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託された役目


 ネルルちゃんとテレスヤレスがお茶を淹れてくれて、そこからようやく話が始まる。

 バニシュさんは相変わらず偉そうにふんぞり返りながらイスに座り、私たちはそれぞれの位置で彼の話を聞く態勢をとった。私とカトレアはソファで隣同士、その正面にはミズリちゃん。フェイちゃんとネルルちゃんにテレスヤレスは、立ったままだ。

 ソファ組は前に置かれた机の上にお茶の入ったコップが置かれていて、バニシュさんはイスに座りながら手に持って飲んでいる。


「神の動きとは、どのような?」

「残りの神仰国の存在は知っているな」

「はい。二つの国……ジスレクト神仰国と、ルッフマリン神仰国ですね」

「その二つの国に、戦力と物資が集まりつつある。かなりの大軍勢で、連携して周辺の国々へと攻め込む準備を進めているようだ」


 その2つの国とは、デサリットとも、ギギルスとも距離があるはず。攻められるとしたら、私達に関係のある国ではなく、知らない国だ。

 じゃあ関係ないねといくかというと、そういう訳ではない。


「神仰国周辺の国々の様子は?」

「静観だ。無論、神に関しての情報は既に流してある。しかし我々魔族の情報を人間共は素直に受け取らない。むしろ、我等魔族が駐留するギギルスを警戒しているようにすら見える。真の敵を見誤った者に待つのは、服従と破滅。奴らはそれを理解せず、我々が魔族だと言うだけで視野を広げようとせずに己の価値観に固執する。理解しがたいね」

「それについては魔族の方々も同じでしょう。素直に何の偏見もなく視野を広げられているのは、魔族の中でも今の所魔王様くらいだと私は認識しております」

「……」


 カトレアがニコニコ笑顔で、バニシュさんに嫌味を言い放った。

 それに対してバニシュさんが鋭い眼光を送る。けど、その眼光に負けないくらいの勢いで、ミズリちゃんの視線がバニシュさんに送られている。

 可愛そうに。これじゃあ何も言えない。


「まぁそれはいい」


 バニシュさんが折れて、話を変えた。

 本当にミズリちゃんの事が好きなんだね。好きな人に嫌われないように行動を選ぶバニシュさんは、偉いと思うよ。世の中には我慢できない男もいるからね。それと比べればバニシュさんは良い方だ。応援したくなる。

 私を細切れにした事はいつまでも恨むけど。あとテレスヤレスにした事も。


「今回貴様達に来てもらったのには、理由がある」

「行動を開始した神への対応を協議……というには、面子が少ないですね。そうであるなら、魔王様も同席するはずです」

「ああ。まず、数日以内にこの国に、神側からの使者がやってくる」

「使者、ですか?」

「信じがたいが、神が我々と話し合いをし、出来る事なら停戦を前向きに考えたいと申し出ている」

「魔王様は、この事を?」

「勿論知っている。貴様達に伝えるよりも前に命懸けで連絡し、伝えた」


 バニシュさんが物凄く嫌そうな表情で、そう言った。

 命懸けの連絡とはなんだろう。レヴって今、どこにいるの?そしてそんな場所にリーリアちゃんも一緒にいるんだよね。何か心配になってきちゃうんですけども。


「連絡をした上で、魔王様は姿を現わさないのですか?」

「……魔王様からの伝言だ。神との交渉は全て、デサリットの姫カトレアとアリスに任せる、と」

「私は別に良いのですが、魔王様以外の魔族の方々はそれで納得できるのですか?」

「魔王様の判断は絶対だ……と言いたい所だが、正直に言えば不満はある。何故魔王様は人間と魔物などに、神との交渉を任せるのかね。我々魔族や、その他の生物にも影響をもたらす重要な交渉となるのだぞ。それを魔王様以外の、しかも人間と魔物に託すとは……」


 バニシュさんはイスにふんぞり返って座りつつ、天を仰いだ。そして頭を抱える仕草を見せる。

 私も、レヴの真意が分からない。どうしてそんな事を私とカトレアに託すのだろうか。


「私は適任だと思いますよ。魔族の方々が納得しているなら、ですが」

「……オレは従うつもりだ。しかしお前は魔王様の思考を理解できたと見受けられる。魔王様が貴様らに交渉を任せた理由を、是非とも教えてもらいたい」

「簡単な事です。まず、アリス様はかつてこの世界を支配していた神という存在を知っている。千年前この世界で──アリスエデンで何がおきたのかを、魔王様と同じく見て知っている方。そのような人物だからこそ、間違った判断はしないと、魔王様はそう判断してアリス様を指名したのです」

「では貴様はどうなのだ、人間」

「私はアリス様の意思を言葉にし、補佐する役目と言った所でしょうか。冷静に、感情的にならず、アリス様の意思を曲げずに表に出すには、私以外に適任はいませんので」

「……」


 バニシュさんは黙り込んで少し経つと、突然立ち上がった。

 それからコップに残っていたお茶を一気に飲み干し、空になったコップをネルルちゃんに手渡す。


「中々いい味だった」

「あ、ありがとうございます」


 お茶を褒められて、ネルルちゃんが嬉しそう。偉い人皆にお茶を褒められるネルルちゃんは、凄いなと思ったよ。

 最初、初めて会った時はドジっ娘メイドだと思ったんだけどね。でも違ったようだ。彼女は若いながらも、そのお茶の味を皆に認めさせるような存在。甘えたら甘えただけ甘やかしてくれるし、可愛いし、まさに私の理想のメイドさんである。

 褒められる彼女を見ると、私も嬉しくなってしまう。それ、私のメイドさんなんだぜ。


「行くぞ、ミズリ。彼女達は、長旅で疲れているのだ。休息を邪魔をしたら悪い」


 その時私たちは、全員でこう思った。どの口が言っているのか、と。


「話はもういいの?ていうか邪魔をしたのはバニシュ君だよ。私じゃないよ」


 そしてその事をしっかりと指摘したミズリちゃんは偉い。


「ああ、もういい。何にしろ、オレは魔王様の意思に従うだけだからな。しかしもし魔王様の期待を裏切るような事をするようなら、その時は殺す。そのつもりでいろ」

「もう、バニシュ君はまた物騒な事を言って!ごめんなさい、皆さん。私も、行きますね。今日はどうぞごゆっくり休んでください。何か必要な物があれば、遠慮なく言ってくださいね」


 部屋を出て行ったバニシュさんに続き、ミズリちゃんも慌てて立ち上がって去って行った。部屋の外ではちゃんとバニシュさんがミズリちゃんを持っており、2人は並んで廊下を歩いて去って行く。

 やっぱり、なんやかんやでミズリちゃんも満更ではないようだ。そりゃそうか。あれだけスキスキ言われたら、嬉しいもんね。私もカトレアにそう言われてアピールし続けられ、惹かれていったので気持ちはよく分かる。

 でもやっぱり、いくらなんでも年の差がなぁ……。まぁバニシュさんは魔族だ。きっと人間より長生きであり、ミズリちゃんが大人になるまで待つと言っている。それでいいじゃない。

 私は自分にそう言い聞かせ、2人を見送るのであった。


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