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邪神と邪神


『おおおおおおおおお!』


 邪神となった神様たちの雄叫びが響き渡る。

 その雄叫びに呼応するように、触手が私とリーリアちゃんに向かって来て襲い掛かる。


 私は大丈夫だけど、リーリアちゃんは先程受けたダメージがある。庇ってあげたい所なんだけど、さすがに今の状態の神様の攻撃から庇ってあげられる余裕は全くない。

 神様の触手は、私よりも数が多い。それでいて大きく、そして速い。次々と襲い掛かって来て、しかも闇の中から突然出現するから対応も遅れる。


「リーリア……!」

「私は大丈夫!あんたはこの化け物を倒す事を考えて!」


 それでも私は頑張っていた。襲い来る触手を自分の触手で弾き、ぶつかり合い、躱しながらリーリアちゃんに襲い来る触手を減らしてあげていた。

 そんな状況を見かねたのか、リーリアちゃんは私から離れて行ってしまう。その先でたくさんの触手に囲まれて、攻撃されている。けど、持ち前のスピードと、竜の加護によって強化されている斬撃で触手を薙ぎ払い、手負いながらも頑張っている。


 私は、せっかくリーリアちゃんが私を自由にしてくれたんだから、自分のすべき事をやるしかない。

 本当はリーリアちゃんが心配で、離れたくはないんだけど……大丈夫。リーリアちゃんは、レヴに鍛えられて本当に強くなった。先程の像の状態の神様も、倒したのはリーリアちゃんだ。

 でも、心配だ。やっぱり守ってあげたい。


 ……私のこういう過保護な所が、リーリアちゃんを温室育ちにさせてしまったんだよね。


 今はただ、信じるよ。信じるさ。信じて前を向こう。

 巨大な像の姿となった神様は、リーリアちゃんが倒してくれたんだから。だから、大丈夫。


『──ド・グレイブ』


 前を向いた私に向かい、邪神が魔法を放った。まずは邪神の大きな目の前に紋章が浮かび上がり、そこから勢いよく炎が飛び出した。その炎がこちらに向かってくる過程で姿を変えていき、四足の犬のような形となった。犬は地面を蹴り、進行方向を変えながら私を翻弄して向かってくる。

 向かい来る犬の数は、5匹。先程までのと派手な魔法と比べれば、若干地味な魔法である。なので、魔法ではなく触手を優先して対処する事にした。


 襲い来る触手を、私はジャンプして躱す。それから触手を伸ばして逆に触手を食べる事に成功。でも直後にその触手に向かって邪神の目玉つき触手が伸びて来て、食べられそうになってしまう。


「レデンウォール」


 私は触手を庇うようにして壁を作り出すと、その壁に邪神の触手がぶつかった。壁は一瞬にして砕かれてしまったけど、でもその僅かな隙を利用して触手を戻して攻撃を避ける事には成功した。

 そして地面に着陸すると……というか闇の上になんだけど、そこへ先ほどの炎の犬が襲い掛かって来る。けどその前に私の触手が襲い掛かり、犬は一口で食べられてなくなった。


 食べはしたのだけど、その瞬間だった。犬が私の触手の中で大爆発をおこし、私の触手を吹き飛ばした上で更に私にまで爆炎が降りかかる事になる。

 どうにか触手でガードして防いだけど、犬はそれだけではない。背後から襲い掛かって来た犬が、私に触れる直前で爆発。今度は爆炎が背後から降りかかり、更に周囲に突撃してきた犬も爆発して続いた。

 最後の方の爆発はなんとかレデンウォールで壁を作り出す事により、ガードする事に成功した。けど何発かくらってしまった結果、中々のダメージを負ったよ。あと、再び触手が一本ダメになった。


 そんな状況になったけど、私はすぐに邪神に向かって突撃を仕掛けた。襲い来る触手をよけ、地面から出現した触手は食べ、邪神を触手で食べるために駆ける。


『ジ・ケレン』


 邪神の魔法により、私の足元に紋章が出現。ほぼ同時に、その紋章から真っ黒な闇が浮かび上がり、私を飲み込んで来た。

 この闇は私の視界を闇に包み込み、更には身動きできないように身体を拘束する作用もあるようだ。何も見えないし、身体が動きにくい。


「っ……!」


 でも私は聖女の力を持つ、聖女だ。そのスキルを発動させると、私の身体が眩い光に包まれて私を包み込んだ闇を浄化し、消し去った。

 まるで、ラネアトさんに守られているような気分だよ。凄く頼もしくて、心強い。

 それで視界が開け、身動きも出来るようになったんだけど、目の前に邪神の大きめの触手が迫っていた。その触手は大きく口を開けていて、私を食べようとしている。


「レデンウォール」


 迫り来る触手に向かい、私はバリアを張った。けど触手とぶつかって一瞬せめぎ合うとすぐに砕け散ってしまい、私が逃げる時間すら稼ぐ事が出来なかった。

 そうなると、もう私にはどうする事も出来ない。その触手に食べられてしまい、私の視界は再び闇に包まれる事となる。


 でも私は触手で中からその触手を食べる事により、なんとか無事に外に出る事が出来た。


 私に食い破られた邪神の触手はボトリと地面に落ちて、闇の中へと沈んでいく。

 一方で私は無事だ。念のために自分の身体を見て確認したけど、なんともない。


 そこでちょっと思ったんだけど、あの邪神の触手は私の触手とは違い、スキルイーターのスキルを持っていないのではないだろうか。

 スキルイーターは、相手の防御力を無視して食べる事の出来るスキルだ。私がこの世界に邪神として生まれ落ちたその瞬間から持っていたスキルであり、邪神特有のスキルだと思っていた。

 けど今私のレデンウォールとせめぎ合った感じや、私を食べても中から突き破れた感じからすると、あの邪神はスキルイーターを持っている感じではない気がする。もし持っていたら、レデンウォールは砕けず食べられる。私の肉体も、口の中に入った瞬間終わるはず。

 そうならないのは、やはりそう言う事だろう。危ない、助かった。


「邪神も、案外大した事ない。ちょっと、拍子抜け」


 食べられた時は内心ちょっとビビってチビりそうだったけど、私は虚勢を張って邪神に向かってそう挑発をしてみた。少し、心を落ち着かせるためである。


『……何か、妙だ。何故貴様よりも完璧な状態であるはずの邪神が、不完全な貴様に手こずる』

「私からしてみれば、貴方の方が不完全に見える」

『ほう、面白い。何故そう思う』


 なんとなく言ってみたら、なんか食いついて来た。

 もしかしたら邪神も落ち着く暇が欲しいのかな。それとも、思い当たる節でもあるのだろうか。


「千年前この世界にいた邪神は、その意思の全てを食欲に呑まれていた。貴方のように、まともに会話をする事が出来るような相手ではない。私の内に眠る邪神も、そう。ずっと私に空腹を与え、私に食べろと訴えかけて来るだけの存在。今の貴方にはまだ、理性が残っている。それを完璧な邪神と呼ぶのは……邪神に失礼」

『ふはははははは!なるほど、確かに千年前の邪神に意思は感じられなかった!ただ食欲に呑まれるだけのヤツは、我と比べれば確かに本物の化け物であったと言えるだろう!あの醜き化け物と、高貴なる我は違う!その褒め言葉に感謝するぞ、アリス!』


 褒めたつもりは全くない。だけど邪神は勘違いして、感謝までして来た。


 でも、そんな事言っていていいのかな。邪神の背後に迫る金髪の可愛い女の子を見て、私は触手をうねらせてほくそ笑んだ。


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