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人がどうしても縋ってしまう物


 邪神の背後から襲い掛かろうとするリーリアちゃんに呼応して、私も駆けだした。正面の邪神を触手で食べて薙ぎ払いながら、本気の突撃を開始する。

 リーリアちゃん単体での攻撃では、恐らくキツイ。私も呼応しなければリーリアちゃんを危険に晒す事になってしまう。だから私は、どれだけ激しい攻撃を受けても退くつもりはない。


 邪神もまた、リーリアちゃんには気づいているのだけど、私の方への警戒が勝る。私へ対する触手の攻撃が激しさをまし、背後のリーリアちゃんに対しても攻撃は仕掛けているけど、そちらは手薄だ。


『──もう良いだろう。無駄な抵抗、無駄な戦いは終いにしよう』


 突如として邪神がそう呟くと、邪神の背後から襲い掛かろうとしていたリーリアちゃんの足元に紋章が出現し、そこから飛び出して来た闇がリーリアちゃんを包み込んで拘束してしまった。


「んなっ!?」


 突然の事に対応する事が出来ず、拘束されたリーリアちゃんの姿は闇に包まれて見えなくなってしまう。

 それは先程、私が受けた魔法とたぶん同じだ。私は聖女の力で振り払ったけど、リーリアちゃんは聖女のスキルを持っていない。なのでまともにくらい、身動きが出来なくなってしまう。


「リーリア……!」

『ア・ノルニル』


 心配して駆けつけようとした私に対し、邪神は邪魔をしてくる。私が進もうとした先に大きな紋章が浮かび上がると、そこから光が溢れ出した。

 何かの魔法が発動しようとしている。そこに踏み込めば、その魔法に巻き込まれてしまう。


 そこに踏み入れてリーリアちゃんに駆けつけるか、多少時間がかかっても迂回すべきか、迷いを消してくれたのは邪神だ。


 邪神はリーリアちゃんを包み込む闇の中に一本の触手を突っ込むと、リーリアちゃんの足を触手で拘束した状態で引っ張り出した。


「うっ、がっ……!?」


 その拘束が強すぎて、リーリアちゃんの足が折れる音が聞こえて来た。痛みに喘ぐリーリアちゃんにはお構いなしに、邪神は引っ張り出したリーリアちゃんを私に向かって放り投げて来る。

 なんにしても、受け止めなければいけない。その勢いで地面にぶつかれば、リーリアちゃんが大怪我を負う事は必須だ。しかし同時に私の目の前の紋章の光が増していき、今まさに魔法が発動しようとしている。

 このままでは、リーリアちゃんが魔法に巻き込まれる。その前に止めなければ、リーリアちゃんの命が危ない。


 なので、迷う必要がなくなった。


 私は紋章の、発動しようとしている魔法の中に自ら足を踏み入れると、同時に触手を伸ばして向かい来るリーリアちゃんを受け止めた。それは魔法の外の出来事で、私本体は魔法の中に納まったままである。

 私の触手に受け止められたリーリアちゃんが、私に向かって手を伸ばしている。私も手を伸ばすけど、間に合わない。


 全ては一瞬過ぎて、声を出す暇もない。


 次の瞬間、私は発動した魔法に巻き込まれ、視界が真っ白に染まった。紋章の中で、光が柱のように出現してその上に存在する物を浄化しようとしている。

 その魔法は、過去に何度か受けた事のある消滅魔法に似ている。けど、少し違うね。アレとは威力が全く違くて、全身が引き裂かれそうな感覚だ。実際そうなのだろう。私の肉体が引き裂かれ、消えていく感覚がある。

 ここまで邪神が使って来た、どの魔法よりも威力が高い。どうやら本気の魔法を繰り出して来たみたいだ。その威力の代償として、発動するまで間がある。普通なら避ける暇があり、受ける事のない魔法。でも私は神様らしい、卑劣な手によってその魔法を自ら受けにいってしまった。

 ゲーム的に言えば、たぶんこの魔法は即死系の魔法だ。私の全てが、消えていく。身体が、引き裂かれる。痛い。怖い。早く終わって欲しい。


 どれくらいの時間が経過したのか分からないけど、ふと気づくと光は収まっていた。そして私は地面に転がっている。

 生きてはいる。けど、HPは一桁台で、瀕死状態だ。どうやら、即死耐性のスキルが発動したっぽい。

 じゃなければ、死んでいただろう。触手はその全てを失い。服もボロボロで、顔を隠すフードも消え去った。


「かはっ……!」


 外傷は、レヴにやられた時よりは少ない。でも中が色々とやられているのか、血が口の中から出て来て止まらない。そして身体が動かない。全身が痛くて、火で中から炙られているかのように熱い。視界もボヤける。


「アリス……アリスー!」


 足が折れているはずのリーリアちゃんが、痛みに冷や汗を顔に浮かべながらも、足を引き摺って地面に転がる私の方へとやってきてくれた。そして地面に座り込んで私を抱き起こし、私の顔を覗き込んでくる。


「大丈夫、アリス!?死んで、ない……けど、ヤバそう!私はどうしたらいい!?どうしたらアリスの傷が治る!?」

「……」


 リーリアちゃんの顔がボヤけ、よく見えない。何か言っているようだけど、その言葉も少し曖昧だ。聞こえてはいるんだけど、頭が働かない。


 さて。どうしたものか。私は瀕死だし、リーリアちゃんも足が折れていてこれではまともに戦えない。


『ははははは!やはり心を持つ者は倒しやすい!少しばかり手こずったが、最期は中々に面白い茶番だったぞ!』


 笑い声が聞こえる。これは、邪神の声だ。かろうじて分かる。

 そしてこのままでは邪神に食べられてしまう事も、頭の片隅で理解している。

 この状況で、2人で邪神に対抗するのは不可能だ。せめて、リーリアちゃんだけでも助けなければ……でもその方法が浮かばない。


 どうする。考えろ。抵抗しないと、じゃないと、ここで終わってしまう。そしてこの世界が邪神に支配され、全てが呑みこまれる。そうなっていい訳がない。カトレアや、フェイちゃんにネルルちゃん、テレスヤレスや、王様にリシルシアさん、アルちゃん、ミルネちゃん……皆が私が勝利し、帰って来るのを待っているんだから。


「……」


 でも身体は動かない。段々と大きな黒い物体が近づいてきて、そして大きな目玉がリーリアちゃんの顔越しに私達を見下ろしているのが見える。

 勝者が、私達を見下ろしている。過去に何度か経験した、見下される体験。それを、全てを決める戦いで再び味わう事になった。今回は助かる道がない。このままでは、2人で食べられて終わる。

 リーリアちゃんは私を抱いたまま、何の行動も起こさない。足が折れているので、戦うにしても逃げるにしても、無駄だ。そう判断したのかもしれない。

 だったら、私がなんとかしなければ。私がリーリアちゃんを守らなければいけない。

 でも、本当に身体が動かないんだよ。ここから勝つためのアイディアも、何も浮かんでこない。


 動け。

 動いてよ。

 そして邪神を倒すんだ。

 また、温かいあの場所で、皆と一緒に過ごすんだ。


 そんな想いも叶わず、無情にも邪神の触手が大きな口を開き、私達に向かって迫り来る。


『喜べ。貴様達は我が、真なる邪神がこの世に生まれ落ち、初めて食す餌となるのだ』

「……」


 もうダメだ。全てを諦める時が来た。

 そんな時、人がどうしても祈ってしまう物がある。それは神様だ。その神様が私を食べようとしているんだから、笑っちゃう。それは分かっているんだけど、でもいざこうなってしまうと祈ってしまうものなんだよね。


 神様、助けてよ。せめてリーリアちゃんだけでも、お願いだからさ。


 そう祈りながら、視界の端にとある像が映り込んだ。それは私が知らない、見た事のない神様で、何故か闇に呑まれたこの空間でその像だけが浮かんで見えた。もしかしたら、幻影かもしれない。でも縋らずにはいられない。

 どうすれば、助けてくれる?お礼は……そうだな。私の全部でどうだろう。


 その願いは叶うことなく、やがて降り注いだ触手によって私の視界は真っ暗闇に閉ざされるのであった。


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