探し物
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ルッフマリンは、美しい女性の姿をした神だ。その美しさから酷い事をするようには見えないけど、実は神の中でも一番残虐な女性だった。
彼女は、笑いながら人を殺め、人と人を操り争わせて遊ぶのが好きな人格の持ち主だった。
その前に姿を現わした少年も、老人も、ルッフマリンと同じ神の1人だ。だからレヴは間髪いれずに攻撃を仕掛け、殺そうとした。
「貴様等、確か一つになったと言っていなかったか?」
その情報は、私からレヴにもたらされた物だ。
フォーラが私に、そう言っていた。のだけど、今の所1つになった感じはしないね。既に3人姿を現わしている。
「一つになったわよ。貴方たちに殺されたせいで、復活する際に、色々あってね。美しい私の姿が、皆と合わさってぐちゃぐちゃになるのは嫌だったけど、基本見た目も性格も独立して生きているから、この通り私の意識の時は私の姿を保てるわ。美しい方が、貴方達も嬉しいでしょう?」
色っぽい喋り方のルッフマリンだけど、騙されてはいけない。彼女の色香は人を惑わし、破滅へと導く。そしてそれで喜ぶ、最低の女だ。
私はルッフマリンよりも美しく、無意識に人を惑わし、でもそれを自分のせいだと嘆く女の子を知っている。ルッフマリンとは正反対の性格のその女の子の爪の垢を飲ませてやりたいよ。
「どうでもよいわ。貴様、本体はどこにいる。話せ。なに、悪いようにはせん。ちょっと、もう千年ほど死んでいてもらうだけじゃ」
「んもう、喧嘩っぱやいわねぇ。そんなんじゃ、誰もお嫁さんにもらってくれないわよ?それとも、私が貰ってあげましょうか?たーっぷり、毎日可愛がってあげる。絶望させて、心を壊して、虐めて、元に戻して、また可愛がるの。千年前、私を殺してくれたお礼よ」
「遠慮する」
レヴがルッフマリンを拒絶し、再び魔力をこめた杖の先端を向けた。
「ねぇ、実は私、知ってるの。貴女がアリスエデンのこの地で、何を探しているのか。そして探し物の在り処も」
「……我がここで探してる物は、神だ」
「確かにそうかもしれないけど、違うでしょ?もっと大切で、貴女が愛したアレの事よ。もっとも、アレは貴女の事を愛してはくれなかったみたいだけど」
「っ!」
レヴが凄まじいい殺気を放った。同時に地を蹴り、家の屋根の上に座るルッフマリンに向かってジャンプ。空中で杖を振りかぶりながら、ルッフマリンにフリスイングを見舞った。
そのスイングにより、家が吹き飛んだ。ホームランバッターもビックリなスイングは、家を分解させながら空の彼方へと吹き飛ばす威力を持っている。
「──だから、落ち着けと言っている。人の家をホイホイと壊すのはあまり感心しないよ」
ふと気づくと、私達の後方に男がいた。
大人の男の人で、やはり白髪だ。その表情は柔らかく、優しそうな大人の男の人。他の神様達同様白い服を着こんでいて、服にはシワ1つない。彼も、私は知っている。
「どうせまやかしじゃ。壊しても誰も文句は言うまい」
「ま、そうなんだけどね。でも話は最後まで聞いてほしいかな。じゃないと、後悔するかもよ?」
「ジスレクト……」
彼の姿は、ジスレクトと呼ばれる神様そのものだ。私は彼を、ゲームの中で見た事がある。
最初に現れた少年と、おじいさんも同様だ。少年の名は、メド。おじいさんの名は、アスラ。
それぞれ皆が神様であり、千年前に倒された神々が、次々と私達の前に現れる。
「やぁ、アリス。でも今はちょっと黙っていてくれ。私はクエレヴレと、大切な話があるんだ」
「……」
レヴの方を私が見ると、レヴは黙って頷いた。
私の身体は、少しは回復している。触手が1本完全に回復し、他の触手たちも徐々に回復しているけど、そちらはまだ先端の口までは回復していない。あと、本体の方の腕は相変わらずボロボロで、痛々しい。
私はレヴが頷いたその瞬間、回復している1本の触手でジスレクトに襲い掛かった。と同時に、リーリアちゃんの剣が彼を襲った。
抵抗する様子も、回避行動もおこさなかったジスレクトは私に食べられたし、リーリアちゃんに斬られもした。でも手応えが全くない。
「──貴様達もまた、この神の話を聞くつもりがないと言うのか」
今度は空中に浮かんでいる人が現れた。目つきが鋭く、白髪と白いちょび髭をたずさえた長身のおじさんだ。
落ち着いた声色の彼の名は、シフス。神の1人である。
「我等は神と交渉するつもりはない。話をきくつもりもない。貴様が神の本体の居場所を教えてくれるのなら別じゃがな」
「では、教えてやると言ったらどうする」
「それは願ってもない申し出じゃが、この近くにいる事はもう分かっている。わざわざ知る必要もない。じゃから、失せよ」
レヴは苛立ちを隠さない。その様子はどこか興奮していて、冷静さを欠いているように見える。
先ほど、ルッフマリンにレヴの探し物がどうのこうの言われた時からだ。あれから苛立ち始め、放つ殺気も強くなっている。
レヴの探し物とは、一体なんだろう。レヴはこの地で、ずっと神様を探していたんだよね。そういえば、この地で何かする事があると、出会って間もない頃に言っていたっけ。それはもしかしたら、神様を探すと言う意味ではなかったのかもしれない。
「クエレヴレの望む物を、我らは持っている。貴様が望むのなら、この地でそれと一緒に暮らす権利をやろう」
「……」
シフスの言葉が、レヴの感情に油を注いだ。レヴが恐ろしい程の殺気がこもった目で、シフスを見返す。すると、空気がはりつめ、気温が氷点下にまで下がった気がした。地面や、空気が軋み、音をたてているようにすら感じる。そのあまりの迫力に、私は唾をのんだ。リーリアちゃんも、私の後ろに隠れてレヴを怖がっている。
今のレヴは、危険だ。動いたら仲間であるはずの私達ですら殺されてしまうような気がする。勿論それは殺気にあてられたせいで、レヴはそんな事絶対にしないだろう。
でも怖いから、動かないで黙っておこう。触らぬ神になんとやらだ。
「もう一度言う。失せよ」
「良いのか?これを逃せば貴様は──」
「メテオフレア」
レヴの警告を聞かなかったシフスに向かい、魔法が発動させられた。
宙に浮かぶシフスの更に上空に、巨大な紋章が浮かび上がる。その紋章の向こうには宇宙のような空間が広がっており、その中に真っ赤に燃え上がる星があって、その星から紋章を通して炎が注がれた。
私は咄嗟に、レデンウォールで壁を作った上でその場からリーリアちゃんと共に離れた。
その直後に注がれた炎がシフスと町を飲み込むと、全てを超高温の業火が包み込み、全てを焼き尽くしていく。
「あ、あっつ……」
目の前に出来た巨大な焚火は、離れた私達にも熱をくれる。その熱は、ちょっと強すぎるかな。肌が乾燥するどころの騒ぎじゃないね。
この魔法、壁の外でも使ってたよね。あの時は大体が壁によって遮られていたから問題なかったけど、こんな規模の超魔法だったんだ。さすがレヴ。レヴが味方でよかったよ。
「──ぷっ。くくく、ぷすす」
気づけば、私たちの隣で同じ焚火に当たる人物がいた。
それは白髪の青年で、若いのに猫背である。あと、何が面白いのか笑っている。
「ヴァレオリラ……」
「うん、そうだよ。ボク、ヴァレオリラ。ぷっ」
名乗って笑った彼もまた、神である。
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