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大切な存在


 キスは、それはそれは長い時間続いた。たまに遠慮がちにカトレアの舌が私の唇を舐めて来て、背筋がゾクゾクする。

 でもやがて、カトレアの顔が真っ赤に染まり切った所でカトレアから唇が離された。


「ぷはぁっ!」


 唇を離したカトレアが、私の首に手を置いて抱きしめたまま息を大きく吸った。

 息を止めていたんだね。道理で息遣いがないと思ったんだ。


「ふふ。コレでリーリアさんに追いつきました。私もアリス様とキスをし、アリス様と恋仲と言う事です」

「それはちょっと違うと思う」

「ええ!?キスまでしたのに!?」

「不意打ちのキスは、ノーカウント」

「酷いですわ!私、初めてのキスだったのに!私を弄んだのですね!?アリス様の鬼畜!」


 カトレアは怒っているようで、全く怒っていない。その表情は笑顔だし、いつまでも私に抱き着いたまま離そうとしないからね。

 私もそんなカトレアを抱きしめ返している。このお姫様に、笑顔が戻った事が嬉しいから。あと、初めてのキスを私にくれた事も嬉しい。私は既にリーリアちゃんとしちゃったけど……私は今、幸せな気持ちだ。

 て、これってもしかして、浮気という奴になるのではないだろうか。


「ちなみにリーリアさんには許可を貰っていますよ。アリス様と、キスをしてもいいと」

「そうなの?ならよかった」


 許可を貰っているなら、浮気にはならないはず。だから私は胸を撫でおろして安心したよ。


「いや、よくない。よくなかった。どうしてリーリアちゃんがそんな許可を」


 私は慌てて訂正したよ。

 だって、私のキスをリーリアちゃんがカトレアに許可していたとか、どういう事よ。リーリアちゃんは、私の事が好きなんだよね。私の恋人なんだよね。私を嫁にしたいんだよね。だったらキスを許可する訳がない。

 もしかして私、リーリアちゃんに見捨てられたの……?私が顔を隠していないとうまく話せない、コミュ障の気持ち悪い魔物だから、だからレヴと一緒に去ってしまったんだ。別れの挨拶をせず、手紙も残さずに去ったのは、そのせいだったのか。


 ヤバイ。泣きそう。


「安心してください、アリス様。リーリアさんは、ちゃんとアリス様を愛していますよ。私にキスを許可したのは、リーリアさんが留守の間、アリス様を任されたからです。今は私がアリス様を支え、リーリアさんが帰ってきたら二人でアリス様を支える存在となろうと。そう約束したのです。勿論アリス様が私も求めてくだされば、ですが」


 求めればと言ったけど、今のキスは本当にただの不意打ちだったよね。私が許可せずに唇を重ねられてしまった気がしてならない。

 でもリーリアちゃんがそういう意味合いでカトレアにキスを許可した事は、分かった。安心した。泣きそうだったけど、元気出た。

 でもね、リーリアちゃん。人の唇を奪う許可を、勝手に誰かに出さないでくれるかな。

 いやそれよりも、私がいない間にとんでもない約束をしたね。私を支える存在って、それってつまりそう言う事だよね。


「……それはつまり、二人で私と恋人になる……約束をしたと言う事?」

「恋人だなんて、そんな。結婚です」

「けっ、こっ……ん」


 言葉が詰まりかけた。

 リーリアちゃんとはなんとなく、そんな風に話は進んでいた。まだ先の話だろうけどね。でもそこに、カトレアも入り込もうとしている。

 そういえば前に、結婚は一人まで決まっている訳じゃないと、カトレアがリーリアちゃんに言っていたっけ。この世界で一夫多妻は、割と普通の事なのかな。

 だとしたらまぁ……カトレアとリーリアちゃんがいいというなら、私としてもアリよりのアリだ。カトレアはキレイだし、たぶん私自身の中でも大切な存在だから。




 そう考えると、私の中で欲望が爆発した。私はそっと触手を伸ばし、カトレアの両手を拘束する。


「あ、アリスさ──」


 そして私の名を呼ぼうとした彼女の唇を、今度は私から奪って見せた。今度は先ほどのような、軽いキスではない。私は彼女の口内に舌をいれ、彼女の味を内側から堪能する。


「んっ、ふっ」


 やがてカトレアの方からも私を求めて舌を絡めて来て、そうしていると段々と息が荒くなってきた。彼女が興奮してくれていると、手に取るように分かる。

 そうなればもう止められない。私はカトレアの服の中にそっと手を忍ばせると、彼女の服を脱がせ始める。

 この子は今日この瞬間、私の物となる。誰にも渡さないため、私の痕跡を彼女の身体に刻むのだ。


「きて、ください……アリス様」

「……愛してる、カトレア」


 私は彼女の耳元でそう呟くと、月明りに照らされるカトレアの身体を本能の赴くままに貪るのだった。




 という妄想を、カトレアはしているようだ。


「え、えへへ。しょんな、ダメですよアリス様。こんな外で、誰かが来てしまいますわ」


 目の前で顔を真っ赤にし、興奮しているカトレアはすっかりいつものカトレアだ。

 傷ついてはいるだろうけど、その傷を癒やして前を向かせてあげる事はできる。

 でも成り行きでこんな感じになったけど、本当にいいのかな。優柔不断のクズだと、周りから思われたりしない?いや、ハーレム物は割と嫌いではないよ。主人公モテモテで、可愛い女の子に囲まれている姿を見ると、いいなぁ私もそうなりたいなぁと思うからね。


 ……リーリアちゃんと、カトレアか。この世界の2大美少女と呼べる2人を、侍らす私。もうこの世の全てを手に入れたようなもんじゃね。

 それくらいに、2人を手に入れるという事は大きい。


「……」


 というか、実は私は気づいていてスルーしていたんだけど、私の後をつけてきた人がいるんだよね。その2人は壁に隠れてずっとこちらを見ていたんだけど、当然私とカトレアがキスしていた所も目撃されてしまっている。


「ネルル。フェイ」

「は、はい!」

「……」


 私が声をかけると、フェイちゃんが素直に大きく返事をして壁から出て来た。その後で、申し訳なさそうにネルルちゃんが姿を現わす。

 2人とも、顔が真っ赤だ。


「も、申し訳ありません!お二人がお部屋を出て行くのに気づいて心配で後を付けて来たのですが、ま、まさかあんな事になるなんて……!い、いえ、私は何も見ていませんよ!?アリス様とカトレア様がキスしていた所なんて、何も見ていませんからね!」

「そうですね!私もネルルさんと同じで、見てはいましたけど……目を手で覆っていたので何も見えませんでした!でもお二人がキスするシーンは、月明りに照らされて幻想的で……私もいつかあんな風に……見ていませんけどね!」


 2人とも、絶望的に嘘が下手である。

 そもそも私が2人の気配に気づかない訳がない。私が気配に敏感だと、フェイちゃんは身をもって知っているし、ネルルちゃんも理解しているはず。

 それでもつけてくるとは、良い度胸である。


「二人とも、見ていたし聞いていたのですね……」


 2人の登場に一番戸惑っているのは、カトレアだ。

 キスシーンをみられた事で戸惑っているのではない。話を聞かれていた事に戸惑いを隠せないようだ。


「……はい」


 申し訳なそうに肯定する、フェイちゃんとネルルちゃん。


「……聞いていた通り、デサリットがアスラによって攻められたのは、私のせいでした。お二人は私を──」

「カトレア様のせいではありません!」

「カトレア様のせいじゃないです!」


 2人がハモって否定した。私と同じように、カトレアのせいではないと堂々と宣言してみせてくれたのだ。


「カトレア様を手に入れるため、国を裏切ろうとした人が悪い。それだけです」

「カトレア様がキレイなのは確かにそうだとは思いますが、カトレア様を無理にでも手に入れようとした人の心が真っ黒に歪んでいただけです。気持ち悪いです」

「フェイメラさんの言う通りです!カトレア様が気に病む必要なんて、全くありません。どうか、ご自分を責めるのはおやめください。スキルがどうのこうのという話はよく分かりませんが……少なくとも私達は一連の出来事をカトレア様のせいだなんて思いません。むしろ、お守りしてあげたいと思います!」

「……それが全て、私のスキルによる物だとしたら?私が貴女達をスキルで魅了し、意のままに操っていたとしたら、どうですか?」

「……魅了とはつまり、カトレア様を傷つけたりできなくなる状態の事を言うのでしょうか」

「そうですね。魅了された者は、私の悪口を言ったり攻撃が出来なくなります」

「それでは、失礼します」

「はい?」


 首を傾げたカトレアに、ネルルちゃんが近づいて行くと突然カトレアの頬にビンタを繰り出した。乾いた良い音が響く。中々の威力だったと思うよ。そんな威力のビンタを、ネルルちゃんは何の躊躇もなくお姫様の頬に繰り出したのだ。


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