表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/164

闇の中へ


 私達の目の前には、荒野が広がっている。ここは、荒野のど真ん中。草木一本も生えていない、水もないこの地に私達は突如として出現した。

 そんな荒野の向こうに、異様な物がある。それは真っ黒な闇で、それが荒野の向こう側を包んでどこまでも続いている。とても不気味で、周囲の光を奪っているかのように周りは暗い。空を見上げれば晴れているのに、だ。


「ここが、アリスエデン?」

「そうじゃ。千年前、神々を倒した後で突如我らの前に姿を現わした邪神と戦う事となり、邪神を倒した所でアリスエデンは闇に呑みこまれた。この闇は、何かの魔法の類だと思われる。しかしどのような魔法なのか我には全く見当がつかん。アリスはどうじゃ?」

「……私も、知らない。そもそも私は、アリスエデンが闇に包まれたという事を知らなかった」


 ゲームではゲームらしく、神様を倒した後は世界中を旅して遊ぶ時間があった。私はその時間で膨大な時間をレベル上げに費やし、それから邪神という強大な敵に挑みにいった。それで倒した訳だけど、ご存じの通り真のエンディングを視る前にナマコだった訳で。何も知らない。


「何にせよ、世界中をこの闇で覆わせる訳にはいかん。理由は、中に入ればわかる。リーリアとバニシュは既に知っているが、中は地獄じゃ。覚悟せよ」

「……」


 ミズリちゃんにキスされてテンション爆上がりだったバニシュさんが、緊張している。ゴクリと唾を飲み込み、冷や汗も出ているね。本当はあんな所に行きたくないと、その表情が物語っている。

 リーリアちゃんも、私の腕にしがみついたまま緊張している様子だ。


 レヴはそんな闇の方──アリスエデンへと向かって歩き出す。

 そのレヴについて行く前に、私は亜空間操作で水晶を取り出した。そしてここにあるはずの物を探して周囲を見渡す。しかし地上にそれは見当たらない。となると土の中か。

 私は触手で水晶を持つと、スキルの土内移動を発動させて土の中へと水晶を埋め込む。そして穴を塞いで設置した。これでレヴと同じ場所へ転移魔法でやってくる事が出来るようになった。


「しかし驚いたのう。我とリーリアがアリスエデンに籠もっている間に、まさかリザレクトワープを覚えているとは思わなんだ」


 進み出したレヴだったけど、私の行動に気づいてそう言って来た。

 水晶を設置し終わって私がレヴに追いつくと、レヴも歩き出す。そして闇へとゆっくり向かいながら、話が続いた。


「転移魔法など、扱える者は魔王様だけだと思っていた。まったく、驚くべき魔物だよ」

「アリスは普通の魔物ではない。人であり、魔物であり、邪神でもある。古代魔法を扱える生物には、扱えるだけの理由があるのじゃ」

「古代魔法?」

「そうじゃ。現代の魔法は、我が神々と戦った時の魔法とは根本的に違い、弱い。争いの中で古代魔法を扱える者は失われて行き、やがて古代魔法よりも質の悪い魔法だけが残って行ったのじゃ。過ぎたる力は、文明を滅ぼす。我はそれを目の当たりにして生きて来た」


 つまり、ゲームの中で見た魔法を、この時代の人は使えないんだ。魔法が強力すぎて、使える人同士で殺し合って殲滅し合った結果だとレヴは言う。実際目で見たという彼女の言葉には、重みがあるな。


「私も色々と、頑張っていた。その結果が、転移魔法に繋がった」

「カラカス王国の件も聞いているぞ。なんでも、国王が神の息がかかった配下の者に脅されていたとか。そして山を崩され町を滅茶苦茶にされそうになったところを、土砂からアリスが身を挺して守ったと。大活躍だったようじゃな」

「山が崩れて、それから町を守ったの?さすが、アリス!もうなんでもありね」

「いや、本当に信じられない化け物になりつつあるね。オレが化け物だと感じるのは魔王様だけだと思っていたが……恐ろしい」


 褒められると、照れる。


「──お喋りはお終いじゃ。ついたぞ、アリスエデンへの入り口に」


 レヴが、闇の前に立つ。そして手をその闇の中へと入れて見せた。

 闇は、ただの闇だ。そこに何か壁がある訳ではなく、普通にすり抜ける事が出来るみたい。


「せっかく修行から解放されたと思ったのに、本当に行くの?」

「当然じゃ。神が何か悪さをせんように、我はこの千年の時の半分近くをアリスエデンで過ごして来たのじゃからな」

「しかしすり抜けられ、神に操られし神仰国が作られてしまいましたね」


 珍しく、バニシュさんがレヴに対して嫌味を言った。

 なんか、その理由がアリスエデンに入りたくないからのように見えるのは私だけだろうか。時間を伸ばそうとしているような、そんな気がする。


「お主は我を買いかぶり過ぎじゃ。我一人で出来る事など限られる。その限界を察したからこそ、神に対抗するための戦力として力ある部下を育てて来たのではないか」

「それはそうかもしれませんが──」

「つべこべ言わず、行くぞ」

「くっ……!」


 レヴが話を強制的に打ち切ると、闇の中へと入って行ってしまった。すると、その姿が見えなくなってしまう。

 闇の中へと入るレヴを見て、覚悟を決めたバニシュさんもそれに続く。

 私も続いて中に入るため踏み出した。リーリアちゃんを、しっかりと腕に抱いたままね。リーリアちゃんも中に入るのが嫌そうだから、それを少しでも慰められればと思ったのだ。


 そして闇の中へ踏み入れると、そこはやはり闇だった。真夜中のように暗い世界がその中には広がっており、でも時々周囲を通り過ぎる光がたまに周囲を明るく照らしている。

 まぁでも、暗いのはまだいい。火の玉みたいなやつもまだいい。

 問題は、所々にある黒いスライムのような物体だ。まるでその場所に寄生しているかのようなそれは、脈動していて気持ちが悪い。見た事のない物体は、不気味そのものである。更にそれだけではなく、たまに人の声のような物が聞こえてくる。


『助けて──』

『痛い、苦しい──』

『解放して──』


 理解できる言語の物もあれば、出来ない言語の物もある。勿論声の主を探して周囲を見渡すけどどこにもいない。それはまるで心霊現象のように耳元で囁かれ、しかも頭に直接入って来るかのような声で頭がどうにかなりそうだ。

 けどまぁ、私は自分の内に潜む邪神の声を聞きなれているので、そこまで違和感はない。不気味ではあるけどね。


「ああ、もう……鬱陶しいっ……!」


 リーリアちゃんが片耳を塞いでイライラしだしている。ちなみにもう片方の手は私の腕に抱き着いたままである。


「ここが、今のアリスエデン……」

「そうじゃ。外と比べ、意外と自然が豊富じゃろう?」


 言われて気づいたけど、外は荒野だったのに闇の中は自然で溢れている。地面には草が生えているし、木々もあって風がないのに揺れている。道もあるんだけど、その道は偶然にも、私達が踏み入れた場所から続いていた。


「……でも、不気味。それに酷い臭い。こんな臭いは、嗅いだ事がない」


 闇へと踏み入れた瞬間、私の鼻は麻痺した。その臭いは今までにない悪臭だ。死体とか、腐敗臭ではない。とにかく嗅いだことのない臭いで、とにかく臭い。


「声よりも、そこか?お前聞こえてるんだよな?この不気味な声が」

「聞こえてる。この声は、何?」

「……闇に囚われた者達の怨嗟の声だよ。苦しみ、嘆き、泣き、発狂しているのか笑う者もいる。しかもこの声は生者にまとわりつき、入り込んで来た声に感情を持っていかれる。まるで地獄のようだとは思わないかね?」

「……そう」

「そう……?」


 私にとっては、あまり関係のない話だ。だって私の顔には表情が出ないし、声も邪神でなれているから。

 でも地獄のようだと表現するバニシュさんは、正しいと思う。


「大した精神力の持ち主じゃな、アリスは。バニシュは五日で発狂し、リーリアは一日持たずに泣き出したと言うのに」

「リーリアが?」

「……だって、怖いのよ。四六時中変な声が聞こえて来るし、変な化け物が襲ってくるし、それに時間の感覚が全くなくなって、ここにいるだけでどんどん深い闇に堕ちていくような恐怖感があって……」


 リーリアちゃんは、泣いた事を素直に認めた。

 意外と泣き虫な所があるリーリアちゃんだけど、でもこれくらいで泣くとは思わなかったな。


「さぁ、進むぞ。知っての通りこの中では転移魔法は使えん。我等のこの足で進む必要がある。ここから長い道のりになる事を覚悟せよ。……それと、絶対にはぐれるでないぞ。下手にはぐれれば、我と同じように五十年ほど彷徨う事にもなりかねんからな」


 なにそれ超怖いんだけど。ていうかそんな危険な場所に、うちのリーリアちゃんを連れ込まないでくれないかな。

 再び怒りたい気分になったけど、歩き出したレヴについて行かなければいけない。ここではぐれて50年の時が流れ、外に出たら皆が年寄りだったとか、そんなどこかの本当は怖い童話みたいな話にはなりたくないからね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ