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ちょっと行ってくる


 崩れた山は、クルグージョアへと向かって流れ込もうとしている。その土砂の量は大量で、止める事など叶いそうにない。

 ワイバーンに乗って空からその光景を見下ろす私達は、その光景に圧倒されている。

 山が崩れるなんて、普通はあり得ない。こんな光景は前の世界でも見た事がなくて、凄い迫力だ。


「ああ……クルグージョアが……!」


 目の前で起きようとしている惨劇に、シェリアさんが兜を脱ぎ去って嘆いている。その目には涙が浮かんでおり、目の前のこの状況にショックを受けているようだ。


 私を殺すために発動された魔法であの町の人たちを──あそこにいるはずのフェイちゃんやネルルちゃんも、殺される訳にもいかない。


「シェリア。土砂の通り道に行って」

「どうするつもり?あの土砂を止めるなんて、もう……」

「いいから、アリス様の言う通りにしてください!」

「っ!」


 シェリアさんは目の前の光景に弱気になっている。それをカトレアが叱りつけるように強く訴えると、ワイバーンの進路が変わった。そして私に言われた通り、土砂が町へと流れ込もうとしている進路上に辿り着いた。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「えっ、ちょ……!」


 私はワイバーンから飛び降りると、真っ逆さまに落下していった。そして地面に直撃して止まり、周辺に大きな砂煙が巻き起こる。

 ちょっと痛い。思えば私、けっこうなダメージを受けた身体なので無理は禁物だった。まぁ、スキルの自動回復のおかげで急速に回復中なんだけどね。身体の一部が吹っ飛んだような状況でなければ、怪我は割とすぐに治る。


「……」


 地面に降り立った私は、迫り来る目の前の土砂を見据えた。

 山が、町を飲み込もうとしている。その光景を前に、私は掌を差し向けて魔力を集中させる。と、掌に紋章が浮かび上がる。


 ──その時だった。


 もう一方の山から光が放たれ、その光によって山の一部が消滅させられた。体積の一部を失った山はバランスを失い、やがて私が対峙している山のように、土砂となってクルグージョアへと向かって流れこんでいく。

 まさかの、同時爆発だ。私を殺すためだけなら、片方の爆発だけでいいはず。それなのに、何故もう一方まで……。

 と今考えても仕方がない。


「テラクェール」


 私は迫り来る目の前の土砂に向かい、魔法を放った。

 すると、地面に巨大な魔法陣が出現。地面が大きく揺れだし、魔法陣の中の大地が真っ二つに割れだした。傾斜のある場所なんだけど、傾斜にあわせて上手く穴があく形となっている。


 突如として出現した大地の裂け目に、土砂が次々と流れ込んでいく。裂け目を飛び越える砂や岩もあるけど、それらは大した量も勢いもないので、私の方に直撃しそうな物だけを触手で食べて処分。しばらくして土砂の勢いは弱まって来た。


 それで安心している場合ではない。私はすぐさまもう一方の土砂へと向かって駆けだした。けど向かう先には町がある。町を飛び越えて向こう側に行かなければいけない。勿論飛び越えていく事は出来るけど、陸路では時間がかかる。


「アリス様!」


 上空から声がした。それはワイバーンに乗ったカトレアの声だ。

 私はフィールンでワイバーンに向かって糸を伸ばすと、ワイバーンの身体に糸がくっついた。そしてワイバーンは高度をあげ、私の身体も引っ張られて浮かび上がって行く。


 ワイバーンが向かう先は、勿論もう一方の土砂が迫り来る方だ。土砂はもう町に迫っている。あまり時間はない。

 急いでそちらの方へと向かっているんだけど、ワイバーンにぶら下がっている私の事を忘れないで欲しい。このままの高度ではお城の壁に直撃してしまう。


 まぁそこは糸を引き寄せる事で糸の長さを調整し、ギリギリやり過ごした。


 そこから更に高度をあげたワイバーンが、お城を超えて反対側の山側へと到着した。


「後は自分で行く」


 あちらに聞こえたかどうか分からないけど、私はそう声をかけると糸をワイバーンから離した。そして再び、真っ逆さまに落下していく。

 今度は、テラクェールは間に合わない。土砂はもう既に町に到達していて、町を飲み込もうとしている。そんな所にテラクェールを発動させれば、町の人たちが巻き込まれて大勢が死んでしまうだろう。

 ……しかしそれもやむなしか。大勢のために、最小限の犠牲で済むならそちらを選ぶべきだ。


 でも、私は空から見てしまった。

 土砂から逃げようとする、男の人。彼は必死に女性と子供の手を引き、走っている。親とはぐれてしまったのか、どうする事もできずに泣いている子供。まだ幼い姉妹が、助け合いながら走る姿。逃げるのが無駄だと悟り、その場に留まる人々。

 そんな人々に向かい、テラクェールを発動させる訳にはいかない。


「テラ。テラクェール」


 真っ逆さまに落下しながら魔法を発動させると、町に迫る土砂手前の地面が空高く隆起した。隆起した地面が壁となり、そこに流れ込んで来た土砂が隆起した地面に直撃。流れ込んで来た大量の土砂は空高く舞い上がり、重力に引っ張られて町に降り注ごうとする。

 同時に私は、土砂の上流に向かってテラクェールを発動させた。その場を通り過ぎてしまった土砂は仕方がない。けど、上流に亀裂を作る事で今後の土砂の勢いを止める事が出来る。


 そこで私は地面……というか、民家の屋根の上に落下した。屋根を突き破り、床に強く打ち付けられて再び痛い思いをする。


「な、なな、なんだ!?」


 リュックを背負った家の住人が、突然空から降って来た私に驚いているね。でも私は仰向けに床に寝転がりながら、穴の開いた屋根から空を見る。

 その空を、大量の土砂が覆おうとしている。土砂の中には巨大な岩も含まれており、そんな物が町に降り注げばやはり大勢が死んでしまう。


「リズベシャモール」


 私は仰向けに寝たまま空に向かって手を伸ばし、魔法を発動させた。すると、風が巻き起こった。風は竜巻のように激しい物で、家の中を破壊しながら空へと向かって昇って行く。


「うおあああああああぁぁぁ!」


 家の住人が叫んで壁に捕まるけど、風はその壁ごと巻き上げて屋根をも吹き飛ばす激しい物だ。家の中は一瞬にして滅茶苦茶になり、瓦礫が風と一緒に、降り注ごうとする土砂に向かって飛んでいってしまう。

 けど、住人は私が触手で掴み取って飛ばないようにしてあげた。そして地面に伏せさせ、風に巻き込まれないようにした。


 風が土砂にぶつかると、土砂は風によって巻き上げられて行く。そしてぺちゃんこになった山の方へと飛んでいって雨のように降り注ぎ、返却する形となる。大抵の土砂は、そんな感じで町に降り注ぐのを防ぐことが出来たんだけど、巨大な石はそうはいかなかった。

 巨大な石は奇しくも私の方へと向かって飛んで来て、私を押しつぶそうとしている。崩れた家の周囲には、家の住人だけでなく他にも人がいる。空から降って来て、風を巻き起こした私に周囲の人々の視線が集まっている形だ。けど、注目すべきは私ではない。降って来る巨大な岩の方だ。


「……え?」


 さすがに巨大な陰に気づいて見上げた人々が、岩に気づき始めた。けどもう遅い。どこにも逃げられない。あんな物が直撃したら、普通の人はぺちゃんこ確実だ。

 そうはさせないため、私は触手を伸ばして構えた。そこへ降り注いだ巨大な岩が、触手によって受け止められる。けど岩は凄く重くて、私の足元の地面がヒビ割れた。それだけではなく、崩れて抉れた。それでも私は倒れない。踏ん張り、落下によって加えられたエネルギーを抑えきると、岩が止まった。それから、人がいない方へと投げ捨てて地響きを起こす。


「……」


 さすがに、めっちゃ重かった……。受け止めた触手と身体に、けっこうなダメージをくらったよ。身体がちぎれるかと思った。けど、受け切った。

 他にも今のより小さな岩が飛んできているね。私はすぐに駆けだすと、フィールンで糸を駆使したりしながら岩の落下地点にやってきて触手を伸ばし、岩を食べたり受け止めたりしながら全ての岩を処理。

 本来であれば土砂が流れ込み続けるはずなんだけど、それらはテラクェールによって亀裂に飲み込まれて行ったおかげで、止められている。飛んでくる岩の処理が終わった所で、全ての土砂を止める事に成功した。

 のだけど、めっちゃ疲れた……。元々消滅魔法を喰らった身体で、色々と無理をしすぎた。まぁそれはいいとして、フードが消し去られてしまって顔が露出している。顔を隠したい。大胆に開いた背中はサービスだからどうでもいい。とにかく顔だ。顔を隠す物がほしい。


「アリス様!」


 そこへ、ワイバーンにのったカトレアとシェリアさんがやってきた。私の傍に着地すると、カトレアはワイバーンを飛び降りて私の方へと駆け寄って来る。そして、抱き締められた。

 その行動に、シェリアさんも続いた。私の方へと駆け寄ってくると、輝いた目を私に向けて興奮した様子で手を取って来る。そして、ぶんぶん振られた。


「アリス様!貴女は一体どれだけ凄いんだ!?あんな土砂を防いでしまうなんて、あまりにも凄すぎる!尊敬する!いや、感謝する!このクルグージョアを守ってくれたことを、心の底から感謝する!ありがとう!」

「……」


 抱き締められながら全体重をかけられ、その上で手を振られると、なんだか頭がグラリと来た。HPはあるんだけど、くらったダメージが多いせいだろうか。私の身体から力が抜けると、カトレアとシェリアさんが慌てて身体を支えてくれて、倒れずには済んだ。


「ど、どうしたの!?大丈夫、アリス様!?」

「ご、ごめんなさい、アリス様!アリス様のお身体の事も考えず……!」

「……大丈夫。でも、少しダメージがある」


 気丈に振舞ったものの、身体がダルい。

 そしてここは、敵地だ。殉教者が潜む、危険な地。ダメージのある私を、彼らが放っておいてくれるはずがない。


 私は心配してくれる美少女2人をよそに、彼らの動きを目で追っていた。


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