上から目線
ミルネちゃんがお城で勉強するようになり、フェイちゃんがいつもよりイキイキとするようになった。修行も勿論頑張っているんだけど、勉強の方も楽しそうにするようになり、ミルネちゃんからいい刺激を貰う事ができたようだ。
一方でミルネちゃんの方は、最初はお城での勉強と言う事でかなり緊張していた。道行く偉い人にはペコペコと頭を下げ、メイドさんにまで頭を下げ、とても腰が低い様子。だけどなれてくればいつもの元気なミルネちゃんになってくれて、今では無駄にペコペコせず、普通に皆に元気に挨拶出来るようになっている。
ミルネちゃんは、アルちゃんとも仲良くしてくれているんだよ。アルちゃんもミルネちゃんの事が大好きになり、よく一緒に遊んでいる。フェイちゃんも混じってね。
でもこうなってくると、今度はアルちゃんに同世代の女の子を配置してあげたくなってしまう。本人は何も言わないし、いつもニコニコで楽しそうにしているけど、フェイちゃんにだけ友達を用意してあげるのははたから見れば不公平だ。
という相談をカトレアにしたら、お友達を用意してくれた。
別に攫って来たとかそういう意味じゃなくて、子供を持つメイドさんが、子連れでも働けるようにしてくれたのだ。連れて来ても良いのは、12歳までの子供。お城にいる間は無料で勉強を教えてもらえるし、安全に面倒を見てもらえる。親としても、子供と離れずに同じ場所にいられるという安心感もあるらしい。
それとは別に貴族の子供達もいるんだけど、彼らはさすがに住む環境が違すぎる。のだけど、平民の子供達が元気に遊んでいる声が聞こえてくると、誘われるように混じって遊ぶようになった。貴族の子供達からしても、同世代の子供の存在は珍しい。そしてそんな同世代の子供が楽しそうに遊んでいる姿を見れば、参加しない訳にはいかないだろう。
という訳で、皆混じって遊ぶようになって、お城の中はちょっとだけ賑やかになった。
貴族の子供達とはあまり会った事がなかったんだけど、家名とかに拘るような子はいなく、本当に皆仲良く遊んでいる。いい子ばかりで、この国の将来は安泰だと思わせてくれるよ。
今まで会った事なかったのは、活動している区画が違うからかな。こんないい子ばかりなら、もっと早く会っておきたかった。
貴族の子供たちは、皆育ちがよくてお行儀のいい子供たちだけど、皆で遊ぶ姿はやっぱり子供だ。とても美味しそうで、食欲をそそられる。
それはさておき、お城での勉強会はとても好評でその人数を増やし、アルちゃんと同世代の子も確保できた。
メイドさん達が子連れ労働が出来る環境を整えてくれたカトレアには、感謝だ。これってある意味、働き方改革ってやつだね。カトレアはこの世界、この時代でそんな事をやってのけてしまった。本当にすごいお姫様だと思うよ。
ただ、一つ問題がある。
「──アリスお姉ちゃん、こんにちは!」
「っ!」
お城の中庭を通りかかった時、アルちゃんが元気よく私に挨拶をしてきた。
今は昼休みだね。ご飯を食べ終わった子供たちが、有り余っている元気を庭で発散中である。
でも直前までは子供たちが元気よく走り回って遊んでいたんだけど、私の姿を見た子供たちが固まった。アルちゃん以外がね。アルちゃんは私に近寄って来て、私の手を握って笑顔を見せてくれている。
「遊んでたの?」
「うん!鬼ごっこしてた!私がおにー!」
「そう。頑張って、皆を捕まえて」
「うん!」
私への挨拶が終わると、アルちゃんは元気よく走ってまた皆を追いかけ始めた。けど他の子供たちの動きが鈍くなっている。おかげですぐにアルちゃんに捕まってしまい、今度はアルちゃんが逃げる番となった。
「……」
ご覧の通り、私子供達にめっちゃ怖がられてる。それが問題である。
皆ビクビクとしながらこちらを見て、触手をうねらそうものならその場で蹲り、歩み寄ろうものならこの世の終わりみたいな顔で膝をつく。
ちょっと面白い。
「アリス様。こんにちは」
「こんにちは!」
そこへ、フェイちゃんとミルネちゃんが私の下へとやってきた。
2人は私の事を怖がったりはしない。その事に感動した私は、2人を触手で巻き付けて引き寄せてから、ぎゅっと抱きしめて迎え入れた。
「ど、どうしたんですか、アリス様?」
「あはは。アリス様、あったかい」
私の腕の中で、フェイちゃんは戸惑いミルネちゃんは笑う。
「なんでもない。ミルネ、勉強はどう?」
「楽しいですっ!私の知らない事がたくさん学べて、しかもフェイメラも一緒だからもっと楽しいです!」
「私も、ミルネが一緒に勉強出来るようになって、勉強に身が入るようになりました。それもこれも、アリス様がミルネを勉強に誘ってくれたおかげです」
2人はいつの間にか、お互いを呼び捨てで呼ぶようになっている。その関係は前よりもさらに進んでおり、親友と呼べるような関係になっているんじゃないだろうか。
親友……親友、か。私は前の世界で、学校で親友と呼べるような存在はなかった。コミュ障だったからね。だから、2人が眩しく見えるよ。
これでひらひらのスカートの制服とか着せたら、もっと眩しく見えるだろう。……いいな、制服。2人に着せたい。きっとすごくよく似合うだろうし、すごく食べたくなる事間違いない。
「あ、アリス様?なんだか、目が怖いです……」
「もしかして食べるつもりですか!?」
冗談で言ったつもりだったんだけど、ミルネちゃんの言葉に周囲の子供達が反応してビクリとしている。私が更に怖がられる事になるので、やめてほしい。
「食べない。私は、良い魔物。だから、絶対に食べない」
あえて周囲にも聞こえるよう、大きな声で訂正しておいた。
すると、ミルネちゃんは笑ってごまかす。
まったく、この獣人族の女の子は本当に可愛い。
「……二人が喜んでくれて、嬉しい。これからも、頑張って勉学に励むように」
でも本当に、想像した制服姿の2人には凄まじいパンチ力があった。下手をしたら、その想像に飲み込まれる所だったよ。けど戻って来た私は、2人の頭を触手で撫でながらそう声をかける。
私は勉強とか嫌いで、したいとも思わないけど、私はもう大人なので。正確には分からないけど、前世と合算すれば20は超えているはず。だからこうして子供である2人に、上から目線で言う事が出来るのだ。
「アルメラの事も、ありがとうございます。私だけではなく、アルメラの事も気にかけてくださって嬉しいです」
「それも気にしなくていい」
私は当然のことをしたまでだ。というか私は特に何もしていない。
「フェイメラは、アリス様の事大好きだよねー」
「と、突然何を言い出すのミルネ」
「だって、そうじゃん。いつもアリス様は凄いんだよーとか、アリス様は優しいって話をしてるし、今だってアリス様に抱きしめられて嬉しそうだったもん」
「それはミルネだって同じでしょ!」
「あはは!そうだった!」
そっかー。2人とも、私の事大好きかー。
可愛い。食べたい。持ち帰りたい。
もう、元気めっちゃ出たわ。子供たちに避けられている事なんて、どうでもよくなった。アルちゃんと、この2人の女の子に好かれているならもうそれでいい。
昼休みが終わると、皆とは別れてまた1人になる。でも私は上機嫌になった。あんな事を言われたら、嫌でもなるよね。
「アリスさん」
1人になると、そこにテレスヤレスが歩いてやって来た。上機嫌な私は、彼女……いや、彼?を抱擁して出迎える。
「アリスさんの抱擁は心地いいですね。もっと抱きしめていただきたいですが、でも人間の姫の方が呼んでいます」
「カトレアが?」
前にも同じようなタイミングでカトレアに呼び出された事があった。あの時は、ギギルスからウルスさんがやって来たんだっけ。その後はギギルスに行く事になり、けっこう大変な目にあった。
ま、何の用か分からないけど行ってみようか。上機嫌な私は、丁度カトレアとも上機嫌にイチャイチャしたい気分なのだよ。