了して止まない。彼女を視界に映した人は、問答無用でその美しさに目を奪われる。

 これ、私の彼女なんだぜ。


「そ、そう言う訳にはいきませんよ、さすがに!」

「て言っても、さすがにクソやかましすぎて鬱陶しい事この上ないわ。せっかくのアルメラの晴れ舞台が、台無しって感じ。泣き止んで静かにしないと、家畜の餌として処分するわよ、クソじじい」


 そんな強烈な罵りをもって王様を泣き止ませにかかったのは、リーリアちゃんだ。リーリアちゃんもドレス姿で、頭には花の飾りもつけていてそれがとてもよく似合っている。

 彼女もまた、少し成長している。背や胸はあれから少しだけ成長して、そこで成長は止まった。髪の毛はちょくちょく切っているので、あまり伸びてはいない。お洒落好きなので、色々な髪型をカトレアと相談して試してはいるけど、結局はポニーテールが一番しっくりくるらしい。今もポニーテール姿で、凛々しい姿でドレスを着こんでいる。

 リンク族の特徴として、これ以上は成長も老化もしない。リーリアちゃんは今後、この若い姿で一生を過ごす事となる。


「……ワシにそんな口をきくの、お前だけだぞリーリア」

「仕方ないでしょ。文句があるならシアに言って」

「……」


 王様はリーリアちゃんに罵られ、少し落ち着いた。というか若干ショックを受けている。

 そんな状態で、恨めしそうにリシルシアさんを睨みつけると、リシルシアさんは目を逸らした。


 先程のリーリアちゃんの言葉は、人語で発せられたものだ。リーリアちゃんは、人語をマスターしてみせた。しかし教えた人の、故意か偶然かはたまた教えられた側の問題か、人語で話すリーリアちゃんの口はかなり悪くなってしまった。

 まぁ意味は分かって発しているので、教えられた側の問題が大きいと思う。でも口が悪いリーリアちゃんもカッコイイからよしとしよう。

 でも罵られたのは王様だけど、ミルネちゃんが委縮してしまっている。そちらは私が触手で頭を撫でる事によってフォローしておいた。そしたらまた静かに泣き出したよ。


「皆でこうして集まり、記念すべき日を祝うのはとてもいい事ですね。私、人族のお祝い事が大好きです」


 そう感想を述べたのは、赤いドレスを身に纏ってお洒落になったテレスヤレスだ。

 テレスヤレスの女の子化は留まる事をしらない。どんどん色っぽくなっていき、今では町で密かな人気を得ている。

 私と同じ魔物なのに、私よりも人気があるのはどういう事だろう。

 そんなテレスヤレスは今、護衛として働く傍らで、町で大工さんとして働きだしている。特に石の加工が得意で、芸術品にも精通していて彼女が作り出す加工物はかなり好評だ。


「ははは!実にめでたいな!」


 明るく笑い飛ばしたのは、レヴだ。わざわざ魔族領からこの国へ駆けつけてくれた。

 といっても、彼女にとっては転移魔法で一瞬の移動で済む話だけどね。


「み、皆さん少し静かにしましょう。ただでさえ目立つのに、大きな声を出したら他の皆さんに迷惑がかかってしまいます」


 同伴しているメイドさんが、私達にそう意見を述べて来た。

 確かに私たちはよく目立つ。周囲の、他の卒業生やその保護者達は委縮してしまい、静まり返ってしまっている。せっかくの卒業式なのだから、皆で明るくいきたいところだ。


 でもね。そう意見を述べて来たのはネルルちゃんなんだけど、そのネルルちゃんもまたよく目立ってしまっていると思う。

 なにせ彼女のおっぱいの成長はとどまる事を知らず、更に大きくなっているからね。しかも背も髪の毛も伸びて、キレイで巨乳なお姉さんメイドさんが爆誕してしまった。


「そうですね、ネルル。皆さん、少しだけ静かにしましょう。特に、父上」

「う、うむ……」


 娘であるカトレアにそう釘を刺され、王様が呻っている。これで少なくとも、大声でわんわん泣く事はなくなっただろう。


「でも皆、私のために集まってくれて本当にありがとう!私今、本当に幸せだよ!」


 集まってくれた皆に向け、眩しい笑顔でそう言い放つアルちゃんの姿は強烈に印象に残る。

 アルちゃんとフェイちゃんは、悲しみを乗り越えて立派に大人の仲間入りを果たそうとしている。姉妹2人とも、本当に立派だ。私は嬉しくて、静かに目から涙を零してしまった。

 先ほどは卒業式で泣くとか分かんないとか言いつつ、この体たらくである。

 だって、感動したんだもん。しょうがない。


「うおおおおおおぉぉぉぉ!」


 私の顔はフードで隠れているし、先程釘を刺されたと言うのにまた大声で泣きだした王様のおかげで、私が涙を流した事はバレていない。

 と思っていたんだけど、私の右手をリーリアちゃんが握って来て、笑っていた。更に左手にはカトレアが手を重ねて来て、そして微笑みかけてきている。

 泣いてる事、バレてるわコレ。でもまぁ2人にバレるなら別にいいか。


 アルちゃんの晴れ舞台は、こんな感じで少しだけ騒がしめに時間が経過していくのであった。


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