おじさんと再会
岩の巨人は私の意のままに動く。洞窟を進んで歩いて進んで行き、そして向こうからこちらに向かって歩いて来た人物とはち合わせる事になった。
私も岩の巨人に合わせて天井を糸で移動していたんだけど、彼の方が遥かに大きくてよく目立つ。天井にいる私に気づきもしないで、彼らは岩の巨人君に釘付けだ。
まぁ岩の巨人がいなくとも、この広い洞窟の中天井に張り付いて気配を消しているヒトデに気づく人は、そうそういないだろう。
「──なんだね、このブサイクな岩石は」
突然目の前に現れた、岩の巨人。それを見て感想を述べたのは、偉そうなおじさんだ。
その片眼鏡と、黒い爪。長い耳を忘れはしない。私を踏みつけ、見下し、死の淵にまで追いやった人物とこんなに早く再会する事になるとは思いもしなかった。
傍には骸骨の巨人も数体いるね。松明を手にして周囲を明るく照らしている。
どうやら彼らもまた洞窟内をうろついているようだ。私と会ってからけっこうな時間が経過しているはずだけど、もしかして迷子かな。だとしたら、うける。
驚いたのは、その偉そうなおじさんの言葉を理解できたことだ。コレはたぶん、カエルを食べて手に入れた言語理解のスキルのおかげだろう。前は何を言っているのか全く理解できなかったからね。
説明でこのスキルの力の事は分かってはいたんだけど、実際目の前で急に理解できるようになると、ホント驚く。
「分かりません。洞窟内にこんな魔物がいるとは聞いた事がありませんので……」
骸骨の言葉も理解できてしまうのが、面白い。
「まぁなんでもいいよ。雑魚のようだし、ブサイクだからいらない」
むぅ。
雑魚と言ったり、ブサイクと言ったり、人が魔法で作り出した岩の巨人をバカにされて腹が立つ。
やっちゃってください、巨人さん。私が許可する。ま、岩の巨人は私の意思でしか動かない訳だけども。
「なんだこいつは。オレとやる気なのか」
「お、お下がりください、バニシュ様!」
「構わん。オレがやる」
大きく腕をあげ、拳を振り下ろそうとする岩の巨人を前にして偉そうなおじさんは余裕だ。片手をポケットに手を突っ込んだまま動かず、岩の巨人の動きを見守っている。
バカめ。そのまま潰れてしまえ。
私は岩の巨人に命じ、その拳を振り落とさせた。こうして私はリベンジを果たしたのだった。めでたし、めでたし。
……なんて事はなくて、岩の巨人の拳は偉そうなおじさんによって止められていた。おじさんの人差し指の細い爪一本と、岩の大きく頑丈そうな拳。それがぶつりかりあって動きが止まっているんだから
、不思議な光景だ。
「カーズド・エンド」
偉そうなおじさんが魔法を発動させると、岩の巨人が突然崩れ去ってしまった。巨人だった物は元のただの岩に姿をかえ、始めからそうだったかのように動かなくなる。
カーズド・エンドは、アリスエデンの神殺しにはなかった魔法だ。一体どういう魔法何だろう。興味あります。
「今のは魔法で形を作られ、操られていただけだ」
「で、では操っていた者が近くに?」
「ああ、いるね。天井に」
偉そうなおじさんは私に目を向ける事もなく、私に向かってその長い爪を指して来た。指した方向を骸骨が手に持った松明で照らして来ると、私の姿が露になる。
最初から、私の存在はバレていたのだ。岩の巨人の正体もしかり。
「なんだね、あの魔物は」
「知りません。見た事がありません」
「ふぅん。ま、どちらにしろいらないね。ゴミみたいな魔物に用はない。次に行くよ」
「……」
改めて言葉が分かると、やはり偉そうなおじさんは私をバカにして見下している事がよく理解できてしまう。
おじさんのレベルは……やはり前と同じで、ステータス画面を開いても文字化けしていて見る事ができない。このおじさんは、レベル1300台のモンスターですら瞬殺してしまうような化け物だ。レベル1000そこそこの私が喧嘩を売ってもいいような相手ではない。
むかつくけど、相手が私に興味がないというならこちらから喧嘩を売るべきではないだろう。でも、だけど、本当にむかつく。
……大丈夫。これまでだって、高レベルの相手に勝って来たんだ。レベルもあがって様々なスキルを持つ私に勝てる者なんて、そうそういない。
これまでの経験が私に自信をつけさせ、ここで雪辱を果たせと自分の中の人が言っている。ならばその声に従おう。
風刃!
私は天井に張り付いたまま、下にいる偉そうなおじさん御一行に向かって風の刃を放った。でもそれは不思議な事に空中で霧散し、おじさん達に届く前に消え去ってしまう。
テラブラッシュ!
ならばと『テラブラッシュ』を発動させると、地面が揺れ出して紋章から大きな岩の腕が出現。岩の巨人なんて比にならない程の大きな腕が、大きく振りかぶっておじさんたちに襲い掛かる。
でもおじさんが爪で薙ぎ払うと、岩の腕が切り裂かれて一瞬にして無効化されてしまった。
「なんだ、この魔法は!あの魔物が使っているのか!?」
「落ち着け。魔法を使う魔物なんて珍しくもない。威力も大した事ないから慌てる必要もないだろう」
「バニシュ様から見ればそうかもしれませんが……今のはかなり高位の魔法では?」
「知らないよ。地属性の魔法には興味がない。それより、鬱陶しい。触りたくもないから君たちでアレをなんとかしてくれ」
「は、はい」
やはり、魔法はダメだ。
レベル差のせいだろうか。それとも何かスキルが関係しているのだろうか。こうなったら頼るべきはスキルイーターになる。近づきたいけど、素直に近づかせてはくれないだろう。
「ボーングラッチ」
おじさんばかりを気にしていると、骸骨が私の真下にやってきて剣を私に向かって放り投げて来た。あわてて糸を伸ばして避けたけど、私がいた場所と糸を伸ばした先の天井が、剣が突き刺さった衝撃で崩落。地面に突き落とされ、上に岩がたくさん降って来た。
勿論、今の私は岩で潰されたくらいで死にはしない。覆いかぶさってきた岩を食べながら上へ進み、顔を出す。
「ぬぅん!」
そこに待ち構えていたかのように、骸骨が大きな剣を振り落として来た。
でも、残念でした。聴覚強化で音を拾い、君の動きは分かっていたのだよ。私はフィールンで糸を骸骨の足に飛ばすと、本体を引っ張って骸骨の足に張り付く事によってその一撃をかわした。
でも私のいる場所が良く分かったね。もしかして君も聴覚強化持ってる?
名前:── 種族:ワグバゴ族アンデッド
Lv :890 状態:アンデッド
HP:13909 MP:3480
スキル一覧を覗くと、聴覚強化はなかった。その代わり、『感覚強化』という物がある。感覚が研ぎ澄まされると言うスキルで、よくわかんないけど気配とかに敏感になるって事なのかな。
とりあえず、そのスキルいただきます。
私は張り付いた骸骨の足にかぶりつくと、一口でその足を食べて骸骨から分離させてしまった。
「ぐっ!?」
慌てた骸骨が、自分の足ごと私を砕こうと剣を振り回して来た。でも私は更に上に進むと、骸骨のお腹にかぶりついて下半身と上半身を完全に分離させ、そこに襲い掛かって来た骸骨の剣も食べてしまう。
「な、なんだこいつ、何を……!」
兜越しに驚いた表情を見せる骸骨の顔に食らいつき、骸骨は沈黙。残る身体も食べ尽くし、跡形もなくなってしまった。
そして私はスキル『感覚強化Lv1』を覚えましたとさ。