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救われた者達


 久々に訪れたギギルスは、以前よりも盛り上がっていた。人々は前来た時のように神の支配に怯える事もなく、活き活きとしているように見えるね。

 その生活には、魔族達も溶け込んでいる。商売する魔族達や、道行く一般人な魔族の姿も見られる。もはやその光景は彼らにとっては普遍の物となっているようで、誰も気にする者はいない。

 なれればこんなもんか。まぁ魔族の方が戦力的には圧倒的に強いので、人間が逆らえないっていうのもあるかもしれないけどね。でも逆らう必要もないだろう。皆笑顔だし、差別もあるようにも見えないから。


「ぎ、ギギルス。魔族と人間が入り交じり、盛り上がっていますね。この国が、私のお父さんとお母さんを……」


 町につき、石の建物が立ち並ぶ街並みを、フェイちゃんが馬車の窓から覗いて呟いた。

 彼女にとっては、複雑な気持ちだろう。自分の両親の仇の国の人々が、魔族達と笑って暮らしているのだから。

 だから、カラカスを目の当たりにした時のような高いテンションを、彼女は見せなかった。ギギルスはギギルスで美しい街並みなので、好奇心旺盛なフェイちゃんなら本来テンション上がる場面のはずなんだけどね。


「聞けばフェイメラさんのご両親は、この国に攻められた際に亡くなられたのでしたね」


 そんな繊細な話題を、なんの躊躇もなく持ち出したのはテレスヤレスだ。


「……はい。私の両親が殺され、私とアルメラ自身にもひどい事をされそうになった所を、アリス様とリーリア様に助けてもらったんです」

「では、私と同じですね。私も親のような存在だったジ・ゴを殺され、その上ジ・ゴを殺した魔族の方に操り人形にされていた所を、アリスさんに解放していただき救われました。同じです」

「そうですね。テレスヤレスさんも、辛かったですよね」

「はい。とても」


 テレスヤレスは、私以上に声に抑揚がない。私よりは表情があるけど、その感情は読み取りにくい。

 テレスヤレスは、バニシュさんに操られて本当に辛かったのだ。それこそ、フェイちゃんやアルちゃんが負った心の傷と同じくらいの傷を負っている。

 でもこの世界において、弱肉強食は常だ。ジ・ゴが死んでしまったのは自然の摂理に準じており、フェイちゃんやアルちゃんの親が殺されたのも、またしかり。現実は認めて、受け入れるしかない。

 復讐するかどうかは、その後の状況や自分の気持ち次第といったところだ。

 この国には、神様と言う裏で人々を操る存在がいた。その存在によって操られ、ある意味この国も被害者だったと言える。でもそういった事情を受け入れられるかどうかは、人によって違う。

 フェイちゃんは……心の奥底は知らないけど、事情を受け入れてギギルス自体を恨んでいるようには見えない。複雑な心境は見せているけど、個人的にこの子には人を恨んで生きていくような事にはなってほしくはないかな。


「……強くなりたいと言う貴女の気持ち、今理解できた気がします。私はジ・ゴを殺した魔族の方よりも強くなり、彼が私にそうしたように、いつか逆に私が彼をこき使いたいと思います。抵抗もできないまま、従うしかない状況を強制して私の味わった屈辱を与えるのです」


 一方でテレスヤレスは、そんな事を考えていたんだね。まぁ殺すとかいうより、平和的な復讐だとは思うよ。バニシュさんの性格を考えると、それが実現できれば殺されるよりも屈辱的だろうしね。


「私は、前も言ったと思いますが、大切な人を守れる強さが欲しいです。もう二度と、目の前で大切な人を失ったりなんかしないように……今度は、私が自分の力で守れるようになりたいんです」

「貴女は、弱すぎる。貴女に守れる物はどこにもない。前はそう言いましたが、見違えましたね。人族は、強き者から教わるとこんなにも強くなる事が出来ると言う事を、貴女は私に教えてくれました。でもまだまだ弱すぎます。大切な物を守るには、まだまだ努力する必要があるのでしょう」

「……はい。テレスヤレスさんも、頑張ってください。私も頑張りますっ」

「ふふ。お互い、頑張りましょう」


 テレスヤレスは胸の前で両手の指先を合わせ、笑いながらフェイちゃんとそう約束をした。

 フェイちゃんの、この国に対する暗い気持ちは、テレスヤレスのおかげで少し解消できたようだ。最初は繊細な話題を振ってどうなる事かと思ったけど、やるねテレスヤレス。もしかしてデサリットで人々と触れる事で、成長しているのかもしれない。


「私も、アリス様に救われたんですよ。アリス様がいなけば私はきっと、立ち直れないほどの傷を負っていたと思います」

「私もアリス様には、虐められていた所を助けていただきました。今メイドとしてカトレア様やアリス様にご奉仕できるのは、アリス様のおかげです」


 唐突に、カトレアとネルルちゃんが私に救われたとか言い出した。そして皆の視線がこの狭い馬車の中で私へと注がれる。

 カトレアはさりげなく、手まで握って来た。


「……私は大したことをしていない」

「していますわ!」

「していますよ!」

「しています!」

「しています」


 カトレアと、フェイちゃんとネルルちゃんとテレスヤスレの声が重なった。皆のツッコミが、一斉に私にいれられた形だ。ちょっとビックリした。


「アリス様に救っていただいたから、私達はここにいるのです。その事を理解していただけてなかったなんて、私ちょっとショックですわ。これから毎晩一か月ほど、ベッドの上で耳元でお礼を囁けば分かってもらえるでしょうか。……というか、それいいですね」


 確かにカトレアと一緒のベッドで毎日耳元で囁かれるのは、夢のような時間だろう。というかぶっちゃけエロいイベントが始まりそう。そんなの囁かれるだけで済むはずがないでしょ。


「その際は私もお供します。アリス様にお礼を言い続けますからね」

「それでは私も。私はお礼と共にお茶を淹れ続けます。お腹がたぷたぷになっても飲んでいただきますから覚悟してください」

「では私は枕元に立ち、一晩中お礼を言い続けましょう。そういうの得意です」


 ぷっ。カオスな状況を想像して、私は心の中で笑ってしまった。

 本当に、この子たちは面白い。私にとってかけがいのない存在で、いつまでもこうして一緒にいたいと思わせる子たち。


 この世界に来て、よかった。この出会いをもたらしてくれた邪神に対し、私は感謝しなければいけないのかもしれない。


『──食せ。この世の全てを』


 そう思って油断したら、頭の中で邪神の物と思われる声が響き渡った。

 聖女の力で表面上に出て来た邪神は、消滅した。でも私の中で邪神は未だに存在し続けており、私に空腹感を与え続けている。


 感謝はしても、この身体の支配権を渡す訳にはいかない。もし渡したら、邪神は私の大切な物を奪ってしまうからね。そもそもレヴに殺されてしまう。リーリアちゃんとも会えなくなる。だからダメ。


「アリス様?どうかなさいましたか?」


 ふと気づくと、カトレアが心配そうに私の顔を覗いていた。

 私は思わずその顔に手を伸ばし、愛しい彼女の唇に自分の唇を重ねてしまった。無意識の行動である。


「ひゃあ……!」


 この馬車の中には他にも2人のうら若き少女と、魔物がいる。彼女達の視線を集めた私とカトレアのキスは、とても軽い物だ。でも彼女達の頬は真っ赤に染まっており、突然の目の前の出来事に戸惑っている。


「突然どうしたのですか?」


 唇を離すと、カトレアが満足げ気に笑いかけながらそう尋ねて来た。

 どうしたかと聞かれれば、したくなったからしただけだ。


「なんでもない。リーリア、この町にいるかな?」

「私とキスしておきながら、他の女の話を!?アリス様、鬼畜ですわ。でもそんな所も素敵です」


 私も一瞬、言ってから失言だったと思ったよ。でもカトレアは何故か喜んでいるし、別にいいか。


 そうして話していると、やがて馬車が止まった。どうやらお城についたようだ。さて、ウルスさんは元気にやってるかな。町の様子を見る限りは上手くやっているみたいだけど、功労者であるウルスさんの様子も気になる。

 早く会いたいと言う訳ではないけど、私は一番に馬車を降りてお城の前に立った。


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