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帰りも空の旅


 ザイール諸王国は、その後正式にデサリットへの侵攻を取りやめる事を発表した。元々カラカス王国以外の国々は、別に自らデサリットへ攻め込もうという意思を見せていた訳ではない。カラカス王様や、その他の国々に合わせていただけだ。だからカラカス王国がやっぱりやめたと言うなら、他の国もそれに追従する。

 ただ、カラカス王様の急な方針転換に、各国の王様達は当然驚きを隠せない様子だった。でもカラカス王様は、カトレアが発言していた神という存在を引き合いに出して神の危険性を周知する事により、各国の王様達を納得させてみせた。

 神様と言う存在を会議で否定しておきながら、またもや急な方針転換に王様達は驚いていたけど、突然の山の崩落を目の当たりにした王様達は、それだけの力を持つ何者かがいる事は認めざるを得ない。神様は山を崩落させる事が出来る力を有している。そして平気で大勢の人々を殺そうとする。そんな存在が裏にいるとなれば、警戒せざるを得ないだろう。奇しくも、カトレアがこの町に来て神の危険性を示し、戦争を止めると言う目的は神様自身の行動によって達成させられた。

 これでまた一段と、神様が行動し辛くなる事だろう。


 その他の処理は、この国の問題だ。王様達に約束した支援をどうするか、それはカラカス王様が決める事。私達に出来る事はなくなり、各国の王様達も矢継ぎ早にクルグージョアを去って行ってしまったので、それに倣って私達もデサリットに帰る事となった。


「……帰りも、ワイバーンなんですか?」


 私とカトレアが初めてキスをした、お城のヘリポート。そこに私達の荷物が乗った馬車があり、ワイバーン数体にロープが繋げられている。

 ネルルちゃんお察しの通り、帰りもワイバーンによる空の旅だ。先に他のデサリットの兵士達は出発しており、集合地点で落ち合う予定である。

 彼らは私達よりもけっこうハードなスケジュールをこなしている。お城についたと思ったらこの間の騒動で、騒動が終わったと思えばさぁ帰ろうだからね。私だったら訴えるね。でも彼らは文句を言わずに行動している。


「勿論!あたしが責任もって送り届けるから、安心してね!」

「そ、そう言う事ではなくてですね……」

「行きましょう、ネルルさん!」

「う、うぅ……」


 フェイちゃんに手を引かれ、ネルルちゃんが馬車の中へと乗り込んでいく。

 フェイちゃんはすっかり空を飛ぶことにハマってしまったらしい。帰りもワイバーンで送ってもらえると聞いて、喜んでいたくらいだ。


「……シェリー。大丈夫ですか?」


 兜を外し、素顔を晒すシェリアさんは笑顔を見せている。でもカトレアはその笑顔が心配らしい。静かに、心配そうに声を掛けた。


「……うん。アンヘルの事は、本当にショックだった。お父様も何でもないみたいにしてるけど、彼を信じて息子のように接して来た分、相当ショックだったと思う。でもいつまでも下を見ている訳にもいかないからね。あたしはこの国を、お父様と一緒に今まで以上のいい国にしたいと思ってる。もうアンヘルを惑わした神に、付け入る隙は作らないよ」

「期待しています。貴女と、カラカス王と、カラカスの人々に幸があらん事を」

「ありがとう、カトレア」


 シェリアさんはお礼を言って、そしてカトレアを抱き締めた。カトレアもシェリアさんを抱き返し、2人でしばし私たちの目の前で抱き合う。


「アリス様も!」


 カトレアとの抱擁を終えたシェリアさんが、私の方に手を広げながら突撃してきた。そして有無を言わさず私をその両手で抱きしめ、包み込んでくる。

 ……鎧が硬くて、柔らかさがない。せめて、上だけでも鎧を脱いで抱きしめてくれないかな。そうすれば彼女の柔らかさを堪能出来るはずなのに。


「本当に、世話になった。デサリットには追って、使者を送るつもりだ。勝手な願いだが、この先は手を取り共に歩んでほしい」


 カラカス王様が、改めて頭を下げながらカトレアにそうお願いをした。


「勿論ですわ。父上には私から話を通しておきます。父上はザイール諸王国の脱退を懸念していたので、きっとお喜びになるはずです。それからこれは内緒ですが、父上はカラカス王様の事を一番に心配していました」

「……ふ。ゲイルグにはよく伝えておいてくれ。カラカス王が、頭を下げて謝っていたとな」

「伝えますわ。では、失礼いたします」

「ああ」


 カトレアはドレスの端をつまんでスカートをあげ、カラカス王様に頭を下げて馬車へと向かって歩き出した。私も並んで歩きだすと、カトレアが腕を組んでくる。

 そして幸せそうな笑みを浮かべ、顔を肩に埋めて来た。


「……」


 私はその時、リーリアちゃんとくっついている時とは別の幸せを、彼女から感じた。勿論リーリアちゃんとくっつてい歩くのも凄く幸せだ。でもカトレアとのスキンシップも同等くらいの幸せで……私は心が蕩けそうになってしまう。


 リーリアちゃんが、何故カトレアと私が恋人になるのを許可したのか、その意味が今分かった気がする。


 リーリアちゃんは私の気持ちを、見抜いていたのだ。私は自分ではリーリアちゃん一本だと思っていたけど、実は違う。カトレアにも惹かれていて、その魅力にとっくの昔に虜になっていた。でもリーリアちゃんがいるから、私は彼女を心の底で諦め、つっぱねていた。そんな私の気持ちに気づいていたリーリアちゃんは、だからカトレアに私を任せたのだ。

 彼女の優しさと気遣いを感じる。


 そう気づくと、やっぱりリーリアちゃんに会いたくなる。カトレアと一緒に、私を幸せな気持ちにさせてほしい。

 でも今はとりあえず、このお姫様から貰える幸せで我慢しておくしかない。リーリアちゃんは、未だに私の下に帰って来てくれないから。


「カトレア様。お手をどうぞ」


 馬車へ行くと、フェイちゃんが一丁前に馬車から手を差し出し、カトレアを迎え入れた。


「ふふ。ありがとう、フェイメラ」


 その手を取り、カトレアが馬車へと足を踏み入れる。

 続いて私にも同じように手を差し出してくれて、ここへやって来た時と同じ、4人の女の子だけの空間が出来上がる。

 フェイちゃんと、ネルルちゃんと、カトレアと、私。


 もしかしたら、カトレア以外にもネルルちゃんとフェイちゃんも、将来私と恋人になったりして。2人とも可愛いし、凄くアリかもしれない。

 そして出来上がる私のためのハーレム空間……。いや、冗談だよ。リーリアちゃんとカトレアは別として、2人はこんな魔物が恋人とかきっと嫌でしょ。

 でも、一緒にいられたらなとは思う。皆で一緒にいるのは、楽しいから。


「出発するよ!」


 外からシェリアさんの掛け声が聞こえ、ワイバーンが空を飛んだ。するとロープに引っ張られ、私達が乗る馬車も揺れながら浮かび始める。


「ひぃ!」


 すぐにネルルちゃんが悲鳴をあげ、私の触手にしがみついて来た。

 安心させるように、彼女を触手で拘束しながら頭を撫でてあげると、それでも尚触手にしがみついて離さない。可愛い。


 カトレアは私の本体の隣に座りって腕に抱き着き、フェイちゃんは窓から乗り出して外を見ている。どちらも可愛い。

 けど、フェイちゃんは落ちないように気を付けて欲しい。本当に今にも落ちそうだから。万が一落ちそうになったら、そのお尻を触手が掴み取るからね。それは決してセクハラではない。人命救助だ。


 こうして私達はカラカス王国を後にした。空から見下ろした町、クルグージョアは、左右の囲んでいた山が来た時と比べて半分ほどの大きさとなり、相対的に町が大きくなったように見える。

 この国は、運よく神様からの支配から免れる事が出来た。神様からもたらされた被害もほぼなく、神様はさぞかし悔しがっている事だろう。


 ざまぁみろ、神様。今も昔も、人間は神様が思うようにはいかない。これからも、私が邪魔してあげるから覚悟してほしい。そして機会があれば、私が殺す。かつてレヴ達がしたのと、同じように。


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