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演技


 武器を手にした町人が、数人こちらへと向かってきている。彼らの目には殺意が宿っており、ダメージを負った私の命を狙っているのは明らかだ。

 ステータスを確認すると、やはり殉教者だった。

 私は触手を駆使すると、襲い掛かって来た町人の剣を受け止めて、弾き返す。更に他の町人には触手を振り払って吹き飛ばし、引き下がらせた。


「なんだ!?お前達、どういうつもりだ!?」

「……」


 殉教者に対し、シェリアさんが怒鳴りつける。

 けど、殉教者は黙って再び襲い掛かって来た。先程触手で吹き飛ばされた町人も、攻撃が浅かったため起き上がるとこちらに向かってきている。


 更に、増援が現れた。建物の上から飛び降りて来た殉教者が、こちらに向かって飛び降りて槍を突き出しているではないか。


「よせ!彼女は魔物だが、この町を救った救世主だ!攻撃する必要はない!」


 シェリアさんの問いかけに、耳もかさない。仕方ないと言った様子で、シェリアさんが剣を抜いて正面から迫りつつ殉教者の剣を、剣で受け止めて攻撃をとめてくれた。

 しかし、別の殉教者は止まらない。そちらは自分でなんとかしてくれと言う事だね。


 私はまず、空から降って来る殉教者に対して触手を伸ばした。のだけど、触手が彼に斬られながら逸れてしまう。それでも、落下地点を放す事には成功したからよしとしよう。

 更に別の殉教者が背後から斬りかかってきている。その攻撃は、本体の腕で白羽取りをする事で防いで見せた。それから蹴りを見舞う事で、彼は地面を転がって行く。


 明らかに、私の動きはいつも通りではない。動きは鈍く、目の前の殉教者を食べる事もできないのだから、誰の目で見ても明らかだ。


「シェリー!アリス様はもはや、満身創痍です!このままでは……!」

「分かっているが……!こいつ、強い!」


 シェリアさんは一人の殉教者と、壮絶な打ち合いを行っている。殉教者のレベルは確かに高いけど、シェリアさんよりは低いから任せて大丈夫のはず。

 まぁ本心を言えばさっさと倒してこちらをどうにかしてほしい所なんだけど、今はそれでいい。


 カトレアも、分かっていてわざと言っている。


 そうして私が満身創痍アピールをすると、向こうから次から次へと殉教者がやってきてくれた。今が最大のチャンスと踏んだのだろう。全力で私を倒すため、この場に10人程の殉教者がやってきた。

 たぶんだけど、敵はコレで全部かな。私が満身創痍なこの機会を逃し、手を抜くとは考えられないからね。


「……」


 シェリアさんの相手をしている殉教者以外が、そちらには目もくれず私の方へと一斉に襲い掛かって来た。魔法を使える者が2人、後方で魔法を発動させてまずは火の矢が複数私の方へと飛んでくる。

 私はその矢を、触手で食べた。やや遅れてやってきたのが、剣を手にした殉教者。私をその剣で斬り刻もうとするけど、私の間合いに入るまでもなく私の触手が通り抜けてその身体は足を残して消滅。残る足も、別の触手が食べて早速1人が死んだ。

 更に別の殉教者が背後から迫っている。そちらにも触手が襲い掛かり、一口で食べて消滅した。


 ここまでの出来事は、一瞬である。私の動きは完全にいつも通りに戻っている。お察しの通り、先ほどの満身創痍がどうのこうのは嘘である。多少ダメージはあるし身体はダルいけど、こんな雑魚たちに負ける程のダメージは負っていない。殉教者をおびきよせるための演技で、負けるつもりはないから安心してほしい。


 という訳で別の殉教者をパクリ。またパクリ。この世の物とは思えない不味さの彼らを、私は容赦なく食べていく。そしてあっという間に、あとはシェリアさんが相手をしている1人だけになってしまった。


「こ、コレは……?」


 シェリアさんは、本気で私が満身創痍だと思っていた。近くでおきた出来事に驚き、手を止めている。彼女が相手をしていた殉教者も同じだ。


「っ!」


 そして何かを悟ったのか、殉教者が背を向けて逃げ出した。勿論その背中から私の触手が襲い掛かり、その殉教者も食べてあげた。こうして、周囲の殉教者はいなくなったのだった。


「……演技だったのか」


 シェリアさんもそう悟り、ため息をついてから剣を鞘に納めた。


「そう。今のは全部、この町に潜んでいた殉教者。彼らをおびき寄せるために、芝居をした」

「カトレアも、分かっていたんだね」

「はい。驚かせてすみません」

「いや、いい……」

「い、一体何が起こってるんだ……?」


 私が破壊した家の家主や、周囲にいた殉教者ではない住民たちが、私達に注目してかなり戸惑った様子を見せている。


 彼らからしてみれば、山が崩れてもうおしまいだーという時に、空から私が降って来て、かと思えば土砂を巻き上げる程の強風が吹き荒れ、次は風で飛ばせなかった巨大な岩を私が砕いてまわり、それが終わったかと思えば殉教者が私に斬りかかって来て町中で戦闘がおきた。その戦闘で、人が魔物に食べられてしまった後である。


 中々に目を疑うような出来事が、次から次へと代わる代わるおこった。


「この方は、デサリットの守護者たるアリス様だ!そしてこの方が、デサリットの姫カトレア様!お二人が、ある者の企みでおこされた山の崩壊から、この町を守ってくださったのだ!先ほど襲い掛かって来た者達は、町を破壊しようとした者の仲間である!」

「シェリア様だ……兜がなかったから気付かなかった。久々にお顔を見た」

「た、確かにあの方はカトレア様だ。近くで見ると更に美しい……」

「デサリットの守護者というと、滅殺の悪魔と名高い魔物の……アリスだろ?」

「あ、あの魔物が、たった一人でアスラ神仰国の軍勢を退けたと言う……!」


 人々の反応は、色々だ。シェリアさんの言う事をどう受け止めたらいいか、その判断は中々まとまらない。

 私はそれよりも、顔を隠したい。顔を晒したうえで注目を浴びるとか、拷問だ。どこかに顔を隠す物はないだろうか。

 周囲を見渡すと、シェリアさんのワイバーンに赤い竜の兜がついていた。私がそちらに駆け寄ると、ワイバーンがビックリしたけど委縮したようにおとなしくしているので、その間に兜を回収させてもらって被ってみる。

 ……汗の匂いがする。けど、不思議と悪くはない。むしろ良い匂いな気がする。そして顔も隠せる。完璧だ。


「……何をしているんだ?」

「さぁ……?」


 私の行動を、町の人たちが不思議そうに見ているね。けど今の私は顔を隠した完全体だ。いくら見られても……いいという訳ではないけど、まぁ顔を隠していないよりは落ち着く。


「まんまと引っ掛かってくれましたね。今のでこの町に潜む殉教者は全てでしょうか」


 そこへカトレアが私の腕に抱き着きながら、耳元で囁くように言って来た。


「たぶんそう。手を抜く理由が、ない」

「そうですね。コレで、全てが……いえ、まだ終わってはいませんね」


 とりあえず、カラカス王様が神様に与する原因は排除出来た。けど、まだ終わってはいない。カトレアはそう言って、少し悲し気な目をした。そして私の腕に抱き着く力が強くなる。

 意味は分からないけど、とりあえずその頭を撫でておく。そうすると、カトレアに少し元気が戻った。

 ただ、周囲の目は痛い。美しいカトレアが、シェリアさんの兜を被った魔物の私に抱き着き、頭を撫でられている。嫌でも目を引いてしまうよね。


 まぁ今の私は顔を隠しているし、耐性がある。こんな視線、どうってこない。カトレアに元気がつくなら、そうするだけだ。


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