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解放された大地


 よく見れば、レヴはいつもは閉じている目を珍しく開いている。そしてその目から涙を流し、泣いていた。

 服はボロボロで、身体に傷も負っている。その傷が痛くて泣いているのかというと、そうではないだろう。


「……レヴ」

「レヴ様」


 私とリーリアちゃんは、そんなレヴにゆっくりと歩み寄り、そして声を掛けた。

 するとレヴは、ゆっくりと涙を袖で拭き取ってからこちらを向き、柔らかな笑顔を見せた。


「神どもを倒したようじゃな。闇に囚われていた魂達が解放され、自由の身となった。かつてアリスエデンを支配していた神を倒したときのように、人々は解放された。途方もない時間が経過してしまったが、これでついに終わりを迎える事が出来る。我のかつての仲間達も……ようやく解放され、自由の身となる事が出来た」

「レヴのその傷は?」

「コレか?コレは仲間たちにやられてしまった。しかし問題はない。依り代にされていた者達は、無事じゃ。ほれ、そこにいる」


 レヴが杖の先端を向けた先には、イケメン勇者パーティのメンツが寝転がっている。

 イケメン君は地面に大の字に転がっていて、その傍には2人の女の子もいる。3人とも服や体がボロボロで、激しい戦闘が繰り広げられた事を物語っているね。

 というかよく生きていたよ。あのレヴとぶつかりあって生きているとか、本当に凄い。


「レヴは、平気?」

「……平気じゃ。ふふ」


 答えて、レヴは嬉しそうに笑う。口角が吊り上がり、顔を赤く染めるその姿はなんだかとても嬉しそう。


「何かあったの?というかあったでしょ。じゃないとレヴ様がそんな顔をする訳ない」

「そうじゃな。あった。聞きたいか?実はな──」


 返事も待たず、レヴは嬉しそうに語り出した。


「ゼルフが実は、我に惚れていたと言ってくれたのじゃ。千年前、邪神との戦いで満身創痍となった奴とは、最期の別れの言葉を交わす暇もなく離れ離れとなってしまい、その後の行方が分からなくなってしまった。本当は、戦いが終わったら我に告白して共に生活するつもりだったらしい。じゃがその願いが叶う事はなく、ゼルフは闇に包まれたアリスエデンの地で命を落とし、ゼルフの魂はベグモットやユーエと共に闇に囚われる事になってしまった。そして先程、神に操られ我に襲い掛かってきおった。決着はつかんかったが、お主らが神を倒してくれたおかげで奴らの目が覚めた。戦いはそこで中止となり、そして目が覚めた奴に告白され、本当は我の事を愛していたと告白されたのじゃ。それからちゃんと別れの言葉を交わしてから、去って行った」


 嬉しそうに言うレヴは、恋する乙女そのものだ。

 しかしもうパピプペンはいない。元々魂だけの存在となった彼は、解放されたぶん成仏してしまった。告白されたからといって、その先がある訳ではない。

 でも、レヴはとても嬉しそうだ。先程の涙は、愛する人との別れを惜しむ涙と、告白されて嬉しい涙の両方が混ざっていたのだと思う。


「よかったね、レヴ……。パピプペンは、やっぱりレヴの事が好きだったんだ。本当に、良かった」

「パピプ……?ピポプのような名だな。よく分からんが……まぁそういう事じゃ。お主らも、よくやってくれたな。神達はどうなった?」

「自らが邪神となって私達を食べようとして来たけど、最期は死者達の中に放り投げて姿を消した。しばらくは、復活もしない」

「そうか……本当に、よくやってくれたようじゃな。お主らが我の仲間でいてくれて、本当に良かった」

「魔王様!」


 とそこへ、バニシュさんがやってきた。

 そのバニシュさんは、服がビリビリに破れて半裸状態だ。おかげで筋肉も丸見えで、でもその筋肉も傷だらけで痛そう。

 壁の外に置いて来た彼は、化け物たちに囲まれて激しい戦闘が繰り広げられたと想像出来る。身体の傷はその戦闘で負ったものだろう。

 神様を倒し、壁や化け物も消え去ったのだろうか。そのおかげでバニシュさんがここに来る事が出来た、という訳かな。


「終わったんですか?」

「うむ。アリスとリーリアが神を倒し、アリスエデンに囚われていた魂が解放された。神殺しは成った」

「あ、アリスとリーリアが……?魔王様ではなく?」

「我にはすべき事があった。神を倒したのは、この二人じゃ」


 レヴが嬉しそうに私とリーリアちゃんの手を握って、バニシュさんに対してこれまた嬉しそうに訴えかけるように言った。

 バニシュさんはそれに対し、ひび割れている片眼鏡を直しながら私とリーリアちゃんの顔を交互に見て来る。詳しく聞きたそうって感じだね。でもまぁ、今はいいかな。


「……カトレア達が心配。だから早く帰ろう」

「それもそうじゃな。帰ろう。我等の帰るべき場所に」


 私達4人は、揃って歩き出して古代の遺跡と化したクラークの町を後にする。

 忘れかけていたけど、一応勇者パーティも触手で持ち上げて、持って帰ってあげる事にした。一応生きているみたいで、このまま放置していたら絶対に死んじゃうからね。帰りの荷物が増えるのは嫌だけど、仕方がない。


 しばらく歩いて行くと、途中から闇に包まれていた。バニシュさん曰く、闇が消え去ったのはこのクラークの町だけで、アリスエデン全体は未だに闇に包まれたままっぽい。


「アリスエデンを包む闇は、千年前の邪神が放った闇じゃからな。それが囚われた魂たちによって維持され続けていた。しかし今はもう、魂は囚われておらん。闇を消し去り、アリスエデンの地を解き放つ事が出来る」


 レヴは闇を前にしてそう語ってから、私の方を見て来た。

 私は見られて、それで理解した。この闇を消し去る事が出来るのは、聖女の力を持つ者だけ。つまり私になら、それが出来る。


 私はリーリアちゃんを抱いたまま闇へと近づいて、闇に手を触れた。

 そして聖女の力を発動させると、私が触れた場所から闇が晴れていき、闇が急速に消え去って行く。


 千年間、闇に囚われていた大地に日の光が当たり、それまで普通の草原だった大地は日の光が当たるのと同時に一気に成長し、木がはえ、花が咲き、茂みが覆う未開のジャングルへとその姿を変えていく。

 それは見た事のない、神秘的な光景だった。まるで世界の変化を早送りで見ているような、そんな光景である。今、アリスエデンは千年の時から解放されたのだ。本来あるべき姿形になり、生物たちの住める環境になろうとしている。

 アリスエデンは、今この瞬間、ようやく真の意味で神様の支配から解放された。

 空を見れば、たくさんの白く輝く光が彼方へと飛んでいき、空へと吸い込まれて行く。アレは囚われていた人々の魂だ。彼らもまた解放され、自分たちの還る場所へと還ろうとしている。


「……」


 この光景を、私はリーリアちゃんと見ている。好きな人とキレイな光景を共有するのは、とてもイイ。コレが夜景とかで、2人きりだったらこのまま色々とゴールしてしまう所である。

 でもここは外であり、2人きりという訳ではない。ここではゴールする事無く、手を繋ぎながら身体を抱き合うだけで我慢しておこう。


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