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白いモンスター


 でもまぁ、生きてるんだけどね。

 目を潰されて視界は塞がれたけど、感覚強化やら聴覚強化やら嗅覚強化のスキルがあるので、肉片になっても周囲の状況は理解できてしまう。

 どうやら私は、偉そうなおじさんによって100個ほどの肉片にされてしまったようだ。普通なら生きている訳がない状況。でも私は生きている。ちなみに残りのHPは15。瀕死である。

 かつておじさんに踏みつぶされた時よりは、元気。でも肉片となった今、かつてよりも何もできない。


「ゴミめ……」

「ば、バニシュ様。お疲れ様です。すみません、オレ達が苦戦したばかりにお手を煩わせて……」

「まったくだ。あの程度の醜悪な生物くらい、お前たちに倒してもらいたいものだね。こんな時くらいしか役にたたないのに、これではなんのために付いて来ているのか分からないじゃないか。オレはお前らの護衛じゃないんだよ。分かるかね?」

「す、すみません……!」


 偉そうなおじさんは、相変わらず偉そうだ。

 肉片と化した私の肉片を踏みつぶしながら駆けつけて労いの言葉をかける骸骨に対し、酷いいいようである。

 でも実際骸骨はおじさんのおかげで命拾いした訳で、そこは感謝しといたほうがいいと思うよ。でも態度が悪いから殴ってもいいと思うよ。


「ん?」


 ヤバ。


 おじさんが何かを感じ取ったのか、肉片となった私を見て来た。溢れる汗なんてないけど、汗が出て来る。今この状況で実は私が生きている事がバレ、核となる肉片が潰されたりしたら私は一撃で死亡確定だ。


「どうかいたしましたか?」

「今倒した魔物──」


 骸骨の質問におじさんが答えようとした時だった。

 何かが洞窟の暗闇の奥から飛んできて、おじさんは首を後ろに反らす事でそれを回避。代わりに、その先にいた骸骨に命中して骸骨の大きな身体が吹き飛んだ。

 一撃で木っ端みじんになった骸骨。飛んできたのは、先の尖った白い塊だった。たぶん、岩?

 それをしたのは、洞窟の奥からこちらに向かって歩いて来るモンスターだ。


「何者だ!?」


 おじさんを庇うようにして、残った骸骨が陣形を組む。でもおじさんは彼らの厚意を無駄にするかのように、骸骨の間を縫って前に出た。


「おお……。これはイイな。アレはなんだ?」


 洞窟の奥からゆっくりと歩いてやってきたのは、人のような何かだった。白い身体に腕が左右に3本の6本はえ、指が3本しかない足がしなやかに動いている。顔には口だけあって、鼻も目もない。のっぺらぼうのようだ。大きさは普通の人とあまり変わらないかな。おじさんや骸骨の方がデカイ。


「アレは……お気を付けください。恐らくこの洞窟の覇者である、テレスヤレスです」

「テレスヤレス。覇者と言う事は、この洞窟で一番強いのかね?」

「はい。恐らくは」

「なるほど、確かに強そうだ。うん。良い感じだ。合格だよ、テレスヤレス。君はオレのペットにしてやろう」


 嬉しそうにそう言うおじさんに対し、テレスヤレスと呼ばれたモンスターは6本ある内の1本の手を広げると、掌からボコボコと白い物が溢れ出て来て、先ほど飛んできた先の尖った白い塊が出現した。それを振りかぶり、投げる。と、先ほどのように凄まじい威力の弾丸がおじさんに襲い掛かる事になる。

 でもおじさんに辿り着く前に、その弾丸は吹き飛ぶことになる。速すぎて何も見えなかったけど、おじさんが剣で斬って砕いたのだ。


「落ち着きたまえ。オレはお前を殺しはしない」

「……魔族の方。先日から洞窟内が騒がしかったですが、貴方が騒がしくした犯人ですね?」


 喋ったのは、白いモンスターだ。

 彼の声は思ったよりも高く、キレイな声だった。声変わりをする前の男の子の声って感じ。


「やはり君も喋れるのか。だったら攻撃する前に、自己紹介くらいしてほしいものだね」

「洞窟の最底辺に住まうジ・ゴの気配がない。ジェリアントクイーンの気配も消えた。やったのは貴方ですね?」

「無視、か。まぁいいよ。ジェリアントクイーンというのは分からないけど、ジ・ゴというのは、あのぶよぶよに太った気持ちの悪い肌をした大きな化け物の事だね。確かに、やったよ。醜悪な上に、弱かった」

「彼はこの洞窟内の意思ある者にとって、父のような存在。威厳があり、優しく強い心の持ち主だった。皆のまとめ役でもあり、そんな彼を貴方が殺したと言うなら、赦せない」

「赦せない?ならどうする」

「決まっている。──殺す」


 すさまじい殺気が、白いモンスターから放たれた。

 と同時にモンスターが掲げた2本の手から白い塊が溢れ出し、それが剣の形になる。別の2本の手には、長い槍。残った2本の手には、弾丸が形成される。


 そんな白いモンスターのステータスを覗こうとしたけど、偉そうなおじさんと同様に文字化けしていて見る事ができない。それはたぶん、彼もかなり強いという事だと思う。


「やる気満々じゃないか。こんな殺気を向けられると、思わず殺してしまいそうになる。だがお前はペットにする予定だからね。我慢、我慢、と」


 余裕を見せるおじさんに向かい、白いモンスターから弾丸が発射された。先ほどよりも更に速く、凄まじい威力だ。

 でもおじさんは私を細切れにした剣でそれを難なく斬りつけて破壊すると、おじさんの方から白いモンスターに向かって駆けだした。


「良い度胸ですね」


 そんなおじさんに向かい、白いモンスターも駆けだす。そしておじさんが槍の間合いに入ると、それを突き出しておじさんを串刺しにしようとした。

 その突きがまた凄い威力で、空気をも切り裂くようなその突きはくらったらたぶん跡形もなく吹き飛んでしまうんじゃないかと思わせる、とんでもない威力だった。


「時にお前は、再生能力を持っているか?」


 おじさんはその突きをいつの間にか回避し、白いモンスターの背後に回り込んでいた。そしてそんな事をモンスターに尋ねている。


「っ!」


 モンスターも、おじさんの動きが見えなかったようだ。驚いて振り返りながら、声のした方に剣を振りぬいて攻撃。でもおじさんはその攻撃をもいつのまにか回避し、再び白いモンスターの背後に回り込んでいた。


「答えてくれないから、試してみたよ」

「なにを──」


 再びおじさんに斬りかかろうとした白いモンスターの腕が、突然落ちた。

 モンスターの腕は、おじさんによっていつの間にか切断されていたのだ。かろうじてくっついて見えていた物が動こうとした事で離れてしまい、白いモンスターは落ちていく腕の行方を呆然と見守った。


「で、どうなんだ?再生、できるのかね?再生できないなら、傷物になってしまった訳だし正直君の価値は落ちる。やはり殺そうか」


 おじさんの問いに、白いモンスターは答えなかった。ただ、変化はおきた。

 白いモンスターの口が裂けてその口を大きく開いた。口の中は無数の牙が覆いつくしており、あんな口で噛まれたら一回噛まれるだけでミンチになってしまいそう。そしておじさんに切られた腕に白い塊がボコボコと出て来て、元の腕の形になった。それだけでは終わらない。背中に新たな腕がはえ、剣を構える。その腕と剣の大きさは自身の身体程大きく、アンバランスに見えてしまう。だけど試し切りのようにその腕を振るうと、大地が揺れた。地面に触れてもいないのにだ。


「──素晴らしい!」


 怒り、本気になった白いモンスターを前に、おじさん興奮気味である。

 私にはそんなおじさんが、とてもじゃないけどまともには見えない。私は身体が震え、あまりの恐怖に気を失ってしまいそう。それくらいに白いモンスターが怖く感じる。

 私だけではない。おじさんの部下の骸骨も、そんな白いモンスターの姿を前にして腰を抜かして地面に座り込んでしまっている。

 あの白いモンスターは、間違いなく怒らせたらいけない者だ。残念だけどおじさん。あんた死んだよ。私はおじさんに復讐する機会がなくなってしまった事をこの瞬間に悟り、おじさんの冥福を祈る準備に入った。


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