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友達のお店


 ミルネちゃんは、大通りのダリーシャ亭という宿で働いていると言っていたっけ。見ると、建物の入り口上に掲げられた看板に、ダリーシャ亭と書いてある。つまりここが、ミルネちゃんの職場という訳だ。

 見つけたのは偶然と言えば偶然だけど、必然と言えば必然だ。大通り沿いにあるお店なんて、限られている。しかも外に真っすぐ出て行くにはこの大通りの一本道なので嫌でも通るし、むしろいつも通っている。今まではただ気づかなかっただけ。


「やめてください!これ以上暴れるなら、憲兵隊を呼びますからね!」

「うるせぇ、獣人風情が!人間の、しかもこの町を魔物から守ってやってる冒険者様に、生意気な口を叩くんじゃねぇ!」

「そうだ、そうだ!」

「たく、獣くせぇったらありゃしねぇよ。こんな宿でよく銀貨三枚も取ろうと思ったな!」


 建物の中には武装した男の人が5人程いて、そんな男達とミルネちゃんが対峙している。

 聞こえてくる言葉から判断するに、どう考えても男達の方が悪い状況だ。


「わ、私は……!」


 獣人族を差別する言葉を投げかけられたミルネちゃんが、顔を伏せてその目の端に涙を浮かべている。

 その姿を見ていてもたってもいられなくなり、私は建物の中へと突撃しようとした。のだけど、先に突撃した子がいる。


「何をしているんですか、貴方たちは!」


 勢いよく扉を開き、建物に突撃したのはフェイちゃんだ。


「なんだぁ?クソガキ。オレ達は見ての通り、大切なお話をしてるんだよ。子供がしゃしゃり出て来るんじゃねぇ!」

「数人の男でよってたかって獣人族の女の子を罵って、それが大切なお話ですか!?」

「関係ねぇだろう。それとも何か?お前もオレ達と、大切なお話をしたいのかな?」

「……そんなくだらない事が大切なお話だなんて、普段はどんなお話をされているんですか?さぞかし無意味なお話なんでしょうね」

「黙れクソガキ!」

「……」


 男の一人が机に拳を打ち付けて、大きな音をたてて机を破壊した。でもフェイちゃんには意味がなく、情けのない威嚇行動である。


「どうしたクソガキ。怖くなっちゃったかな?そうだよねぇ、机を壊しちゃうこんなパンチを自分がくらうと考えると、怖くて震えちゃうよねぇ。分かったら、もう帰りな。お兄さんたちは、獣人族の女の子と大切なお話があるから」

「ははは!」


 フェイちゃんをバカにするように男が言い、男の仲間たちが笑う。

 確かに机を破壊する程の威力のパンチは、中々だった。冒険者がどうのと言っていたので、それなりに場数を凌いでいるのだろう。

 でも男達は威嚇する相手を間違っている。今のフェイちゃんにだって、それくらいの事は出来てしまう。しかも、男達よりも圧倒的に速くね。


「貴方達なんて、全く怖くありませんよ。私はもっと怖い人を知っています。かかってくるなら、かかってくればいいじゃないですか。貴方達みたいな低能な人に、私は負けません」

「ぎゃはは!そうかよ、嬢ちゃん!じゃあオレがお前にとって一番怖い人間になってやるよ!」

「や、やめてください!私の事はいいから、逃げて!」


 フェイちゃんに向かって男の一人が手を伸ばす。でもフェイちゃんはその手を掴み取ると、背後に回り込んで膝裏を蹴って膝をつかせた上で、低くなった男の顔面に膝蹴りを見舞おうとした。


「……へ?」


 膝は男の顔面寸前で止められて、遅れて気づいた男が呆然としている。


「て、てめぇ、何をして……!」


 周囲の男達が、フェイちゃんに飛び掛かった。でもフェイちゃんは軽やかな動きで男達をかわすと、かわしながら男達の腰についていた武器を回収。それらを床に落とし、勝ち誇るように笑った。


「は、はえぇぞこのクソガキっ……!」

「ただもんじゃねぇ……けど、こっちは五人だ。どうしても喧嘩したいってなら、本当に怪我をしても知らねぇからな。たっぷりと遊んでやるから、覚悟しろよ」

「……」


 男達の雰囲気が変わった。先ほどまで、チャラけた雰囲気ではない。本気になった目で、フェイちゃんを睨みつけている。

 子供相手に本気になるなんて、本当に大人げない。そもそもフェイちゃんが喧嘩を売っているんじゃなくて、男達が勝手に喧嘩を売っているのだ。

 ……いや、若干挑発的な事も言っていたか。


 まぁこれ以上騒ぎが大きくなるのもマズイ気がする。フェイちゃんの雄姿も堪能できたわけだし、そろそろ止めよう。


「──お前ら、うちの店でなにやってんだあああぁぁぁぁ!」


 今度こそ本当に入ろうとしたのに、また先を越されてしまった。

 次にお店に入って行ったのは、知らない女の人だった。ボサボサの髪の毛をポニーテールにした、ワイルドで目つきの悪い女性だ。口には煙草がくわえられているんだけど、火はついていない。そして手には木の棒が握られており、まるでどこかのヤンキー女子のようである。


「つ、次はなんだ……!?」

「女将さん!」


 ミルネちゃんが彼女の事を、女将と呼んだ。

 女将さん?この怖そうな女の人が?ここって、宿だよね。


「あ、あんたがここの女将か。なぁ、聞いてくれ。オレ達はただ、宿代を安くしてほしかっただけなんだ。それなのにこの獣人族のガキが生意気な態度で接してきて……オマケにオレ達がコイツを虐めてると勘違いしたクソガキがオレ達に喧嘩を売って来たんだ」

「ち、ちが……!」

「違うだと!?こっちには証人が五人もいるんだぞ!全員、お前のその悪い態度に腹を立てたんだ!これだから、獣人族は嫌なんだよ!嘘はつくし臭いし態度が悪くてよく吠える!何の存在価値もねぇな!」

「……」


 ミルネちゃんは再び黙り込んでしまった。その耳と尻尾が垂れ下がり、彼女が酷く傷ついた様子がよく分かる。


「……何の価値もないのはあんたらの方だよ」

「ぶっ……!」


 女将さんが静かにそう呟くと、手に持ったその木の棒がフルスイングで振られた。振った棒は、もれなく男の一人の顔面にヒット。男はホームランでも打たれたかの如く飛んでいき、そして机の上に降り注いで机を破壊した。

 なんの躊躇もない一撃は、とても清々しかったね。


「な、なにしやがるクソアマアアァァ!」

「そっちこそ何をしてくれてんだい!うちの看板娘のミルネが、存在価値がないだぁ!?ふざけた口をきく奴はこのあたし、イギータがぶっ殺すからね!」

「やっちまえ!ここまで舐めた事されたらもう黙っていられねぇ!」

「ああ!」


 男達が全員で、女将さんに飛び掛かろうとした。けど、さすがに今度こそは本当に私の出番である。

 建物に入った私の触手が、男達を一瞬にして払いのけて吹き飛ばす。さすがに食べるまではしないよ。まぁ彼らが本当にどうしようもない悪党なら、食べるけど。


「……私の友達のお店で、何をしているの?」

「アリス様!」


 私の姿をみたミルネちゃんの耳と尻尾が復活して、ピンとたつ。


「ま、魔物……!?いや、こいつはまさか……!」

「滅殺の悪魔……!」


 触手をうねらす私の姿を見た男達の顔面から、分かりやすく血の気が引いた。

 男達にも耳と尻尾があったら、シュンとなっていた事だろう。ミルネちゃんとは対照的にね。

 まぁこの人たちに耳と尻尾があっても、全く可愛くないのだけど。むしろ、あったら引きちぎってやる。ミルネちゃんを傷つけた罰にね。


「もう一度聞く。私の友達のお店で、何をしているの?」

「す……すみませんでしたぁ!」

「た、助けてくれぇ!」


 男達は一斉に謝罪の言葉を口にすると、慌てて逃げて行った。でも女将さんに顔面をホームランされた男を置いて行こうとするので、触手で持ち上げて彼らに向かって投げ捨てておいた。すると協力して担いで連れて行ってくれたので、まぁ今回は見逃しておいてあげよう。

 でも次もし同じことをしたら、食べる。


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