同じ道を歩みたい
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1つ目の触手の口からは、涎が溢れて食欲に溺れている事がうかがえる。
それ以外の、いつもの触手たちも再生した。これらには目はついていないけど、いつもよりも元気満々に見える。そして、飢えている。
私の周囲をうねうねとして動き回り、隙あらば空腹を満たそうとする。けど、基本は私の意思で動く。この世界で一番美味しそうなリーリアちゃんを前にしても、彼女を食べようとする事はない。
そして気づけば、フードが吹き飛ばされた事によって露になっている私の髪の毛が、黒から真っ白に染まっている。この真っ白な髪の毛はまるで神様のようだけど、キレイだ。自分で言うのもなんだけどね。
「……アリス?」
「リーリア」
私は大好きなリーリアちゃんを触手で抱き起し、そしてお互いに見つめ合って名を呼び合う。
でもリーリアちゃんのその目はとても不安げだ。リーリアちゃんは、邪神に支配されて暴走した時の私を知っている。
今の私は正に、その暴走した時の私の姿だ。
けど今回は暴走しない。大丈夫だよと、そう訴えかけるように、私はリーリアちゃんの頭を優しく撫でる。
「大丈夫、なの……?」
「平気。私は、私。だから、安心して」
「うんっ!」
リーリアちゃんは素直に元気よく返事をし、そして私に抱き着いて来た。
大丈夫ではあるんだけど、こんな事をされるとちょっとキツイ。食欲を促進されて、思わず食べたくなってしまう。
いくら邪神の意思が抑えられているとはいえ、空腹感はかなり強い状態だから。それでもラネアトさんと出会う前くらいの食欲で押さえられているから、良い方ではある。
『なんだ。貴様、この気配は、邪神……いや、神……?まさか、セイルヘルか……!』
「ここからが、私の本気。覚悟して、邪神」
『……小賢しい。ああ、本当に小賢しい。いい加減、しつこいのだよアリス!我は腹が減っているのだ!おとなしく、食われないか!』
人はお腹が減ると、イライラする。それと同じで、邪神もイライラし始めたようだ。邪神の触手たちが涎を撒き散らし、私を威嚇して来る。
「これくらいでイライラしていたら、邪神は務まらない。というか貴方の身体に浮かび上がる神様達は、苦悶の表情を浮かべている。邪神になって、まだほんの少ししか時間が経っていないのに……それで邪神をやっていけるの?」
『我は邪神。全ての意思は一つとなり、かつて神だった者達の意思も我の中に消えた。神だった者達が苦しんでいようがなんだろうと我には関係ない。この苦しみもまた、我の一部なのだからな』
そう言い終わると、邪神の触手が私の周囲に大量に生えた。
『今度こそ、終わらせよう。アリス──この世に、邪神は二体もいらぬのだ』
「私もそう思う。終わらせよう。でも、いなくなるのは、そっち」
周囲の触手達が一斉に私達に降り注ぎ、その口で食べようと襲い掛かって来る。
けど、そうさせなかったのは私の1つ目の触手だ。触手は口を開いて周囲を一周すると、襲い来る触手たちをたったの一口で食べきって殲滅してしまった。目の生えていない触手も、頑張ってくれている。取りこぼしを食べ、私達を取り囲んでいた邪神の触手は全滅。残骸が地面に落ち、闇の中へと消えていった。
『──セ・ラーダンド』
邪神が魔法を発動させる。
と、私の周囲に複数の紋章が出現した。それは私を囲うようにして出現し、その紋章の中から先の尖った氷の柱が飛び出して来て、私を串刺しにしようとしてくる。
基本は、先ほど襲い掛かって来た触手と同じだ。こちらの方が真っすぐで、より動きが分かりやすい。だから対処は簡単だ。
私は出現した氷の柱を逆に触手で食べにかかり、紋章ごと触手の口の中へと収めた。
『調子にのるな』
すると、私の触手が突然内部から凍り付き、動かなくなってしまった。更にその氷は触手をつたって本体の私にまで伸びて来て、私ごと凍り付かせようとする。
「カーズドエンド」
しかし私が魔法を打ち消す魔法を発動させると、氷は消し飛んだ。
それから私はゆっくりと歩みを始める。リーリアちゃんを抱いて支えながら、優雅な行進の始まりだ。
慌てた邪神が触手を放ってくるけど、当然のように私は触手でそれらを薙ぎ払い、私を止める事はできない。先程放って来た物と同じ、火の犬も襲い掛かって来たけど、触手で食べて口に含んだうえでカーズドエンドを発動させると、打ち消す事が出来たので被害はない。
『……なんなのだ、貴様は。本来の邪神にとって代わった意思を持ちながら、覚醒し邪神の力を引き出している?その空腹に呑まれぬのか?その娘を、食べてみたいとは思わんのか?』
「リーリアは、確かに世界で一番美味しそう。でも食べない。私はリーリアと、こうして抱き合いながら生きていきたい。同じ事で笑い、支え合いながら同じ道を歩みたい。食べたら、その道を歩めない。だから、食べない。食べたくない」
『そのような事で、邪神の欲求を跳ね除けられるはずが──!』
「あんたはアリスを舐めすぎなのよ。アリスは、凄いんだから。あんたなんかと同じにしないで。ていうか、アリスこそが真の邪神で、あんたが偽物なんじゃないの?」
『……』
リーリアちゃんが薄ら笑いを浮かべながら、邪神を挑発するような事を言った。
本来なら邪神さんが怒り狂う場面である。でも邪神は黙った。そして攻撃も止んだ。なので私達は歩みを止める事なく、ゆっくりと歩いてやがて邪神の大きな目の前に到達した。
コレは、諦めたとみていいのだろうか。抵抗しないなら、やっちゃってもいいよね。私は邪神を食べるため、触手を伸ばして一斉に襲い掛からせた。
けど、私の触手が邪神を食べる前に邪神に変化が表れた。突然邪神が煙を上げて溶けだし、身体がなくなってしまったのだ。
食べる前に、死んじゃった?かと思いきや、溶けだした邪神の中から見た事のない姿の邪神が現れた。
基本の形は、人と同じだ。背は高めで、2メートル以上ある。でも全身真っ黒で、まるで全身タイツでを着ていると言うか……某探偵もののアニメの犯人のようである。ただ、邪神の特徴である目はある。目は顔以外、腕にも足にも、体中についていて、ぎょろぎょろと周囲を見渡している。
「気持ち悪いっ」
「キモい」
私とリーリアちゃんがその異形の化け物に対する素直な感想を、ハモって述べた。
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