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ギギルスのお姫様


 私たちはとりあえず、休憩を貰う事にした。例によってカトレアやネルルちゃん達と同じ部屋を貰い、そこで私はベッドに横たわって天井を見る。


 部屋は、カラカスであてがわれた部屋ほど豪勢ではない。シンプルなダブルベッドに、シンプルで無機質な、お城と同じ白を基調とした石の床と天井。広さもそれほどなくて、家具と4つもベッドが置かれていると余ったスペースは10畳くらい。……いや、充分広いか。感覚がちょっと麻痺している。

 この部屋で皆で寝る訳だけど、テレスヤレスは普段から立ったままマネキンのように眠る事が出来るので、ベッドは必要ない。なのでベッドは4つだ。


「ウルス王様は、立派に王様を務めているようですね」

「……うん」


 カトレアが私が寝そべっているベッドに座り込んで、感慨深そうにそう言った。

 勝手に王様にしたてあげておいてなんだけど、最初は本当に不安だった。彼に王様なんかが務まるのかなってね。でもカトレアの言う通り、本当に立派に王様をやっていて凄いと思うよ。

 オマケに、あのバニシュさんとも色んな意味で仲良くなってしまうなんて……本当に凄い。いや、本当に凄い。


「リーリアさんの匂いは、どうですか?」

「しない。リーリアは、この町に来ていないみたい」

「それは残念でしたね」


 カトレアはそう言うと、寝そべる私の頭を撫でてくれた。


 私はただ、ウルスさんとバニシュさんの関係について考えにふけっていただけだ。

 リーリアちゃんの事に関しては、この国、この町、このお城にきた段階で匂いを確認し、ここにいない事は分かっている。残念だったけど、その残念はもう乗り越えた。


「私も久しぶりにリーリア様と会えるかもと楽しみにしていたのですが、残念です」


 剣士のリーリアちゃんに密かに憧れを抱いているフェイちゃんも、そう言って残念がってくれている。私にだけではなく、フェイちゃんにまでその尻を追いかけさせるとは、罪な女だ。

 というのは冗談で、本当に皆会いたがっているのにあの子は一体どこにいるんだろう。手紙くらいよせって感じじゃない?というかレヴと一緒にいるなら転移魔法でちょちょいっと会いに来てよ。


 ウルスさんとバニシュさんの関係について考えて誤魔化していたのに、完全にぶり返してしまった。リーリアちゃんに会いたい。この町にいないなら、もうさっさと帰りたい。


「……」


 でも、カトレアが頭を撫でてくれて少しは慰められているので、行動には移さないよ。




 しばらくその部屋で皆でのんびりとしていたら、ノックもなしに扉が開かれた。

 真っ先に動いたのは、私の触手だ。触手たちが扉に群がり、部屋に侵入しようとした者に襲い掛かろうとする。でも開いた扉の向こうには、誰も立っていなかった。

 遅れてテレスヤスレが手に剣を作り出し、ネルルちゃんとフェイちゃんを背に庇って立ってくれている。なので私は自然とカトレアを背に庇い、警戒中。

 でも誰もいなかったので、何かの間違いだったのかなと思いかけたけど、そうではない。その人物は、確かにいる。匂いもするから分かっている。

 その人物は、扉の横の壁に背中を預けて立っている。


「危ないじゃないか、アリス。オレを殺すつもりか?」


 それはバニシュさんだった。

 殺すつもりというか、ノックもなしに乙女の部屋の扉を開ける方が悪いでしょ。


「ノックもなしに扉を開く方が悪い。着替え中だったら、反射的に本当に食べていたかもしれない」

「恐ろしい事を言うが、オレだって黙って食われるつもりはない。その時は反撃して細切れにしてやるからな」


 悪いのはどう考えてもバニシュさんなのに、反論までしてこちらを脅してくる。

 ウルスさんと仲の良さげな姿を見て少しは変わったのかと思ったけど、そうでもないっぽい。やっぱりこの人はむかつく。

 テレスヤレスも、遺恨に今の発言が加わって、今にも構えた剣で襲い掛かりそうだよ。


「ちょ、ちょっとバニシュ君何してるの!?」


 何故か一色触発のピリピリとした空気になっていた所に、私たちの部屋の前を偶然通りかかった女の子が慌てて声をかけてきて、少し空気が変わった。


「む……いや、コレは……なんでもない」

「なんでもない訳ないでしょ!?どうしてこうなってるのか説明してよ!」


 訪れた女の子は、長い黒髪をリボンで結んだ女の子だ。フェイちゃんと同じか、ちょっと年上くらいの女の子である。地味系の女の子ではあるんだけど、ちゃんとドレスを着ていて可愛い。髪飾りのリボンもアクセントになっていてよく似合っている。

 そんな彼女が凄い剣幕で、あのバニシュさんに怒鳴って問いただしているではないか。そんな事して女の子大丈夫?殺されたりしないよね。


「……扉を開いただけだ」

「……」


 女の子はバニシュさんを睨んでからバニシュさんを退かすと、私たちの部屋に入って来た。そしてスカートを摘まんで軽くお辞儀をしてくる。


「失礼します。私、ウルス・ヘッグヴェルの娘で、ミズリと申します。単刀直入に聞きますが、このバニシュ君が皆さんに何か失礼な事をしませんでしたか?」


 ウルスさんの、娘……。

 ああ。あの、おさげの女の子か。私が排除しようとした殉教者のおじいさんを庇い、私に攻撃してきた蛮勇はよく覚えている。

 今はおさげじゃないし、ドレス姿なので全く分からなかった。


「ノックもなしに扉を開いて来たので、反撃しようとしたところ。それを伝えたら、本当にやったら細切れにすると脅された」

「なんってバカな事をするの、バニシュ君は!」


 私の返答を聞いた女の子──ミズリちゃんが、バニシュさんのお尻に蹴りをいれた。その行動を見て、私はこの子の命を心配したね。でもバニシュさんは何もしなかった。

 勿論バニシュさんにそれでダメージが入る訳ではない。それなのに、バニシュさんは何も言わない。むしろ怒られて顔から元気がなくなっている。


「ごめんなさい、皆さん!バニシュ君がバカな事をして、本当に……!私がよく言い聞かせておくので、どうかお怒りを沈めてください!この通りです、お願いします!」

「……」


 そしてミズリちゃんが、凄い勢いで私達に向かって頭を下げて許しを請うてきた。

 しかしその隣ではバニシュさんが眼鏡を直しながら黙り込んで立っている。

 なんか、バカ息子がバカな事をやって、謝りに来たお母さんみたいだよ。


「そんなに頭を下げなくても大丈夫ですよ、ミズリ様。私たちはさほど怒っている訳でもありませんし、ちょっと驚いただけですから。ね、皆さん」


 頭を勢いよく下げるミズリちゃんを見かねて、カトレアが助け舟を出した。カトレアがそういうなら、私達も同調するしかない。

 本当は、凄く嫌だけどね。ノックなしで女の子の部屋に男の人が入ってくるとか、本当に嫌。嫌悪感しか抱かない。


「……カトレアがそういうなら、そういう事にしてあげる」

「仕方がないですね。私も、そういう事にしておきます。本当は嫌ですが」


 テレスヤレスも私と同じように、カトレアがそう言うならと矛を納めてくれた。我慢出来て偉い魔物だ。私もか。


「……」


 突然ミズリちゃんが、ボーっとした顔でカトレアを見出した。


「私の顔に何かついていますか?」

「はっ。い、いえ、すみません!カトレア様、やっぱりキレイだなって思って……。私とは全く違くて、本当にお姫様みたい」


 確かに、カトレアのキレイさは別格だ。お姫様としての全てがカトレアには詰まっていると言っても過言ではない。

 でもこのお姫様、私の物なんだぜっ。ドヤ顔でそう自慢したい。


「何を言っている。ミズリの方が魅力的で美しい。先に言っておくがこのミズリは、オレの物だ。手を出すのは許さんぞ」


 私が心の中で自慢したのと同じような事を、ミズリちゃんの頭に手を乗せながらバニシュさんが実際に言ってのけた。

 何だコレ。一体どういう状況だ。


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