転移魔法
カラカス王国での一件も落着し、私達はデサリットへと帰って来た。
デサリットは相変わらずと言った様子で、私達がデサリットを出る前と変わらない、平和な様子である。
でも、実は平和ではなかったらしい。お城に帰って来て、早速その話を聞かされた。
「怪しい人が、町を攻撃してきた?」
「はい」
そう訴えて来たのは、テレスヤレスだ。旅で疲れ、自室に直行しようとした私を呼び止め、廊下の途中でそんな話をしてきた。
ネルルちゃんとフェイちゃんに、カトレアとはお城について解散となった。カトレアは王様に、カラカスでの出来事を報告に行き、ネルルちゃんとフェイちゃんは自由時間だ。たぶん私と同じで、休みに行ったんじゃないかな。
私も早く休みたい所ではあるんだけど、そんな話を聞かされたらそうは言っていられない。
「それは、普通の人間だった?」
「普通かどうかは、判断しかねます。しかし町の兵士の方を攻撃し、殺そうとしたので殺しました。数はおおよそ百人程度。誰も降伏も逃走もしないので、一人残らず殺しました」
「……」
見ていないので確証はないけど、ほぼ間違いなくそれは殉教者だ。神は私をカラカスにおびきよせ、その間にデサリットを攻撃してデサリットを滅茶苦茶にしようとしていたのだ。
カラカスとこのデサリットへの攻撃は、完全に連携がとられている。もしかしたら、他の場所でも攻撃があったりして……。まぁギギルスは平気だろう。あそこにはバニシュさんがいるしね。ここへの攻撃も、テレスヤレスが配置されていたので被害なく済んだ。
カラカスに引き続き、神様の思惑通りには相変わらず行っていない。きっと神様は今頃、唇をかみしめて悔しそうな変顔を晒しているに違いないよ。
「……ダメでしたか?」
報告を聞き、黙った私が怒っていると思ってしまったのか、テレスヤレスが不安げに聞いて来た。
「ダメじゃない。よく守ってくれた。偉い」
テレスヤレスを称えるため、私は触手を伸ばしてテレスヤレスの頭をなでなでしてあげる。
するとテレスヤレスの顔のない顔が僅かに紅潮し、顔を手で押さえて嬉しそうにしてくれた。
案外テレスヤレスって、可愛いね。その行動や仕草に、乙女を感じる。
「他には何かあった?」
「特にありません。強いて言うなら、人間の通訳の方に相変わらず避けられているようで……でも仲良くなるためアプローチを仕掛けてみました」
ほほう。私との仲ですら微妙な距離をとるリシルシアさんと、仲良くなるためのアプローチとは興味深い。効果があるなら是非とも私も試してみたい所である。
「どんな事をしたの?」
「後をつけて、ずっと傍を歩いたり、眠っている時は枕元にずっと立っていました」
それは、思ったよりも怖いアプローチだった。
テレスヤレスがずっと付いて来て、何をしている時も傍で立っている姿を想像してほしい。不気味すぎる。
「……リシルシアさんの反応は?」
「最初は叫んで逃げ回っていましたが、叫ばなくなって受け入れてくれました。それから三日程一日中傍にいたら、何も言わなくなったんですよ。仲良くなれたと思います」
それは受け入れてくれたんじゃなくて、諦めたんだ。
なんか昔、テレビで見た事がある。とある動物は、自分の無限の体力を利用して別の動物をストーカーし続け、ストーカーしてくる者に対し警戒し続けるため満足にご飯を食べる事も休息も出来ずに衰弱した動物を、最後にパクリと食べるらしい。
それと同じだよ。きっとリシルシアさんも、三日間ろくに眠る事が出来なかったに違いない。
「そうなんだ。それは良かった」
「はい」
テレスヤレスが嬉しそうなので、私はそう言うしかなかった。
そこでテレスヤレスとは別れ、自室に向かう途中で噂のリシルシアさんと遭遇したよ。
彼女は私が前に買ってあげた、竜語で殺と書かれたシャツを着て廊下を歩いていた。何故か、超絶ラフな格好である。その目の下にはクマが出来ており、最後に会った時よりもやつれてとても気分が悪そうだ。
「……」
「……」
リシルシアさんと目が合うと、彼女の方からふらついた足で私の方へと寄って来る。そして、身体に縋りつかれた。向こうから近づいて来てくれるなんて、リシルシアさんと知り合って初めてのことだ。
「……服、ありがとうございます」
「う、うん……」
それだけ言うと、リシルシアさんは去って行った。
彼女には強く生きて欲しい。例え怖い魔物に囲まれても、ストーカーされても、前を見て歩くのだ。
お城に戻った次の日から、またフェイちゃんとの修行が始まった。毎日彼女の剣を受け止め、たまにお城の外へと出掛けて魔物を倒して帰って来る。そんな日々の繰り返し。
ただ、お城に戻ってくると私の癒やしが出来た。その癒しとは、カトレアという存在だ。カトレアは毎日私と抱き合って話をする時間を作ってくれて、リーリアちゃんがいなくなった穴を少しは埋めてくれるようになった。
ちなみに、たまにキスもしている。そのキスは長かったり短かったりと……その日の気分と雰囲気によって違う。
こんな美人さんが、私の恋人でいいのかなとたまに思う。しかも、リーリアちゃんという存在もあっての上だ。これでリーリアちゃんも加わったら、贅沢過ぎて罰が当たりそう。でも当たってもいいから、リーリアちゃんにも加わってもらいたい。
そんな気持ちで毎日を過ごしている。
と、目標だった転移魔法を覚えた。
名前:アリス 種族:邪神
Lv :3127 状態:普通
HP:62516 MP:33193
『アリス』習得スキル一覧
・聖女
・亜空間操作
・スキルイーター
・アナライズ
・自動回復
・菌可視化
・土壌再生
・土内移動
・言語理解:人族
・言語理解:竜族
・言語理解:魔族
・邪神Lv4
・怪力LV3
・遠目Lv2
・俊足Lv2
・透視Lv1
・隠密行動Lv1
・気配遮断Lv1
・暗闇耐性Lv3
・自然環境耐性:熱Lv1
・自然環境耐性:水Lv1
・聴覚強化Lv4
・嗅覚強化Lv4
・感覚強化Lv4
・即死耐性
『アリス』習得魔法一覧
・フィオガ
・フィオガバース
・フィオガジャッジ
・フィオガクロウ
・ラグラス
・ラグジクス
・ラグネルフ
・ラグロフティ
・シャモール
・グラシャモール
・リズベシャモール
・ファストシャモール
・テラ
・テラブロー
・テラブラッシュ
・テラガルド
・テラルード
・テラクェール
・グロム
・グロムリーパー
・グロムゼロン
・グロムボルド
・ネロ
・ネロレック
・ネロエグザム
・ネロボルティ
・ガオウサム
・フィールン
・風刃
・ハスタリク
・エンドスカーム
・消滅魔法
・ジアスブロート
・レデンウォール
・リザレクトワープ
新たに火の魔法を2つ覚えた所で、ワープ魔法のリザレクトワープを覚えた。魔法の力が籠められた水晶を自分で設置して、その場所に世界中どこからでも自由にワープする事が出来る魔法だ。
火と雷と風の魔法を鍛えれば覚えられる事は覚えていたんだけど、どうやら最後まで各属性を極める必要はなかったらしい。それぞれ4つずつ覚えた所で、転移魔法が私の魔法に加わった。
早速カトレアに頼んで魔力が籠められる水晶を用意してもらい、水晶に魔力を籠めて自室に設置してみたよ。試しに外に出掛けてから転移魔法を発動させてみたら、成功。私は一瞬にしてデサリットの自室へと戻ってくる事が出来た。これで私はいつでも自由にデサリットに帰ってくる事が出来るようになったわけだ。
あとは世界中にこの水晶を張り巡らせれば、リーリアちゃんがどこへ行っても追いかける事が出来るようになる。亜空間に水晶を大量にいれて準備してあるので、後は現地に赴いて設置するだけである。ふふ。楽しみだ。
「アリス様、何かいい事でもあったんですか?」
今日は、フェイちゃんと城外へ魔物退治に出かける日だ。私は自分ではいつも通りのつもりだったんだけど、人通りの多い街のど真ん中を颯爽と歩く姿を見て、フェイちゃんがそう声を掛けて来た。
フェイちゃんと出かける時は、私はいつも通りの格好である。触手をオープンに曝け出し、顔を隠しただけのただの魔物。だからいっつも注目を浴びる事になる。
「……少しだけ、あった」
「もしかして……カトレア様と何か……?」
フェイちゃんは頬を僅かに赤く染めながら、私の耳元で呟いて尋ねて来た。
この子、案外そういう話が好きだよね。リーリアちゃんが知らないようなエロい知識がついていそう。
でもそうじゃない私が上機嫌なのは、転移魔法を覚えたからである。
「ないと言えば、嘘になる」
「っーー!」
私の答えに、フェイちゃんは声にならない声をあげて喜んだ。反応が面白いので、触手で頭を撫でておく。
「──なんだと、てめぇ!」
そうして歩いていると、突然怒鳴り声が聞こえて来た。
怒鳴り声は、私達が通り過ぎようとした建物の中から聞こえて来た。喧嘩かな。普通なら、巻き込まれないようにさっさと通り過ぎる所である。
でも私は嗅ぎ覚えのある臭いを感じ、通り過ぎるのをやめた。そして窓から中を覗いてみると、そこには私が予想した通り、ミルネちゃんがいた。