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真なる邪神


 リーリアちゃんは、やってのけてくれた。

 その代償として、傷を負っている。腕に火傷の痕がみえ、服もボロボロでHPが減っている。本人は痛がっていないけど、痛いはずだ。だから私は腕に抱いたまま、彼女を抱き締めて身体を支えてあげる事にする。

 リーリアちゃんもその抱擁を受け入れて、私に軽く抱き着いてくれている。


 私とリーリアちゃんの目の前に現れた、合体した神様達。その背にある光の輪っかが、リーリアちゃんによって刀で斬られた事によって崩壊を始めた。輪っかが地面に落ちていく。それと同時に、人の叫び声や泣き声が響き渡る。

 このアリスエデンの大地で遭遇した、化け物を倒したときと同じような現象だ。

 地面に落ちた輪っかは、ただの石となった。あんなにキレイに輝き、人の顔が浮かび上がっていた輪っかとは思えない。本当にただの石が空から降って来て、地面が抉れる。


 神様の本体は、それきり動かなくなった。輪っかの崩壊も終わり、辺りは静まり返る事になる。

 もしかして、もしかすると、勝っちゃった?あの輪っかがそんなに大切な部分だったなんて意外だ。


「……勝ったの?」

「分からない」


 動こうとしない、神様の像。

 リーリアちゃんの言う通り、私達が勝ってこれで終わりならそれはそれでいい。けどなんというか……あまりにも呆気ない。


「……」


 私はリーリアちゃんを、地面に降ろした。リーリアちゃんは自分の足で立ち、私は周囲を見渡して一応警戒する。けど、何もない。

 何もないのは良いんだけど、未だにこの空間は神様の強烈な嫌な臭いで充満している。つまり神様は死んでいないのではないだろうか。


「案外、呆気ないわね。でもレヴ様が心配だし、早く戻りましょう」


 それもそうで、神様がいなくなったのならそうすべきだろう。

 レヴは戦いたくもないかつての仲間と戦わされている最中のはず。急いで戻って、援護しなければいけない。


「──いや、ちょっと待って」


 私は神様の像に、何か嫌な気配を感じた。


「アリス?」


 リーリアちゃんを触手で抱いて庇いつつ、その嫌な気配の正体に備えると、次の瞬間神様の像が砕け散った。それと同時に、その像の中から黒い闇が溢れ出る。その闇は逃げる間もなく私達と周囲を包み込み、視界が真っ暗闇に包まれた。

 周囲は真っ暗闇なんだけど、でもリーリアちゃんの姿は見る事が出来る。自分の身体も分かるね。なんか、変な感じだ。


「……何が起こったの?」

「分からない。でもたぶん、神様の仕業」

「そうね。間違いなさそう。……というかコレってもしかして、アリスエデンと同じ闇の中?」

「……」


 確かに、そうだ。この闇はアリスエデンのあの闇と同じように思える。

 でも私はそれ以上に、何か異様な気配を感じて身体が震えるのを感じた。この気配は、今までに感じた事がない。過去に感じたトラウマとも違う。

 何か、得体の知れない……いや、知っているんだ。知っているからこそ、それが危険な物だと分かる。


「どうしたの、アリス?身体が、震えてる……?」


 リーリアちゃんが心配して、私の手を握って来てくれる。

 そして指摘されて気づいたけど、確かに私の身体は震えていた。全身から嫌な汗が流れ出て、得体の知っている何かを怖がっている。


『──この世の全てを、食せ』


 邪神の声が、頭の中で響いた。私の食欲を促進してきて、私の意識を乗っ取ろうとしている。

 邪神も、感じているのだ。この気配に身の危険を感じて、意識が強くなった。


『はあああぁぁぁぁぁ!』


 その時、神様達の声が周囲に響き渡った。

 どこから声が聞こえるのかと周囲を見渡すと、それは地面から現れようとしている。私はリーリアちゃんと共にその場から引き下がると、地面の中からそれは姿を現わした。


 最初に闇の中から出て来たのは、一本の触手だ。闇の中から飛び出たそれは、必死に地面を掴み取って本体を闇の中から引きずり出す。

 引きずり出されたのは、大きな目玉がついた球体の化け物だった。更にその球体には顔が浮かび上がっており、その顔は神々の顔だ。その球体にはいくつもの触手が生えていて、その触手の何本かの先端にも、目玉がついている。


 その姿は、まさしく邪神そのものだ。私の邪神姿とは、似ても似つかない。本物の邪神がそこにいる。


『この世の全ての生物達よ。恐れよ。そしてこの我の糧となれ。我は邪神。この世の全てを飲み込む者である』


 神様もまた、自らを邪神と名乗った。その声は相変わらず神様達の声が重なっていて、よく響く。


「邪神って……邪神はアリスなんじゃなかったの……?」

『貴様達を殺すために、我等神自身が邪神となってこの世界を支配する事にしたのだ。もうこの世界で我を止められる者はどこにもいない。全てを食べ、全てを支配し、全ての生物に恐怖を植え付け、そして再び神の支配の時代が始まる。喜べ。崇めよ。ひれ伏せ』

「っ!?」


 神様改め、邪神から圧力が放たれた。その圧力は本当に邪神の言う通りにしたくなる衝動にかられる。

 しないけどね。リーリアちゃんも、しっかり耐えている。


 さて。神様は追い詰められ、ついに自らが邪神となる道を選んでしまったわけだ。思えば、邪神を作ったのも神様だから、自分達を材料にして邪神となる事も可能だったと言う訳か。

 でもさ、あまりお勧めはしないよ。邪神の身体はいつも空腹で、正直ちょっとイライラするから。

 実際邪神の身体に浮かび上がる神様たちの表情は、苦悶に満ちている。きっとお腹がすいて、イライラしているはずだ。


「……これが、奥の手?この世界を闇で支配するというのは、自らが邪神となって世界を包み込むと言う事?」

『その通りだ、アリス。このアリスエデンの地は、邪神が死の間際に自らの命を解き放ち、その魂が大地を食べた事で闇に覆われた。我もまた、魂を利用して闇を作り出せる。この闇はこの大地に囚われた者を利用した小さな闇だが、しかし神の魂を捧げればどうなると思う?この世界はたちまち、闇に包まれるだろう』

「死ぬつもり?」

『その気はない。捧げる魂は、六つある内の一つの魂で充分だ。ヴァレオリラならば笑いながらその役を受け入れてくれる。……しかし実は、この力を手に入れて少々気が変わった。大地を闇で包み、この世界の人々……餌を失うには惜しい。我等六名の神の魂を利用した邪神は、もう何者にも止める事は出来ない。止められぬのであれば、闇は使う意味もない。食えば良いだけだ。千年前は邪神を管理する者がいた。しかしこの時代にはそれがいない。その意味が、邪神を知る貴様には分かるはずだ』


 邪神は、際限なく人々を喰らう。私は邪神だけど、邪神の力は若干抑えられている。だからその空腹にはギリギリ呑まれずに過ごせている。

 でも自分の中の邪神が復活した時はヤバかった。危うくリーリアちゃんを食べてしまう所で、ギリギリ踏ん張る事が出来た。

 あの食欲は、理性でなんとかなるような物ではない。そんな食欲を、目の前のバカな神様達が手に入れてしまった。ついでに、力も手に入れてしまった。


「確かに、分かる。なら、止めるしかない」

『面白い。やってみろ、邪神。我は真なる邪神。邪神として完全なる覚醒もしていない貴様とは、全く異なる真なる存在である』


 コレを倒せば、全てが終わる。最後の戦いの場にしては、周囲は闇に包まれていて味気ない。

 でも、燃えるね。かつてゲームの中で倒した神様たちが、最終的には裏ボスの邪神となって今世界を滅ぼそうとしている。それを止めるため──神殺しを成すために、最後の戦いが今始まる。


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